宝石学会(日本)講演会要旨
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2025年度 宝石学会(日本) 特別講演要旨
  • 木村 賢一
    p. 1-2
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    岩手大学農学部の前身である盛岡高等農林学校出身の童話作家である宮沢賢治は、鉱物収集が好きで「石っこ賢さん」と呼ばれていた。装飾品である琥珀を宝石だと思っている方もおられるが、太古の植物樹脂の化石である。化石であるので世界中多くの場所で見つかっているが、商業化されている産地はバルト海産が大部分を占め、残りがドミニカ産と久慈産琥珀である。

    岩手県久慈市周辺の玉川層に眠っている久慈産琥珀は、約 9000 万年前(中生代白亜紀後期)の Alaucariaseae(ナンヨウスギ属)が起源樹の琥珀と言われ、 3 つの琥珀の中では一番古い。約 6600 万年前の K-Pg 境界と呼ばれる時期に、メキシコのユカタン半島に巨大隕石が落ち、生物種の約 75%が絶滅し、個体数の 99%が死滅したが、久慈産琥珀はそれより前の植物の樹脂の化石であり、バルト海産とドミニカ産琥珀は、 K-Pg 境界以降の植物の樹脂の化石である。

    起源樹と年代が異なるため、バルト海産琥珀は乳白色とコニャックカラー、ドミニカ産琥珀は紫外線での発色、久慈産琥珀は赤みを帯びた色合いを示す違いがある(図 1)。

    ところで、演者の専門は「ケミカルバイオロジー(化学生物学)」で、微生物、植物、食材などの天然資源から、病気の原因の生物活性を利用して、含まれている生物活性物質を単離精製し、各種機器分析により化学構造を決定する。その後生化学・細胞生物学の手法で作用メカニズムを解析していく学問である。構造や生物活性が新しい化合物が見つかると共に、それらは特許が取得出来て医薬品や機能性表示食品などとして開発もできる。

    古くは、 1928 年に青カビから抗生物質ペニシリンを発見し、人類を感染症の恐怖から救った細菌学者のフレミング博士(1945 年ノーベル医学・生理学賞)がいる。また、北里大学の大村智先生が微生物から抗寄生虫薬イベルメクチンを開発し、同時に、植物から抗マラリア薬のアルテミシニンを発見した中国のTu YouYou 先生らが、 2015 年にノーベル医学・生理学賞を受賞した。演者は、前職の企業の研究員の時から微生物由来の医薬品探索を行っていたが、 2001 年に岩手大学農学部に赴任してからは、天然資源が豊富な岩手県の植物・食材などから、新規の低分子生物活性物質の探索研究を進めている。

    植物は、既に漢方薬として用いられている上に、解熱鎮痛薬のアスピリンや抗がん剤のビンクリスチンなど多数の医薬品が見出されている。そこで約 9000 万年前の植物の樹脂の化石にも、病気の予防や治療が期待できる生物活性があるのではないか? もしあったら、その生物活性物質の化学構造はどの様な物だろうか? 久慈産琥珀は、非常に好奇心をくすぐられる天然資源であった。

    天然資源から、新規構造の生物活性物質が見出されれば、世界中で自分しか有していない物質であるため、自分だけのオリジナルの研究になる上に自動的に世界のトップを走ることになり、変に競争をする必要が無い。また、新規物質には、発見者が名前をつけることができる楽しみもある。そのような仕事を俗語で「物取り」というが、演者はこれまで41 年間愚直に「物取り」を行ってきた。

    さて、「物取り」は宝探しの様な夢がある仕事で、新規物質を効率良く見つける工夫を各研究者が行っているが、珍しい天然資源とユニークな生物活性を検出する反応系(アッセイ系)の組み合わせが重要である。演者は、 珍しい天然資源として久慈産琥珀に 2006年に出会えたため、ユニークなアッセイ系として、病気の原因の遺伝子を破壊、変異、及び過剰発現させて、あるストレスを与えると死んでしまうか、生育できなくなる「病気の酵母」を元気に回復させる系を用いることとした。

