1962 年 35 巻 9 号 p. 413-426
ベトナムが南北に分れているのは,その歴吏過程に深い相違があると考えられる.北ベトナムの場合,トンキンデルタは(広義にタノアデルを含めて)メコンデルタと異つて,古くから土地利用が進行していたところであるが,そのなかにも多くの異質的な地域性が見出される.そうした土地利用(生産方法の配置につながる)は,社会変革にともなつてもつとも著しい変化をしめすものであるが,生産方法を変える基礎的条件のごつとしての自然と,どのような関係をもつて変遷をしてゆくかを考察したいと考える.本稿は,歴史と実証を重んじたフランスの人文地理学者の調査をもととしたが,問題意識の点で私見を試みたものである.