宝石学会(日本)講演会要旨
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2022年度 宝石学会(日本) オンライン講演会発表要旨
  • 渥美 郁男, 矢﨑 純子, 田澤 沙也香
    p. 3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    アコヤ養殖真珠は約 1.5 ㎜から 10 ㎜を超える大珠まで生産されている。中でも珠のサイズが5㎜未満の真珠は、真珠業界で通称「厘珠」(リンダマ)と呼ばれてきた。それらの中には時折、ユニークな素材として 2 個や3個の厘珠が養殖中に偶然癒着したものが有る。これらはツイン珠(双子)や三つ子として流通している。

    これらの真珠内部を観察するために μ- CT (X-ray computed micro‐tomography)で確認したので紹介する。一方で、小粒サイズのアコヤ養殖真珠と称するものに淡水養殖真珠が混入している事も報告されており、容易な鑑別法の模索も行われている。それらの母貝鑑別の現状と問題点についても簡略に報告する。

  • 佐藤 昌弘, 矢﨑 純子
    p. 4
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    真珠層は、炭酸カルシウムの結晶が積み重なりで構成されており、表面を拡大すると、指紋のような成長模様が観察できる。しかし、いわゆるハンマーマークと呼ばれる真珠のようにその積み重なり方により、実際の表面とは異なった見え方となる場合がある。

    本発表では、 表面に真珠層の“われ”に似た現象が観察できるが μ- CT 観察ではわれが確認できないシロチョウ真珠(図1)が時々見られることから、この現象の分析を行ったので報告する。

    真珠層の“われ”は、 温湿度の変化により真珠層の脆弱な箇所に起こるとされる劣化現象である。 “われ”は、 CT で確認できるが、 強い光を当てることで簡易的に確認することができる。 今回の試料真珠は、 “われ”のように強い光を当てると光が濃淡に分かれているように見える。しかし CT で確認すると、表面近くにわれはなかった。

    試料真珠の表面拡大観察により、その光の濃淡で分かれるところが、成長模様の境界となっていることがわかった。試料真珠の断面を光学顕微鏡、電子顕微鏡で観察したが、境界部に違いを見つけることはできなかった。

    また、シロチョウガイ貝殻にも同様の現象を生じた箇所はあり、表面は波打ったように見えるが、拡大すると成長模様の境界が存在していた。

    真珠層自体が半透明であることから結晶の成長方向の違いがこの現象の要因の一つではないかと推定した。

    このような現象は、シロチョウ真珠に多い。熱帯地方に生息するシロチョウガイはアコヤガイに比べ貝殻も大きく成長し、真珠層も厚い。分泌量の多さなどが影響するのではないかと考えられる。

  • 田澤 沙也香, 山本 亮, 佐藤 昌弘, 矢﨑 純子
    p. 5
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    蛍光観察では、アコヤ真珠の浜揚げ珠は黄色、漂白珠は青白色などの特徴があり、鑑別でも用いられている。しかし真珠は生体生成物であるため個々のばらつきがある。また、一般的な紫外線ライトは、点滅がわかるように青色等の可視波長の色が加えられているため、観察真珠の蛍光色に青が加わり、本来の色とやや異なって見えている場合も考えられる。

    本発表では、まず目視で可視波長カットのフィルターを用いた長波紫外線(365nm 付近)照射時の試料真珠の蛍光を観察した。

    次に、観察した試料真珠の 3 次元蛍光分光測定を行い、目視観察との比較検討を行い鑑別への応用を検討した。

    1.アコヤ真珠浜揚げ珠と漂白珠

    浜揚げ、漂白試料真珠を長波紫外線照射下で観察すると、浜揚げ珠は黄色味を帯び、漂白珠は青白色である。紫外線カットフィルターを通して照射したところ、漂白珠にもやや黄色味は確認できたが、浜揚げ珠に比べ青みが強い。

    次に、試料真珠の 3 次元蛍光分光測定を行ったところ、漂白前後で明らかなピークの変化が見られた。浜揚げ珠は、励起波長 290nm付近で 345nm 付近の蛍光ピークが現れ、漂白を行うことでこの蛍光は減少し、励起波長380nm 付近で 450nm 付近の蛍光が強くなり、漂白後に蛍光の青みが強くなる現象が測定された。