    久慈産琥珀は、石では無いので簡単に粉末にでき、それをアルコールで抽出すると約5%が抽出される(図 2)。久慈産琥珀のメタノール抽出物を MEKA と略するが、これをカルシウムシグナル伝達に関わる遺伝子変異酵母 YNS17 株に与えると、元気に生育する様になる(図 2)。この系では、ヒトの臓器移植時の免疫抑制剤や、アトピー性皮膚炎の軟膏として実用化されている FK506(タクロリムス)が、強力な生育回復活性を示すことから、 YNS17 株に作用する物質はヒトでも効く可能性が示唆される。私たちは MEKA から、 YNS17 株を用いて新規構造を有する15,20-dinor-5,7,9-labdatrien-18-ol(Kujigamberol=クジガンバロール=久慈頑張ろう !!と命名)(図 2)を 2012 年に発見した。その後、精製法を変えたりアッセイ法を変えたり工夫をすることで、これまでに 20 余りの新規物質を明らかにしてきた。一方で、バルト海産とドミニカ産琥珀のメタノール抽出物からはもちろん、ドイツ産、中国産、スマトラ産琥珀など、調べた限りの世界の琥珀からは、現代の植物にも含まれる既知物質であった。ここで、なぜ琥珀の中でも久慈産琥珀からのみ新規物質が見つかるのか?という大きな命題が生じた。そこで、久慈産琥珀より約 3500 万年古いが、同じ緯度に位置し、外観が似て起源樹も同じで、 YNS17 株に対しても同じ活性を示したスペイン産琥珀のメタノール抽出物(MESA)の生物活性物質との比較を行うことにした。

    その結果、 MESA にも kujigamberol は含まれていたが、その含量は著しく低下し、その代わり、分解物と思われる低分子化した物質の増加が認められた。また、 MESA からも、MEKA からは得られなかった新規物質が発見された。このことは、久慈産琥珀に対する約9000 万年間の続成作用が、他国産琥珀に対してよりは強いが、スペイン産琥珀に対してよりは弱く、新規物質に変化するのに程よい地球環境であったことを示唆している。

    最後に、 MEKA と kujigamberol の機能性について紹介する。両者ともモルモットに対する鼻づまりにおいて、臨床点鼻薬の 1/5 量で同等の効果を示した。また、細胞では、メラニン産生抑制活性(美白作用)とコラーゲン促進活性(抗シワ作用)が認められ、 2015 年に化粧品(図 2)として販売を開始し、地方創生と震災復興に貢献している。

2025年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
  • 福田 千紘, 河野 重範, 布川 嘉英, 江島 輝美
    p. 3
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    栃木県日光市北部の日光国立公園内の男体山北方は古くからゼオライトの産地として知られており共生する形でシリカ鉱物が産する。過去の報告ではカルセドニーと記載されているが乳白色半透明の晶洞が多数あることからオパールの存在が示唆された。また、当地は5万分の一地質図幅(川田 1956)や岩相分布図表等(山崎 1958, 河野・竹下 2014)が刊行されているが、現状の岩相分布と乖離が認められたため詳細な地質調査を行った。本研究では現地の地表踏査により詳細な地質図を作成し、岩相分布を明確にする事で胚胎する母岩の属性を明らかにするとともに、オパールを含むシリカ鉱物の詳細な記載を行った。

    シリカ鉱物は帯青灰黒色の SiO2 含有量;51-53wt%の玄武岩-玄武岩質安山岩中に 2-3cm の脈や晶洞として産する。過去に御沢溶岩から産するとの記載があるが御沢溶岩は優白色のデイサイト (SiO2;64-70wt%)であり分布域も異なることが判明した。この岩体は太郎山南麓のおよそ 500m 四方に分布し、太郎山溶岩の下位に位置する。この溶岩最上部にはアグルチネートが見られる。

    偏光顕微鏡下において、母岩はかんらん石、両輝石と斜長石の斑晶がみられ、細粒の斜長石や輝石を含む石基からなり、流理は殆ど見られない。光学的等方体の鉱物が充填された杏仁状組織が多数見られ、サポナイトを付随する。これらは時間が経つと失透して白くなる。 FT-IR の反射スペクトルでは低温石英とオパールのピークが混在したスペクトルが得られた。粉末 XRD 分析においては主に低温石英が確認され、ごく弱いオパールやトリディマイトの反射も見られた。このオパールを含む晶洞は、紫外線下において黄緑~緑色の蛍光を発し、付随するカルサイトはピンク色の蛍光を発する。

    高橋・佐々木(1997)等で当地の火山類は詳細に研究されているが、この母岩はさらにマフィックな岩石であった。 K2O-SiO2 ダイアグラムで既知の日光火山群の溶岩類と比較すると、末端の組成で始原的マグマ起源の溶岩である可能性が高い。このオパールを含むシリカ鉱物を胚胎する溶岩は、周辺の火山類の噴出した溶岩の中でも初期の物で太郎山の古期山体のものか未知の古期火山に属する可能性が考えられる。

