抄録
本研究は,身近に存在する生物と人間とのかかわりが,地域の自然・人文環境とどのように関連しているのかについて,大正期から昭和20年代にいたる時期の長良川流域における淡水魚介類の漁撈と食用を事例として考察したものである.考察の結果は以下のように要約できる.
長良川流域は,河況と魚介類の棲息相から8地域に区分でき,各地域の漁撈と食用の形態はそれに相応して異なる.漁撈は生業との時間的競合,漁具購入費用,漁撈蔑視観などによって制約されており,また,淡水魚介類の味,調理の容易さ,海産魚介類との競合などが食用に影響を及ぼしている.とくに積極的な漁撈活動はアユなど特定の魚種の商品価値の高まりによってもたらされた.