    アコヤ真珠の浜揚げ珠は、いわゆるアコヤ吸収と呼ばれる 3 つの小さな吸収があるが、年月で消失するとも言われ、蛍光測定の併用で、より正確に浜揚げ珠(未処理珠)の判別ができるようになると考えられる。

    2.その他の試料真珠

    放射線照射によって蛍光が弱くなることが報告されているが、処理真珠と未処理ブルー珠についても同様に観察測定した。

  • 尾崎 良太郎, 丸飯 虎太朗, 門脇 一則, 小田原 和史
    p. 6
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    真珠の構造色は、表面の真珠結晶層内のアラゴナイト結晶層とコンキオリン層で発生する光の干渉によって発色することが知られている。一般的な構造色では、反射光の干渉が色彩を決めることが多いが、アコヤ真珠の場合は、特に透過の干渉色が重要であることを小松氏は指摘している。我々は、透過の干渉色と反射の干渉色のメカニズムを光学の視点から考え、そのモデル化に成功した。

    真珠の光学特性は、透過と反射と散乱の組み合わせである。真珠核および真珠結晶層での多重散乱は Kubelka-Munk 理論で計算し、アラゴナイト結晶層とコンキオリン層での干渉は、 Transfer Matrix 法で計算した。計算で得られたスペクトルを色情報に変換し、その色情報に基づき OpenGL シェーディング言語で作成したプログラムで可視化した。

    図 1 は、コンキオリン層を 20 nm として、アラゴナイト結晶層が 360 nm のときの結果である。上段が写真であり、下段がコンピュータグラフィックス(CG)であるが、撮影角度に伴う干渉色のグラデーションの変化をよく再現できている。また、アラゴナイト結晶層を300 nm、 360 nm、 400 nm としたときの結果を図 2 に示す。結晶層厚の変化に伴う、干渉色のグラデーションの変化も再現可能である。今後は、 CG の更なる高度化を目指し開発を進める予定である。

    【謝辞】

    本研究は農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」の支援を受けて行われたものです。

  • 若月 玲子
    p. 7
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    今日のジュエリー市場では、調色や着色処理を施していない真珠であることを謳って“無調色”、 “ナチュラルブルー”など名称を冠して販売されるのをよく目にする。一方、通常見られないような色に着色処理を施した真珠はが、“ラベンダー”、 “ピスタチオ”、 “ショコラ ”等の名称で販売され、消費者にとってはこれまでにない色を楽しむという選択肢が広がったと言える。

    しかし、染料を用いての着色は、処理によって得られた効果が恒久的ではない可能性がある。汗、摩擦、光、熱などは真珠に褪色や光沢低下などをもたらす主な要因と考えられる。特に紫外線は日常生活中において常にさらされる頻度の高いリスクファクターである。そこで市場に一般的にみられる様々な色の真珠に耐光検査を行い、紫外線に対する真珠の色の耐久性および外観の変化を検証した。

  • 伊藤 映子
    p. 8
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    現在、市場に流通する真珠のほとんどは養殖真珠である。とりわけ、球形に近い形をもつ真珠の多くは有核養殖真珠であり、巻き厚が品質評価の重要な要素となる。軟 X 線レントゲン装置を用いて、真珠の内部構造や巻き厚を検査することが出来る。しかし、各種の母貝から産出される真珠のサイズはまちまちであり、核のサイズも個々に異なる。ここでは各種の真珠の巻きをどのように評価すべきかを検討した。また、宝石としての真珠に必要となる巻き厚についても考察した。

  • 小川 日出丸
    p. 9
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    ダイヤモンドの蛍光は、天然と合成の鑑別やグレーディングの際に活用されている。蛍光の色や発光の強弱などから、ダイヤモンドのタイプや色因等について重要な手がかりが得られる。通常、長波紫外線(365nm)短波紫外線(254nm)に対する蛍光を目視観察する方法が一般的である。

    ダイヤモンドに存在する不純物や欠陥などが蛍光に関わっているが、単一だけでなく複数の欠陥が存在している場合が多いと考えられ、蛍光の見え方は多岐にわたる。異なる欠陥の存在から、青色と黄色の蛍光が並立する場合、目視では白色に見えることがあり本来の蛍光を確認することが難しい。また照射される紫外線波長に反応しない欠陥を原因とする別の蛍光は、観察することができない。

