抄録
島畑景観とは,水田の地盤との高度差が,多くの場合1m以下の,いろいろの形の畑が水田と混在する景観である.かかる景観がいかなる地域に生れているかを明らかにするのが,本研究の目的である.最初に天竜川下流の浜名,磐田平野について,島畑の分布と微地形,水利との関係を追求して成因を明らかにした.この方法に従って,調査地域を尾張平野,矢作川・豊川・相模川・久慈川・那珂川などの下流平野,信濃川・阿賀野川の沿岸の一部,刈谷田川の下流平野,さらに利根川・鬼怒川沿岸平野,中川流域,房総半島の西岸の養老・小櫃・小糸川下流の平野,九十九里平野他2地域に広げて考察した.なお従来の島畑の成因に対する主な見解のうち,水害復旧の結果生れたとか,水田本位の富水性の地域性の現われであるとか,水田一毛作地域における近郊化の現われであるとの見解を批判し,筆者は緩い地表の勾配,小さい地表の起伏,水位の低い用水路あるいは乏しい用水などの土地的諸要因が存在しているところに,古来から水稲作重視の日本の農業政策に応えた,農民の水田拡張の意慾が働いて,かかる島畑景観が生れたという見解をとるものである.