  • 三浦 真, 任 杰
    p. 4
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    トラピッチェ・パターンはエメラルド・コランダム・石英等様々な鉱物中に見いだされる構造である。このトラピッチェとはスペイン語の trapicho(サトウキビを絞る農機具の歯車)に由来し、その独特な歯車状の構造をもつ宝石は稀で、とりわけ人気が高いことで知られている。ガーネットでもトラピッチェ・パターンが見られ(Nang et al., 2023)、近年中国の浙江省からは綺麗な歯車状の構造を呈したガーネットが報告され、市場に流通し始めている(e.g., Wang et al., 2025; Hainschwang 2025)。トラピッチェ・パターンはガーネット中には稀であるとされているが、非常に微小ながらも日本の奈良県二上山産ガーネット中にもみられることが判明したので、報告する。

    日本の奈良県と大阪府の県境にある二上山はおよそ 1600-1200 万年前に活発な火山活動により形成された山で、特徴的にザクロ石黒雲母安山岩~流紋岩で構成されている。このガーネット(ザクロ石)を含む岩石が長年の風雨により浸食・風化したことで、二上山付近の堆積物中には多量のガーネットが含まれている。ガーネットの粒の大きさは比較的揃っているため、古くから研磨剤(金剛砂)として採取され利用されてきた。ガーネットは黒色~赤色を呈しており、組成上ではアルマンディンに分類される。直径 1-2mm 程のガーネット粒子 78 粒をランダムに選択・洗浄した後、エポキシ樹脂に埋め込み、研磨作業を実施した。その後、顕微鏡下で各粒子の観察を行った。 78粒子中、 6 粒にセクター構造が見られ、そのうち 2 粒には 6 本のセクター境界が観察された(図1)。セクターには石英と黒色の不透明鉱物の内包物が多く含まれる。このトラピッチェ構造は Hainschwang (2025) で説明されている様な、ガーネットの結晶構造(菱形十二面体)と内包物の配列、そして切断面の位置関係によるものであると考えられる。

  • 高橋 泰, 渥美 俊哉, 山中 淳二, 有元 圭介, 山本 千綾, 篠塚 郷貴, 河村 隆之介, 安保 拓真
    p. 5
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    トラピッチ構造を持つ結晶は Nassau and Jackson(1970)で報告されたエメラルドを初め、近年ではサファイア、ルビー、トルマリンなど様々な鉱物で報告されている。今回分析の対象としたミャンマー産のトラピッチルビーは、6本の歯車状の外観を示す「歯車タイプ」と中心から6本のデンドリティック・アームが伸びた「アームタイプ」の2種類に分けられる。(図1)。一方、少数であるが、中間タイプ(図2)も見つかった。この産地の試料について薄片を作成し、断面について、 X 線回折による分析、蛍光 X 線分析、ラマン分光マッピング、TEM 観察を行った。しかし、デンドリティック・アーム部分は多結晶体であり、 Nassau and Jackson(1970)で提唱されている“母結晶のコアの結晶方位を引き継いだデンドリティック・アームが先行成長する”という成長モデルでは説明が困難である。そこで成長モデルとして「歯車タイプ」から「アームタイプ」へと移行するという仮想モデルを立て分析結果を検証した。

  • -特に六芒星について-
    竹下 良美
    p. 6
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    「六芒星またはダビデの星」 (以下六芒星)と呼ばれる双晶形態がミャンマーのモゴック地方から産出していることは従来から知られている.ただ、この結晶形については言及されておらず、スピネル式双晶の変型した結晶と考えられていたようである.詳細に検討したところ基本的に回転対称を伴う接触双晶と考えられ、本来の平行接触であるスピネル式双晶や鏡面接触双晶である小谷式三連晶とは異なる双晶形式と判断できた.

    さらに六芒星と呼ばれる結晶形態には、双晶・三連晶の二通りが存在している.双晶は二つの結晶が組み合わさったいわゆる双晶であるが、もう一つは三連晶の上下の結晶が 60 °回転しかつ透過して六芒星の形態に見えるものである.