    蛍光と光学欠陥の関連をみるために、蛍光分光スペクトルを測定した。蛍光分光では試料の蛍光スペクトルと励起スペクトル、それらの発光強度を三次元に表示が可能である。特定の蛍光ピークの励起スペクトルを測定すると、吸収スペクトルと一致するものが得られる。これに欠陥固有の吸収(N3 など)がみられる と、蛍光と光学欠陥の関連が確認できる。

    イエロー系ダイヤモンド 3pc について蛍光分光を測定した。測定範囲として、励起波長は220nm~700nm、蛍光波長は 230nm~700nm とした。

    ① Fancy Light Yellow

    蛍光スペクトルから、 440nm ピーク(青色)がみられた。 440nm にたいする励起スペクトルでは 415nm(N3)が確認された。

    ② Fancy Green Yellow

    蛍光スペクトルから、 440nm(青色)と530nm(緑色)にピークがみられた。 440nm にたいする励起スペクトルに 415nm(N3)、530nm にたいする励起スペクトルには503nm(H3)が確認された。

    ③ Fancy Orange Yellow

    蛍光スペクトルから、 540nm(黄緑色)、640nm(赤色)のピークがみられた。 540nmの励起スペクトルに 290,350,420nm band、640nm の励起スペクトルに 480nm band が確認された。

    光学欠陥として①は N3、 ②は H3、 ③では480nm band が確認された。 480nm band は構造が不明とされているが 640nm の赤色蛍光に関与していて、橙色の色調に寄与していると考えられる。

  • 林 政彦, 林 富士子, 安井 万奈, 山﨑 淳司
    p. 10
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    無色の合成ダイヤモンドで,メレーサイズのルースが鉱物・宝石の即売会にて手軽に購入できることは報告した.

    今回は,婚約指輪に使われる大きさ(Fig.1)であり,一見すると無色と思われた合成ダイヤモンドが,ガイ10万円以下で入手できた.このように価格も手頃であり,新しい商品となり得るのはないかと思われる.

    このダイヤモンドに付随の IGI(International Gemological Institute )による鑑定書には,「Laboratory grown diamond, weight 0.49ct, color J (very light blue), clarity VS1, cut good, polish good, symmetry good, fluorescence none.」と表記されている.

    販売会の会場では分からなかったが,後でよく観察すると,僅かに青色を呈しており, VSクラスのインクルージョンも含まれている(Fig.1).

    青色がホウ素に起因するものであることについては, FT-IR で確認できた(Fig-2).さらに,SEM-CL を観察すると,特徴的な発光スペクトルが見られた(Fig.3).

  • 北脇 裕士, 江森 健太郎, 久永 美生, 山本 正博, 岡野 誠
    p. 11
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    中国の鄭州は、工業用合成ダイヤモンドの世界的な生産地で、世界の需要のおよそ 95%を担っている。 ZhongNan Diamond Co., Ltd. 、Huanghe Whirl Wind Co., Ltd. 、 Zhengzhou Sino Crystal Co., Ltd. は、「3 大巨頭」と称され他を圧倒しているが、他にも多くの製造会社が林立している。 2014 年末頃からこれらの企業により宝飾用メレサイズの無色合成ダイヤモンドの生産が開始され、その圧倒的な生産量により、瞬く間に世界の宝飾市場を席巻した。2018 年以降、 0.2ct~0.5ct のカット石が中心に生産されているが、最近では 1ct~2ct サイズのものも作られている。 本報告では、中国のある企業によって製造された 3~8ct の大型無色結晶原石の宝石学的特徴を紹介する。今回検査に供した試料の内訳は様々な品質の 3-4ct 原石29 個、 5-6ct 原石 3 個、 7-8ct 原石 1 個の総計 33個である。

