1993 年 66 巻 12 号 p. 771-777
自然地理学(者)の科学(者)としての利点と欠点とを整理しなおすことにより,自然地理学の存在理由を水文学の立場から肯定的な意味で指摘することが本稿の目的である.自然地理学は,自然現象と人間活動との関係を常に主題とし,自然現象を地域的な視点から究明する科学であると広く考えられてきたが,「地域」は自然地理学にとって必要条件でこそあれ,もはや十分条件であるとはいいがたい.技術面のみでは解決が困難な環境と景観の分野には自然現象と人文特性の両面が深くかかわり合っており,時空間スケールを前提とする自然地理学が中心的な役割を演じる余地が残されている.自然地理学者は,人文地理学者が自然地理学に対して関心をもつ以上に,(人文)地理学的な考え方を常に意識して研究を進める必要がある.学際科学としての色彩が濃い自然地理学であるからこそ,データのとり方やその解釈に明確な独自性が要求されるのであり,比較水文学に代表されるように,研究対象がグローバルになればなるほど自然地理学的な手法の重要性と必要性は増すものと考えられる.