抄録
第2次大戦後,全国的な工業化・都市化の進展に伴って,都市用水需要の増大は既存の農業用水との競合問題を惹起し,多目的ダムの建設を中心とする水資源開発が盛んになった.その多くは,ダム建設による河川流水の制御=渇水増強を通じて,旧来の農業水利権などを一応保障しながら,これに加えて新たに都市用水の水利権を設定するというものであったが,これにとどまらず,農業用水部門と都市用水部門との直接交渉による農業用水から都市用水への水の移譲(いわゆる水利転用)もみられるようになっている.
この水利転用を考察する場合,水利権譲渡の過程や取水量,転用の費用等と並んで,新規参入部門の既存の水利秩序への対処の仕方や水利調整機構の変化に目をとめておく必要があると思われる.すなわち,その水系がこれまで抱えてきた水利問題の特性と,それに基礎づけられて形成された水利秩序に対して,水利転用はどのような位置を占めるのかという点が重要な問題となる.本稿では,この問題を農業用水から都市用水への水利転用が行なわれた高梁川水系の事例によって考察した.