    結晶形態を理解しやすいように、立方晶系の軸率 a=b:c=1:1 の軸比を八面体の重心位置である a=b:c=1:{2 ×(√ 6)/6},β=120 ゚を用いて擬三方晶系に変換した.上端面を c 面と仮定した場合、スピネル式双晶の内どちらか 1 つが60 °回転して接していることが明瞭に判った.この形態は 60 °回転接触双晶に区分さ れる.接触面が o{111}面であることから 60 °回転スピネル式双晶とも言える.また、平行接触形式がスピネル式双晶と呼ばれていたが、その形態から回転接触双晶でもあることも考えられた.しかし、スピネル式の平行三連晶は確認できず、鏡面接触式である小谷式三連晶が確認された.

    六芒星の双晶・三連晶の二通りの双晶形態は、擬三方晶系の形態を示し、対称心を有することから従来の平行接触によるスピネル式双晶及び三連晶や鏡面接触三連晶とは異なる双晶形態であると考えられる.

    そのため、これらの形態の名称として、対称心を有するすなわち回転を伴う o 面接触双晶及び三連晶、または簡単にモゴック式双晶及び三連晶と提案する.

  • 鳴瀬 善久, 阿依 アヒマディ
    p. 7
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    様々な宝石が流通する中で、より珍しい宝石を求める人々がいる。 GSTV においても、比較的に珍しい宝石を扱う機会が多くなっている。そこで、昨年、 GSTV 宝石学研究所で鑑別した 3 種類の希少な宝石の鑑別特徴について報告したい。

    グリーン・アウイナイト

    アウイナイトは方ソーダ石グループの準長石であり、化学組成は[(Na,Ca)4-8Al6Si6(O,S)24(SO4,Cl)1-2]、硫黄と塩素を含むケイ酸塩鉱物だ。 1807 年にドイツのアイフェル地方で発見された青色のアウイナイトがよく知られている。今回のグリーン・アウイナイトは、アフガニスタンの Badakhshan 地域の新鉱山 Sar-e-Sang から産出され、青緑色を示し明度がやや低い。内包物は比較的少なく、透明度が高い。特に UV-VIS での分光分析では、硫黄電荷による吸収位置と強度に差が現れ、ドイツ産の青色のアウイナイトとは異なる地質環境から成長した影響だと推定された。

    テネブレッセンスを示すオレンジ・ソーダライト

    鑑別をしたオレンジ・ソーダライトは、アフガニスタンとパキスタンの国境付近から発見された石だ。長波紫外線下(365nm)で赤みがかったオレンジ色、短波紫外線下(254nm)で黄色を帯びた白濁色を示した。そして、紫外線照射後は赤色が増し、退色テスト後に元のオレンジ色に戻った。

    UV-VIS における分光分析では、昼光下では青色領域の 450nm と紫外領域の 315nm を中心とした大きな吸収バンドが現れ、長時間紫外線を照射した後に 450nm の吸収バンドが 470~500nm にシフトしていた。また、 EDXRF による化学組成分析では、化学組成[Na 8(Al 6Si 6O 24)Cl 2]のうち、主元素である珪素 (SiO2=33.2-38.4wt%) 、アルミニウム (Al2O3=29.6-31.0wt%)、ナトリウム(Na2O=21.9-29.1wt%), 塩素(Cl=6.2-7.9wt%)が検出された。硫黄(SO3=1.1wt%)は原石だけに検出され、ファセットカット石には硫黄が検出されず、臭素(Br=0.007wt%) が微量に検出された。

    ヴェイリネナイト

    ヴェイリネナイト [(Mn2+, Fe2+)Be(PO4)(OH)] はマンガンとベリリウムを含むリン酸塩鉱物だ。赤、ピンク、オレンジ色が混合しており、宝石品質の石はパパラチア・サファイアやインペリアル・トパーズを想起させる。 1954 年に新鉱物であることが発表されたが、透明度の高い宝石品質の石が見つかることは少なかった。単斜晶系で、屈折率は 1.640-1.662、複屈折量は 0.022 があるため、拡大検査では、後ろ側のファセットカットのエッジは二重に見える。鑑別をした石はアフガニスタン産であり、特徴として劈開面が発達し、少量の液体、気体またはその両方を含む二相インクルージョンが含まれていた。