    結晶原石すべてに種結晶の痕跡が認められた。種面の方位はすべてにおいて{100}であった。原石の形状は{100}と {111}が大きく発達しており、 {110}、 {113}、 {115}も認められた。各結晶面の大きさには個体差があるが、概して{111}> {100}のものが多かった。種面以外の結晶面には多数の線模様が認められた。これらは異なる指数の結晶面に連続しており、成長時に形成したものではなく、冷却時に溶媒金属との反応で形成されたと考えられる 。この線模様は HPHT 合成に特有のもので、カット・研磨後に残されていれば鑑別特徴になると思われる。すべての結晶内部には金属 inc.が見られた。 これらは種結晶近辺と分域境界に集中する傾向にあった。蛍光X線分析および LA-ICP-MS 分析において結晶表面に達した金属inc.からは Fe、 Co と微量の Ti および Cu が検出された。短波紫外線(SWUV)下ではやや緑がかった青白色の明瞭な燐光がすべての試料に観察された。燐光には強弱があるが、数 10 秒から長いものでは 1 分以上認められた。 FTIR分析を行った 13 個はすべて窒素に関連したピークを示さないⅡ型で、 一部には非補償のホウ素のピークが見られた。ホウ素のピークが見られるものは概して SWUV で燐光が強かった。3 個の大型結晶について SYNTHdetect にかけたところすべて Refer となった。 DiamondViewでは各成長分域によって異なる強さの蛍光像と燐光が観察された。 以上の諸特徴から、これらの結晶原石がカット・研磨された後も天然ダイヤモンドとは確実に識別が可能と考えられる。

  • 荻原 成騎
    p. 12
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    Herkimer Diamond で代表される両錐水晶の多様性と類似点を紹介する。蛍光性の有無、結晶の外形に注目し、今後の成因(成長機構)研究の基礎データとする。

    蛍光性石油状包有物を持つ Afghanistan、Pakistan 産両錐水晶は広く流通している。これらの水晶は、石灰岩中の脈として産する。Herkimer Diamond については、 2010 年前後から蛍光性包有物の存在が認識され、量的には僅かであるが付加価値を添加して販売されている。無色透明で名高い Arkansas 水晶には、稀に Herkimer 様の両錐水晶が産出する。Herkimer との差別化のため Arkimer と称して販売されることがある。今回は 2009 年に産出した石油状包有物を持つ両錐水晶を紹介する。含石油様包有物水晶としては、稀な産地である Spain 産標本を紹介する。

    また、蛍光性は示さないが、中国雲南省産、マリ共和国産、アルゼンチン産の Herkimer 様水晶を紹介する。

  • 中嶋 彩乃, 古屋 正貴
    p. 13
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    昨年の宝石学会でミャンマー産のピンク・ジェダイトの着色原因について調査を行った。以前のミャンマー産だけでなく、国石でもある日本産でもピンクのジェダイトはないかと考えた。しかし、市場で糸魚川産のピンク・ジェダイト(ひすい)として販売されているものも見られたが、実際それらは翡翠ではなく着色された処理石を除くと、チューライトかクリノチューライトであり、ジェダイトは見られなかった。

    文献ではこれらのピンク色の石について、ピンクのゾイサイトであるチューライトとしているものもあれば、ピンクのクリノゾイサイトであるクリノチューライトと記載されているものも見られた。そこで、市場で販売されている糸魚川近郊から産出したとされるピンク色の石を5石ほどラマン分光や FT-IR の検査を行ったところ、1石はチューライトで、4石はクリノチューライトであった。

    FT-IR では反射のスペクトルを計測すると、ゾイサイトとクリノゾイサイトはかなり近いスペクトルだが、 1046cm-1の付近のピークに違いがあり、今回のチューライト、クリノチューライトでも同様に違いが確認された。

    また、直方晶系のゾイサイトと単斜晶系のクリノゾイサイトは、結晶系の違いによる分類であるが、 G. Funz(1992)によると、それはAl3+と置換した Fe3+が多くなると、クリノゾイサイトになると説明されていた。今回のサンプルは少ないながらも、蛍光 X 線による成分分析で Fe2O3 がチューライトのものでは1.17wt%であるのに対して、クリノチューライトのものは 1.88~2.51wt%と違いが見られた。

    糸魚川近郊を産地とするピンクの翡翠は見つけられなかったが、天然の鉱物としてはチューライトやクリノチューライトが見られ、それらがピンクの翡翠と勘違いされていることが確認された。

