地理学評論 Ser. A
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文学作品から見た20世紀前半の隅田川の水質の変遷
谷口 智雅
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1997 年 70 巻 10 号 p. 642-660

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抄録

水質分析資料がない時代の水環境の復元方法として,本研究では文学作品中の水に関する文章に着目した.隅田川を中心とし,東京における文学作品中の水に関する生物指標および視覚的な表現を抽出し,それを現在行われている水域類型区分にあてはめ,20世紀前半の東京の河川の水質を推定した.
文学作品中の文章表現から推定した東京全体の水環境を見ると, 1920年頃にはすでに水質が悪化している河川や水路がかなり存在した. 1940年頃になると汚れた水域が増加しており, 1920年頃から1940年頃にかけて水質が一段と悪化していたことが,この方法により示された.同様の方法を用いて隅田川の水質を推定すると,すでに1905年には浅草付近で著しく汚れていた. 1915年になると,吾妻橋から清洲橋にかけて汚染が顕著で,白鬚橋や永代橋,佃大橋でも水質悪化を示すようになり,汚れた水域が拡大していた. 1935年になると,白鬚橋から永代橋にかけた全域で汚染が顕著になった.本稿では,得られた水質評価と土地利用あるいは工場数,人口変化との比較検討を行い,水質の悪化と人間活動が対応していることを示した.

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