抄録
近年,わが国でも,メンタルマップに対する関心が寄せられているにもかかわらず,実証的な研究はほとんどなされてこなかった.そこで,筆者はわが国における都市域のメンタルマップの名古屋市における事例研究を行なった.都市域のメンタルマップについては,リンチLynchのエレメント抽出以後も,地理学においてはほとんどなされなかったが,1960年代後半にアダムスAdamsがくさび形のメンタルマップの仮説を示すことにより,1つの議論の材料が与えられた。しかし,アダムスの仮説は実際のメンタルマップを説明するには不十分であったので,それは再検討をせまられた.再検討の方向は,1つにはアダムスの仮説を,分析方法を洗練させることによって修正するものであり,もう1つはメンタルマップの操作的な概念の変更であった.本研究では,筆者はこの2つの方向に従って実証的に両者を比較検討した.その結果,アダムスの仮説は概念化が不十分であり,メンタルマップの概念化は行動的アプローチを基礎に行なわれる方がよいことが理解された.そして,その行動的アプローチによって,都市域のメンタルマップはより一貫した説明が可能になることが理解された.