日本で顕著な気候区界の一つであるいわゆる表日本と裏日本気候区を分つ界線は,これまで大体において北方の奥羽山脈から南西につづく背梁山地の分水界がこれに近いものと考えられていた.しかし実際にはかなり複雑で,主として地形の影響によって場所によってはこれを越えてかなり東の方にまで侵入している例も珍しくない.ここではこの両気候を区別する示標として降水の年変化型をとり, 1769地点の観測資料をもとにして考察を行った.その結果この裏日本気候は西の方は山口県の西部にまで達するか,この間において背梁山地の分水界を突破して東の太平洋斜面にまではみ出している場所が,ここで明らかにされたものだけでも33ケ所にも達し,その最も著しい例としては姫川や神通川にそって南の方にまでのびるもので,分水界から50km内外の距離にもおよんでいる.裏日本型は九州の北部で一旦消失するが,軽微ではあるが西海岸の地方で再び現われ,その南は薩摩・大隅両半島の南端地方にまでおよんでいる.ここではこれらの諸事実を明らかにした後に若干の原因的考察を行った.全体をまえ書き,研究の方法,両気候の境界線,九州の場合,要約の諸項に分け,この順序にしたがって記述する.