抄録
日本における地場産業の代表の一つとされる足利織物業について,生産から流通にわたる広範な社会的分業のしくみを織物業の生産構造ととらえ,各生産工程など構成要素について調査し,生産構造の地域的展開の研究を行なった.足利織物業が地場産業として完成するのは,明治30年代以降のいわゆる2期の時代であり,国内向け部門においてであった.各工程等は,それぞれの立地条件から次第に地域内に分散立地した.2期のピークである昭和初年では,織物業の生産構造の地域的展開は,足利の中心街を中心地区とする圏構造を示した.中心地区では,核に流通と原材料供給の機能が,核の周辺には製造統轄機能が分布する.周辺地区は分業の基幹をなす製造機能の地区である.そのなかに,自然あるいは伝統・技術にもとづく分業の補助的機能の地区が介在する.このような圏構造は,地場産業のうちの農村工業における生産構造の地域的展開の特徴と考えられる.