地理学評論
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岳南地方の工業化
太田 勇
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1962 年 35 巻 9 号 p. 427-442

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抄録

わが国の工業化の過程で,工業発展が地域的にいかに異なつたかを考察する一端として,富士山麓紙業地域の調査をおこなつた.一般に産業の発展段階が低ければローカルな諸条件が工業の生産力や分布を規定しやすく,産業が高度化するにつれ工業存立基盤の地域的差異は小さくなる.本稿はここに焦点を合わせた調査の報告である.
当地域は現在わが国第一の紙業地である.今日の繁栄の基礎は,移植工業(洋紙)と土着の工業(和紙)が地元の社会的・自然的な諸条件-明治以後急速に進んだ農民の階層分化・殖産興業熱・恵まれた水利・原木の存在など-を活用して成立したときに築かれた.しかし二度の大戦を経て進行した重工業化は,もはや当地域の内部事情と深くは結びついていない.
工業が小規模で労働力を地元農村からのみえていた時代は,工業化に伴なう都市化は顕著でなく,労働力の農工分離も明瞭でなかつた.その分離を促進したのは,第一次大戦以降の全国的な工業化の波である.

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