地理学評論
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東京都中野区と武蔵野市における旧農家の土地所有と利用の変遷
田中 恭子
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1982 年 55 巻 7 号 p. 453-471

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抄録

第2次世界大戦以前に都市化が終了した中野区中央3・4丁目と,大戦前・後にまたがって都市化が進行した武蔵野市西久保の2地区において,都市化に対応した農民の土地供給形態と,その後,現在に至るまでの旧農民の土地所有と土地利用の変遷を比較した.戦前の住宅は主に借地上に建設されたため,中野区の農民は耕地を貸宅地に転換し,宅地地主となった.ところが,武蔵野市の場合,中野区と同様に終戦までに宅地地主に転じた農民も存在したが,終戦後も農業を継続していた約半数の農民は, 1960年前後から土地を切り売りしはじめ,やがて種々の不動産経営を展開するようになった.現在,両地区とも農業生産は消滅し去った市街地となっているが,旧農家の貸地上に宅地化が進展した中野区では高層・高密度化が進み,一方,武蔵野市では今なお旧農家が所有する駐車場などの土地がオープン・スペースを提供している.つまり,第2次世界大戦の前・後で農民の土地供給が貸地から土地売却へと変質した結果,戦前の都市化地域と戦後の都市化地域では市街地の土地利用パターンも著しい対照を呈するようになった.

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