地理学評論
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紀の川平野における灌概水利の研究
堀内 義隆
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1967 年 40 巻 12 号 p. 663-678

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抄録

和歌山県橋本市より下流に拡がる紀の川平野は,河岸段丘や扇状地が発達し,沖積地は,和歌山市付近を除いては,比較的少ない.この平野における灌漑用水源は,紀の川と多数の溜池が主である.溜池と小河川の利用は,技術的に容易であったため,近世以前に開発されたが,紀の川本流の利用は最下流の宮井堰を除くほかは,土木技術の進んだ徳川中期以後である.この河川,溜池灌漑の開発過程を考察するとともに,その実態を明確にするよう努めた.河川灌漑は1957年に井堰統廃合が行われ,近代的な4井堰になった.統合の機会に井堰構造や用水管理の面で,近代化が進められたが,末端部分には封建性のものが残存している.一方溜池灌漑はほとんど部落中心の管理で,近代化がおくれている.このように紀の川平野一帯には,灌漑構造に新旧二つのタイプが併存していることが明らかになった.さらに河川灌漑が次第に地域的に,発展の傾向がみられ,とくに統合後は灌漑地の変更や,水路の改修,運営面における近代化など,地域的な動きが活溌であるのも特色である.発展に伴うこれら二つの地域的特色に加えて,現在進行中の紀の川用水の計画によって,この地域の灌漑構造に大きい変化が考えられる.その結果農業生産においても,大きい発展が期待されている.

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