  • 趙 政皓, 江森 健太郎, 岡野 誠, 賀 雪菁, 鍵 裕之
    p. 14
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    クリソコーラは青緑色や緑色を表す銅のケイ酸塩鉱物の一種であり、マラカイトやアズライトなどと同時に産出されることが多い。化学組成は一般的に Cu2H2Si2O5(OH)4·nH2O とされているが、ほとんどが非晶質であり、原子座標まで明白な結晶構造はわかっていない。

    最近、我々のラボに見た目にクリソコーラを含むと思われるビーズの石が鑑別依頼で持ち込まれた。石は淡青色、濃青色と緑色の箇所で構成され、 FTIR と Raman 分光でアズライトとマラカイトが含まれることが明らかになった。しかし、クリソコーラと思われた淡青色の箇所からクリソコーラには存在しないはずの高濃度の Mg が検出された。従って、淡青色の箇所は実際クリソコーラであるか疑問が持たれた。そこで、本研究では前述した淡青色の箇所の正確な鉱物種を明らかにすることを目的にした。

    本研究に用いたサンプルは、前述したビーズの 2 点と、クリソコーラ原石 5 点である。サンプルの測定には FTIR として日本分光社製(FT/IR4100)、 Raman 分光分析として Renishaw InVia Raman System、蛍光 X 線元素分析装置として日本電子社製JSX1000Sを用いた。その後、サンプルをメノウ乳鉢で粉砕し、 RIGAKU 社製 MiniFlex600 を用いて粉末 X 回折分析、Bruker 社製 INVENIO R を用いて FTIR 透過スペクトル測定を行った。

    5つのクリソコーラ原石について、 FTIR スペクトル、 Raman スペクトル、 X 線回折パターン共に文献と一致し、クリソコーラであることが確認できた。一方、2つのビーズの石の淡青色の箇所について FTIR スペクトル、 Ramanスペクトル、 X 線回折パターンすべてクリソコーラ文献と一致しせず、ケイ酸マグネシウム鉱物であるタルクと一致することが明らかになった。

    本研究で測定したビーズの石は、アズライトとマラカイトと同時に産出されるためクリソコーラと誤認されやすいが、 FTIR、 Raman とX 線回折の結果から、その主成分はタルクであることが判明した。ただし、天然タルクに Cu2+が入ることは今まで報告されていないため、この石は銅含有タルクなのか、タルクと微量の銅鉱物の混合物なのか、さらなる調査が必要である。宝石業界としても、このように誤認されやすい石に対して注意を払う必要がある。

  • 高橋 泰, 山中 淳二, 有元 圭介, 安保 拓真
    p. 15
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    オパールの内部白濁は、その外観より通称「エッグ」と呼ばれている。メキシコ産オパールなどの火山岩起源のオパールに特徴的に見られ、特にプレシャスオパールの色斑が良く見られる個体に発生しているのが多く観察される。この白濁部分が大きな場合、著しく外観を損ねる場合がある。 E.Fritsch (1999)のレポートでは、メキシコ産ファイアーオパールにおいて加工後 1 日ぐらいで白濁部分が発生したことが報告され、原因として球状のクラックの可能性を示唆している。

    2021 年の宝石学会講演会ではメキシコ産オパールのエッグ部分が増加する可能性について言及したが、今回の観察と分析に使用したのも、既にエッグの生じているメキシコ産ウォーターオパールである。

    白濁部分について断面観察を行うと、ほぼ例外なく空洞状であった。このことは、流紋岩球果の空洞中にシリカ球が堆積する過程において一時的に生じる現象であることが確認できた。試料によっては、白濁部分は複数回生じている。

    薄片による断面観察では蛍光X線分析を試みた。機器は(株)堀場テクノサービス所有のHORIBA XGT9000 を使用し、化学成分のマッピングを行った。マッピング部位を事前に観察した光学顕微鏡写真を図 1 に示す。

    マッピングにおいては、可視光観察像の白濁部分に対応していたのはC a とKの濃度分布であった。

  • 人見 杏実, 相沢 宏明, 勝亦 徹
    p. 16
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    はじめに

