アジアへの多国籍企業の空間的展開を企業組織の側面から明らかにする上で,製造業企業であっても非製造機能に対する分析は欠かせない.本稿では電気機械器具製造業に分類される日本の企業グループを対象として,それがシンガポールに設立した「地域オフィス」の活動特性と企業グループ内での役割を明らかにすることで上記の課題に迫る.まずアジアにおける日本の電機企業グループの立地展開を把握し,シンガポールと香港への非製造機能の集積を確認した上で,シンガポールの地域オフィスにっいて考察した.地域オフィスは管轄エリアである東南アジアに立地するグループ企業を本社に代わって一元的に統括するものではない.地域オフィスはシンガポールに移管・集約することで効率的となる機能を限定的に保持しているにすぎない.それは管轄エリアにおいて主に販売会社を展開する企業グループの場合,販売に関する管理業務であり,製造会社を展開する企業グループの場合製造会社に対する本社サービスの供給拠点としての機能である.