2002 年 75 巻 11 号 p. 644-666
本稿では,1993~1998年に富山県において紛糾した「有害」環境問題を取り上げ,さまざまな場面ごとに諸集団が用いた多様なポリティクスを有するクレイムを通じて,テレホンクラブ等の施設が青少年にとって「有害」なものとして位置づけられる過程を考察した.法規制に賛同する警察を中心とした諸集団が盛んに用いた,「有害」環境によって青少年の健全さが失われるとするレトリックが,最も正当なものとして「地域」から支持され,当該施設は立地規制を受けた.同時に,優位な集団が主張した健全さという表象によって,逆にそこから逸脱している青少年が「有害」な存在として問題化されることになった.このような,問題が及ぶとされる地理的スケールの中で「有害」な意味を帯びた施設や主体を排除する活動は,「無害」な環境と主体のみで構成されなければならないとする地域アイデンティティを創出し強化するのである.