    波長 100~280 nm の C 波紫外線(UVC)を発する LED(UVC LED)によって、 UVC による殺菌機能を手軽に使用することが可能になった。しかし、 UVC を安全に使用するためには簡便で高感度な検出器が必要である。そこで、 UVC の照射で波長 670~800nm の蛍光を発するコランダム構造をもつ赤色の結晶であるルビー(Cr 添加 Al2O3)と可視・近赤外用 Siフォトダイオードを組み合わせた蛍光増強フォトダイオード(Fluorescence-enhanced PD; FE-PD)を試作した 1。さまざまな Cr 濃度のルビーを使用した FE-PD による UVC 測定結果を報告する。

    実験

    浮遊帯域溶融法(FZ 法)で育成した Cr 濃度0.1~6.0 mol%のルビー結晶の蛍光・励起スペクトルおよび試作した FE-PD の UCV 検出特性を測定した。ルビーを使用した FE-PD を図1 の測定装置を用いて評価した。光源は UVCLED(波長 265 nm および 275 nm)を用いた。UVC LED の印加電流と UVC 強度が比例することがわかったので、印加電流を 0~40mA に変化させて FE-PD の出力を測定した。

    結果

    UVC による励起では、 1.0 mol%以下の低 Cr濃度のルビーでは波長 694 nm 付近に鋭い蛍光ピークが、 2.0 mol%以上の高 Cr 濃度のルビーでは波長 770 nm 付近に幅広の蛍光ピークが確認できた。ルビーを使った FE-PD による UVC(波長 275 nm)の測定結果(図 2)からルビーを使用した FE-PD の出力は UVC 強度に比例することがわかった。ルビーは FE-PD 用の蛍光体として応用が期待できる。

  • - ゾル-ゲル法によるオパール合成の経時変化 -
    嶽本 あゆみ, 田邊 俊朗
    p. 17
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    【緒言】 液体原料からシリカガラスを合成するゾル-ゲル法は、加熱を経ず室温で実施できる簡易な実験であり、高等専門学校の比較的低学年でも操作を行いやすい。沖縄工業高等専門学校生物資源工学科では、本科 1 年生の専門科目であるバイオテクノロジー基礎実験において、 2019 年度よりゾル-ゲル法によるシリカガラスすなわちオパールの合成実験を行っている。一連の実験系を用いて、試薬の軽量と正確な記録、加水分解反応と脱水縮合反応、触媒の比較、光の干渉による遊色効果ならびに構造食、生成物からの収率計算を、理解の到達目標としている 。

    2019 年度に実施した当該実験において合成したシリカガラスを保管していたところ、酸触媒として用いた塩酸と酢酸とで、ゲルの状態に差異が生じた。今回は、これらの経時変化ならびに 2021 年度に実施した実験授業の結果について述べる。

    【方法】 2019 年度はオルトケイ酸エチル. エタノール, 精製水の混合における加水分解反応(式1)の触媒として、アルカリ試薬(10%アンモニア水、 1mol/L 水酸化ナトリウム)ならびに酸試薬(99.7%酢酸、 85%リン酸、 1mol/L 塩酸)から班ごとに 1 種類を選び、合成操作を実施した。 2021 年度は触媒を28%アンモニア水に統一し、劇物のため教員が計量を行った。

    Si(C2H5O)4+4H2O→Si(OH)4+4C2H5OH

    Si(OH)4→SiO2+2H2O

    【結果ならびに考察】

    2019 年度実験において酢酸ならびに塩酸を触媒とした試料全体が透明なゲルとなり、実験室内に保管していた。 2020 年度時点、酢酸を触媒としたゲルは体積の収縮と固化が確認され、塩酸を触媒としたゲルは弾力性を保ったままであった。酸性条件下ではポリメリックなゾルが生成され、これらは加水分解時の水の量にも影響を受ける [2]ことがわかっているが、水分量や pH 以外にもゲルの形成への影響が考えられる。 2020 年度 28%アンモニア水を触媒とした試料は、 10 班中 1 班のみが極めて美しい、オパールと呼ぶにふさわしい遊色効果をもつ試料が得られた。同一プロトコル・同一操作において結果に大きな差異が見られたため、条件の詳細を明らかにすることで、遊色効果の有無による実験操作の評価が可能になると考えられる。

