宝石学会(日本)講演会要旨
平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成29年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
多変量解析の宝石学への応用
*江森 健太郎北脇 裕士
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p. 11

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抄録

予測手法としての多変量解析は「重回帰分析」「判別分析」「ロジスティック回帰分析」「数量化 I 類」「数量化 II 類」が一般的に知られている。中でも、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」は「量的変数(質量濃度等の量を持った変数)」である説明変数から「質的変数(合成、天然といった量を伴わない変数)」である目的変数を予測する手法なため、宝石鑑別に有効な手段であることが期待される。

判別分析は事前に与えられているデータが異なるグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に、どちらのグループに入るのかを判別するための基準を得るための正規分布を前提とした分類の手法である。宝石分野ではルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、 HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)やネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)の他、筆者らによる 2016 年宝石学会(日本)一般講演による「判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」といった研究例がある。

ロジスティック回帰分析はベルヌーイ分布に従う変数の統計的回帰モデルの一種であり、連結関数としてロジットを使用する一般化線形モデル(GLM)の一種でもある。確率の回帰であり、統計学の分類に用いられることが多い。ロジスティック回帰分析を用いると、事前に与えられたデータが A,B 異なる 2 種のグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に A である確率を求めることができる。

本研究では、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」を用いて「アメシストの天然・合成の鑑別」「ルビーの天然・合成の鑑別」「パライバトルマリンの産地鑑別」について研究、検討を行った。

アメシストの天然・合成の鑑別、ルビーの天然・合成の鑑別は、 LA-ICP-MS 分析結果を使用した。両者とも、判別分析よりロジスティック回帰分析の誤判別率が低く、有効であるという結論を得た。

パライバトルマリンは、ブラジル産、ナイジェリア産、モザンビーク産の 3 つの産地について、 LA-ICP-MS 分析結果、蛍光 X 線分析結果の 2 種類を用いて判別分析を行った。 LA-ICP-MS、蛍光 X 線ともに誤判別率が 0.2 を超えるため、判別機としての精度は低いが、ブラジル産を判別する精度が高く、 ブラジル産か否かを決める判別としては有効であることが判明した。

多変量解析による予測手法は、ブラックボックスを扱うことに非常に近いため、それだけで結果を出すということは危険であるが、鑑別の補助としては非常に有効である。

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