2024 年 21 巻 1 号 p. 76-84
本研究は、2020年初頭から世界的に猛威を振るった新型コロナウィルス感染症パンデミックの影響下において、社会的な人間関係がどのように変容したのかを、日本の「酒」と筆者の研究対象国であるイランの「チャイ」を媒体として比較考察することを目的としている。酒を酌み交わすという行為は日本文化の一端であり、多くの日本人からコミュニケーションツールの一環として捉えられていると考えられる。一方、イランでは宗教上の教義から禁酒が定められており、その代わりにチャイが広く愛飲されている。この様に社会的に顕著な差異がみとめられる両国間のコロナ禍における夫々の国民的飲料と人間関係の変容を調査した。その結果、日本では人間関係の在り方が変化し、感染拡大の収束後においても、これらの変化を維持・発展させようとする傾向が確認された。一方、イランでは、イスラーム社会特有の家族概念に基づき、対人関係に大きな変化は生じなかったことが示唆された。両国の社会環境と人間関係の相互関係を相対的に比較検証する。