本稿は, 日本において日本語で公にされた樺太 (サハリン) に関する単行本・雑誌記事を「樺太論」と総称し, その20世紀の変容過程を考察した. その考察では, (1) サハリン島と大陸との関係および島南部の樺太と北海道の関係, (2) 一島単位の地域観の消長と政治的領域性との関係, (3) 樺太の日本領編入をめぐる領有観と回復観の関係, の3点を論点とした. まず, 領域性との関係から第二次世界大戦終戦を一つの転換点と見て, それ以前では領有直後, シベリア出兵期, 昭和戦前期に, 以後では1990年代に樺太論の画期を, おのおの見出した. その結果, 領有当初は北海道との関係が, シベリア出兵期には北サハリンを含めて一島単位で南北の地理的連続性に基づき大陸への連続性が強調された. また, 昭和戦前期には自然科学的に埋蔵資源への関心が高まったが, 地域観は南北で分断していた. 1990年代には一島統合的ロシア領サハリン観が卓越したことがわかった.