地理学評論
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ドイツ語圏人文地理学における現代社会の認識と地域概念
森川 洋
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2002 年 75 巻 6 号 p. 421-442

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抄録

今日の急激な社会変化に対応して,欧米諸国では地理学者の多くが地域概念に注目している.その場合に,社会科学としての人文地理学には今日の社会存在論に適合した地域概念を構築し,研究に利用することが要求される.本稿ではドイツ語圏における地域に対する考え方とその変化をたどり,今日論議されている問題点を紹介する.WerlenはGiddensに倣って現代社会をポストモダン社会ではなく近代末期として解釈し,近代社会の特徴を脱定着化,時空間を超えた社会システムの広がり,グローバル化としている.しかしその解釈は,伝統的社会と近代的社会の差異を中心に考えたもので,情報技術や交通の発達とグローバル化に基づく現代社会=近代末期社会の特徴を明確に示したものとはいえない.人文地理学で考えられた地域概念の発達史をたどってみると,「実在する全体的地域」から研究者の分析的構築物または思考モデルとみられるようになり,さらに,人間行為によってつくられた社会的構築物と考えられるようになった.ドイツ語圏では地域概念は今日なお玉虫色をなしていて種々の見方があるが,地域はグローバル化と平行して発展する傾向にあると考える人が多い.地域の特徴や形態は変化するとしても,それは将来もなお重要な研究対象として存続するであろう.地域的アイデンティティを加えた地域の重合関係や他地域との結合関係を中心とした地域構造の研究が今後重要であろう.地域の計画面における実用的価値も低下することはない.

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