Geographical review of Japan, Series B
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近現代日本地理学史における社会的コンテキストと概念構成
個人史的事例研究
岡田 俊裕
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キーワード: 風土
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1993 年 66 巻 1 号 p. 1-17

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抄録

日本において,地理学研究が組織的・本格的に行われ始めたのは1920年代の半ばごろであろう.その後の日本では,十五年戦争によって中国などアジアへの侵略行為を続けた.このことは,日本の地理学研究に直接・間接に影響を与えた.敗戦後,日本はGHQの占領下におかれ,その間,地理学は社会科学的な研究への志向を強め,発展していった.
このような社会情況のなかで,飯塚浩二 (1906-1970) は積極的にそれに関与しつっ日本の地理学を啓蒙した.一方,辻村太郎 (1890-1983) は,直接的には社会情況に関与せず,アカデミー地理学の制度的・理論的樹立のために奮闘した.また三沢勝衛 (1885-1937) は,独学で地理学・教育学・自然諸科学などを修め,農村・地方の更生という実践的関心と結びっいた地理学研究と地理教育を展開した.
仮に,日本の地理学研究の流れを,「中央」の主流と非主流および「地方」の分流に三区分できるとするならば,辻村・飯塚・三沢をそれぞれの代表的存在の一人とみなすことができよう.辻村はおもにドイツ地理学の,飯塚はフランス地理学の影響が強く,三沢には欧米地理学の直接的な影響を認めることができない点でも対照的である.これら三者の研究活動の軌跡をたどるならば,近現代日本の地理学思想史を立体的に展望する端緒になると考えられる.
その際,次のような点を重視した.第一に個人史的な考察.それは,各学説を動的かっ多面的に把握するためであり,また,各研究者の業績の全体を視野に入れたうえで各部分の内容を理解するためでもある.第二に,学説と時代思潮や学問的環境との関連性の考察.独自の理念の下に一定の社会的責任を果たそうとするほどの研究者ならば,自己をとりまく時代思潮ないし学問的環境を鋭敏に受けとあ,その動向に何らかの形で関与しようとするからである.なお,学問の発達史において戦中と戦後の間に断絶はないと考えた.学問研究は,いっの時代でも特定の環境のなかでなされるのであり,程度の差こそあれ常に時代的制約を受けざるをえない.したがって,戦中の学問研究を特別視することはできないと考えた.

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