抄録
本稿の目的は,東北日本弧の非火山性外弧に属する上北平野の第四紀地殻変動を地形学的方法と火山灰編年学的方法によって区分・編年のなされた段丘の変位や基盤の地質構造から明らかにすることである.そして,以下のような結果を得た.
上北平野の西縁は,第四紀前期における三浦山断層と辰ノロ撓曲の活動によって奥羽脊梁山脈や三戸丘陵から分化した.辰ノロ撓曲の運動は鮮新世より第四紀を通じて継続してきた.この構造線は平野周辺の地域を上北ブロックと奥羽-三戸ブロックの2つのブロックに分けているようにみえる.平野北部では東西の軸をもつ褶曲運動が,平野南部では北方への傾動運動がみられる.北方への傾動運動は北上山地の曲隆を示唆する.ほぼ南北にのびる活構造は,第四紀の東北日本に卓越する東西水平圧縮の広域応力場のもとでの地殻短縮を示しているが,東西方向に軸をもつ地殻変動は同じ応力場では起こりにくい.
平野全体の隆起運動は少なくとも第四紀後期には継続している.段丘の変位が褶曲運動や傾動運動に伴うものであるとすると,上北ブロックは最近12万年間には0.1~0.2mm/年の速度で広域に隆起してきたことになる.
奥羽-三戸ブロックの広域隆起速度は,辰ノロ撓曲の活動を加えることによって0.3~0.41mm/年と推定される.上北平野のこのような広域隆起は,日本海溝から平野の沖合にかけて発生した大地震に伴う地殻変形,あるいは東北日本弧の長波長の地殻変動によるものと考えられる.