1992 年 65 巻 4 号 p. 297-319
本稿の目的は,開拓期の人口移動を熱力学のアナロジー(類比)により定式化したHotellingのモデルを取り上げ,それをブリュッセル学派による非線形非平衡システムの枠組みを通して再構築することにある.それは,従来の数理地理学の多くのモデルの特質である決定論的,普遍的な枠組みに代わって,人間の自由意志や事象の多様性を考慮しうるモデルを作る試みである.
再構築されたモデルは多くの型の動態を内包しており,従来の力学,熱力学のモデルとは違って,不均衡や不安定性がシステムの自己組織化をうながすきっかけになる.ほとんどの場合にシステムは決定論的に記述されるが,いったん分岐点にいたると,そこでは偶然性が重要な役割を演じることになる.こうしたモデルによって,明治・大正期の北海道開拓の事例が可能論的に解釈された.