地理学評論
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昭和初期の埼玉県北部農村における青果物産地市場の展開と産地形成
新井 鎮久
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1982 年 55 巻 7 号 p. 472-489

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抄録
本研究では,農村不況期の青果物産地市場と産地仲買商人の動向を明らかにし,その動向が野菜の産地形成にいかなる影響を及ぼしたかについて検討を試みた.以下,概括すると次のようになる. A-1) 農村不況期の埼玉県北部農村では,繭価の暴落を補うべく野菜・果樹等の商品作物栽培が積極的に推進された. 2)その結果,土壌の理化学的性質の影響を強く受けて,利根川右岸の冬・春野菜地域と洪積台地の果樹,夏・秋野菜地域とが形成された. 3) 両野菜地域の発展に伴い,首都近郊農業地帯の外縁部に適合した独特の流通組織-産地市場の濃密分布と仲買商の集積-が成立した. B-1) 利根川右岸農村における養蚕経営の固定性と肥沃な土壌によって枠組みされた普遍的な経営類型,単純化された作物編成とが,結果的に生産の集中と特産地的性格をもつ濃密産地を形成した. 2) 一方,大正末期の村農会指導の販路拡大策の成果が生産意欲を刺激し,生産の増大は組合組織の市場設立を促し,村農会主管の共同出荷体制を仲買人の参加しやすい産地市場体制に移行させた. 3) 特産地型市場の季節性と相侯って,零細農民の仲買業務への参加が行なわれ,限られた耕地の多角的利用を必要としていた農家との間に,野菜栽培の発展をめぐり,相互補完的な関係が創り出された. 4) 産地市場体制の確立と仲買人の活動とは,出荷組織や交通手段が未発達で,かつ近隣の消費市場も未成熟であった昭和初期の野菜生産農家にとって,かなり効果的な生産拡大要因となった. 5) こうして,産地形成にとって不可欠の流通経済組織を確立した利根川右岸農村の野菜栽培は,おりから進行する地方軍需工業都市化や,東京の急速な膨張に伴う農産物市場の拡大に支えられて,品目的な多様化と栽培期間の通年化を変化の基調に据えながら,発展の過程をたどることになった.
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