2004 年 77 巻 13 号 p. 903-923
本稿では,面的に偏在する空間財を評価する仮想市場評価法 (CVM) として,支払意思額 (WTP) を距離帯別仮想市場から推定する方法論を提示した.この手法を用いて,スギ花粉飛散量の減少による健康リスクの削減を意図した,スギ人工林整備の便益を評価した.その結果,便益に対するWTPは,世帯年収の影響を受けていることがわかった.そして,所得変数による便益移転評価モデルを用いて便益移転を行うと,山口県におけるスギ人工林整備事業(2002~2011年度)の便益は,山口県民にとって約144億円(現在価値化)の効果が期待できると推定された.このスギ人工林単位面積当たり便益は,スギ人工林密度の低い地域,世帯密度の高い地域で高くなる.また,便益の値は,スギ人工林密度の高い地域の中でも,世帯密度の高い山陽側で高いことがわかった.この推定便益は県林業費の約2割を占めている.