Geographical review of Japan, Series B
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1954年以降の総合商社による対加直接投資
栗原 武美子
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1993 年 66 巻 1 号 p. 52-69

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抄録
この論文は,カナダにおける総合商社(ここでは,戦後の日本貿易ならびに海外直接投資の主たる担い手たる九大総合商社をさす)の直接投資の基本的特徴と,その経済活動の立地を明らかにすることを目的としている。
カナダにおける日本の直接投資は,これまで相対的には決して大きくなかった。しかし,近年の投資額の増加は,カナダにおける日本の直接投資の影響力をますます高めっっある。この直接投資の重要な担い手の一っである総合商社に関しては,確かに1980年代に入って,日本の対加直接投資総額に占める割合において,相対的にその地位が低下したと言える。なぜなら,受入国の投資環境の変化と円高により,日本の製造業者や金融機関,不動産会社が巨額の投資を行なうようになったからである。にもかかわらず,日本の対加直接投資における総合商社の中心的役割は少しも低下していない。
カナダへの総合商社による投資は,主として商業,資源開発および製造業の3分野に集中している。商業投資は,自己資本100%の現地法人組織子会社や,販売会社の設立が中心である。商社が天然資源開発プロジェクトや製造業の合弁事業に参加する際,多くの場合商社の出資比率は少数であるが,商社は資源の長期購入契約を結んだり,製品の販売を一手に引き受ける。このように,総合商社の投資額は相対的に小さいが,その貿易促進力および合弁事業の組織力はきわめて大きい。このような総合商社の投資活動は,他に類を見ないものであり,その意味で日本の海外直接投資の独特の原型と考えられる。総合商社は1954年よりカナダの経済界で経済活動を行なってきた。市場の小規模性,オンタリオ・ケベック州を中心とする市場の位置,アメリカ資本への強い依存というカナダに特殊な要因が,100%子会社のカナダ現地法人の経済活動に影響し,このためカナダ会社は,しばしば同じ親会社によるアメリカ現地法人よりも下位に位置づけられている。商社は主要4都市に事務所を開設しているが,その立地選好は様々な要因の複合である。近年では,トロントがカナダの都市階層や経済活動の首位を占めていることに対応して,トロントへの本社の移転がなされている。また,米加企業が一般に選好するモントリオールよりも,日加貿易の窓口であるヴァンクーヴァーを選好するのが,日本の商社の特徴である。
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