抄録
八ヶ岳西岳の南西斜面標高1,900m付近にはミズナラ,チョウセンゴヨウ,カラマツの3種が混交する,日本列島では特異な樹種構成の森林が分布している.ここでは,その林分構造を紹介し,日本列島の森林植生変遷史を理解する上でこの混交林が重要な位置にあることを指摘する。胸高断面積比ではミズナラが最も優占し,チョウセンゴヨウは小径木が多い.カラマツは大径木が主体だが,小径木もある程度存在する.この混交林では優占3樹種がほぼ順調に更新している.このタイプの森林は日本列島ではほかには分布しない.一方,北東アジア大陸部ではこれと類似の森林が分布する.最終氷期の寒冷,乾燥気候条件下では中部日本にもこの混交林と類似する森林が分布していたと考えられる.その後の温暖,湿潤化に伴い,現在の位置に限定分布するに至ったと推察される.八ヶ岳西岳の南西斜面は現在でも比較的寒冷,乾燥気候下にあり,大陸型森林のレフュジーアとなり得る地域である.