2002 年 75 巻 8 号 p. 529-543
かつては日本アルプスのカール内にある岩塊堆積地形の多くがモレーンやプロテーラスランパートと考えられてきたが,その中に岩石氷河が含まれる可能性も指摘されている.この指摘の妥当性を検討するために,空中写真判読と現地調査を行った.その結果,岩石氷河と認定可能な地形が多数存在することが明らかとなった.たとえば,周縁部に切れ目のない連続性の良いリッジを持ち,その内側に同心円状の畝・溝構造を有する岩塊堆積地形や,畝・溝構造が未発達であっても前縁部のリッジが崖錐基部付近にある岩塊堆積地形は,形態と堆積物の特徴からみて,岩石氷河の可能性が高い.したがって,カール内の岩塊堆積地形を用いて氷河の消長や古環境変遷を論じる際には,あらかじめ地形の成因を十分に吟味する必要がある.