  • 佐藤 貴裕, 宮川 和博, 佐野 照雄, 有泉 直子, 笠原 茂樹, 小泉 一人, 高橋 泰, 松本 一雄
    p. 18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    分光蛍光光度計は励起光を吸収した物質が発する蛍光を高感度に検出する装置で、励起波長および蛍光波長の両方を走査することで 3次元蛍光スペクトル(蛍光指紋)が得られる。ルビーは宝石の中でも特に強い蛍光を発するが、合成か天然か、さらに天然の中でも産地によって蛍光指紋は異なっている。しかしながら、等高線状で表される蛍光指紋(図1)をそのまま比較し、産地ごとの特徴を見いだすことは困難である。一方、環境分野や食品分野では蛍光指紋を多変量解析し、環境水中の微量成分を定性したり、果物の産地判別や品質予測をすることが試みられている。

    このような背景から、本研究ではルビーの蛍光指紋を多変量解析し、産地鑑別へ応用可能か検討した。対象としたルビーの産地はタイ産およびマダガスカル産、ミャンマー産、モザンビーク産で、これにベルヌイ法合成ルビーを加えた計 5 種類のルビーの蛍光指紋を測定した。得られた蛍光指紋には蛍光の検出されない波長領域や散乱光およびその高次光が含まれるため、これらの領域を除外し、 1次元ベクトル化して主成分分析を行った。

    第 1 主成分はルビーに特徴的な 690 nm 付近の蛍光をよく表しており、蛍光 X 線分析からもこれを支持する結果が得られた。

    また、スコアプロットから蛍光強度によって 3 つのグループ(1. タイ産, 2. マダガスカル産、モザンビーク産, 3. ミャンマー産、合成)に分類可能と予想された。主成分得点のデータを元にユークリッド距離を用いた k 近傍法によるクラス分類を検討したところ、80%ほどの正解率で前述のグループに正しく分類できた。

    蛍光指紋の多変量解析によってルビーの産地間の差異を定量的に評価できた。これにより、蛍光分光分析がルビーの簡易的な鑑別に有用であることが示された。

  • ―アップデート;特に銅含有量の少ない試料についてー
    江森 健太郎, 北脇 裕士
    p. 19
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
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    パライバ・トルマリンは 1989 年に宝石市場に登場した彩度が高く鮮やかな青~緑色の銅着色のトルマリンである。当初ブラジルのパライバ州で発見されたため、 パライバ・トルマリンと呼ばれるようになったが、 1990 年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州、 2000年代に入りナイジェリアやモザンビークからも産出されるようになった。 そのため、これらの原産地鑑別が宝石鑑別ラボにおける重要な課題となっている。

    パライバ・トルマリン の原産地鑑別に関しては多くの先行研究があり ([1]他)、 筆者らも2020 年度宝石学会(日本)オンライン講演会にて発表している [2]。

    最近、 Cu 含有量が少なく、色が薄いパライバ・トルマリンを検査する機会が増えている。これらは原産地鑑別を行うラボによって産地が記載できない場合や、ラボ間で異なる産地結果が記載される場合がある。調査したところ、日本市場でのパライバ・トルマリンに対する高い需要を補うため、現在閉山中であるブラジル・リオグランデ・ド・ノルテ州にあるキントス鉱山の色が薄い在庫がカット・研磨され、流通していることがわかった。

    本研究では、前回発表した内容に加え、色の薄いブラジル、キントス産のサンプルと混同されやすいナイジェリア産、モザンビーク産との比較を行った。

    本研究では新たにブラジル、キントス産パライバ・トルマリン 26 点をサンプルとして用い、前回発表したデータベース[2]との比較を行った(写真)。 LA-ICP-MS は ICP-MS としてAgilent 7900rb、 LA 装置として ESI UP213、NWR213 を用いた。トルマリンは組成が複雑で濃度範囲も広いため、 LA-ICP-MS 分析でよく用いられる内標準法を用いることはできない。そこで定量方法は装置より得られたデータから組成式を作成し、定量値を計算する手法を用いた。この方法についての詳細は先行研究[2]で発表している。

    今回分析を行ったキントス産のパライバ・トルマリンについては、 Cu が少なく、 Ga が多いという特徴があり、モザンビーク産の特徴とオーバーラップするように見えるが、 Ge、Zn、 Sn、 Pb といった元素を加え、比較することで産地鑑別が可能となることがわかった。

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