  • 高橋 泰, 原口 優希, 山中 淳二, 有元 圭介, 山本 千綾, 安保 拓真
    p. 8
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    オパールには通称「エッグ」と呼ばれる白濁部分が見られる。この白濁部位は特に流紋岩などの火成岩を母岩とするメキシコ・オパールに多く観察される。エッグが観察されるオパールの多くは遊色効果を示し、外観上特殊効果を妨げている場合が多い。この白濁部位の原因を探るために、メキシコ産オパールの薄片を作成し分析をした。白濁部分は、ほぼ例外なく層状であり、複数の白濁層が存在する(図1)。

    この断面について、レーザー顕微鏡による観察、 SEM 観察、 X 線回折による分析、蛍光X 線分析、ラマン分光分析、 X 線 CT による観察を行った。しかし、白濁部位と透明部位では、顕著な違いは見られなかった。また、ラマン分光とX線回折の分析を行ったが、他鉱物の沈積は確認できなかった。上述の分析に比較し、より薄い薄片を作成し、観察していたところ、白濁部位が水で浸漬されると消失し、乾燥時には再生する可逆性の現象が観察された(図2)。これは白濁部位が空隙であることを示唆する。

  • 阿依 アヒマディ
    p. 9
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    天然色のグリーンダイヤモンドは希少かつ美しいものだが、その色の原因となるさまざまな欠陥がある。グリーンダイヤモンドは、ほとんど南米またはアフリカの鉱山で発見されている。宝石用ダイヤモンドの緑色の主な発色原因は、単独または複合的に、放射線損傷によって形成された空孔 (GR1)、 H3 欠陥、 H 関連欠陥、または Ni 不純物だ。これらはそれぞれ、わずかに異なる緑色の色合いを生み出す。GR1 色のグリーンダイヤモンドが最も豊富で、次に H3 グリーン発光によるものが続く。 H および Ni 関連のグリーン ダイヤモンドはあまり一般的ではない。

    各種の緑色の発光中心は、識別に役立つ吸収スペクトルと発光スペクトルが示される。しかし、 GR1 欠陥と H3 欠陥はどちらも、 1950年代からラボや照射施設での照射とアニールによってダイヤモンドに簡単に誘発できるようになった。 60 年代から大多数のグリーンダイヤモンドが以上に流れ、色の起源不明とされ、宝石学的な鑑別が非常に困難な時代となった。その問題を複雑にしたのは、自然放射線によるダメージとラボ処理による影響の類似性から、グリーンダイヤモンドの色の起源特定は必ずしも可能ではなく、その解明において様々な研究が進められ、大きな進歩が遂げられてきたが、今日宝石鑑別機関では、詳細な顕微鏡観察、各種の分光分析を実施し、すべてのグリーンダイヤモンドの色起源を明確に特定しようとしている。

    自然界では、数千年から数百万年にわたって、ウランやトリウムなどの元素の同位体(鉱物中に存在するか、地質学的流体に溶解している)の崩壊によって生成される放射線は、炭素原子を除去して空孔原子位置を作り出すことでダイヤモンドの構造を物理的に損傷し、生成された GR1 空孔は、ダイヤモンドに可視スペクトルの赤色領域(741 nm)の光を吸収させ、約 550 nm から 750 nm に広がるブロードな吸収を引き起こすことで純粋な緑色または緑色は形成される。また、グリーンダイヤモンドは地表付近に埋もれたまま地下の高温に曝され、自然なアニーリング効果を引き起こし、 667 nm、 594 nm、および 3H の欠陥も発生する可能性がある。

    人為的に照射線処理とアニール処理によって天然グリーンダイヤモンドと同様な色と光学センター(GR1, 594nm, H3, H4, H2)が発生させられるので、本研究では、天然と照射処理起源のグリーンダイヤモンドの吸収と発光特徴を調べ、照射処理となりえる指標を UV-Vis-NIR 分光とフォトルミネセンスの発光分光から検討してみた。また、高度なコーティング技術で処理したグリーンダイヤモンドを紹介する。

  • 小竹 翔子
    p. 10
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    近年、ジュエリー市場における合成ダイヤモンドの流通が増加する中、特異な特徴を持つ合成ダイヤモンドの検査機会も増えている。本研究では、ストレインと GR1(空孔)という2 つの特徴を併せ持つ高温高圧(HPHT)合成ダイヤモンドの検査を実施したので、その詳細を報告する。

    一般に、 HPHT 法で合成されたカラーレスおよびニアカラーレスのダイヤモンドは、不純物濃度が低く、成長時に均一な圧力が加わるため、高い結晶的完全性を示し、ストレインは極めて弱いか、ほとんど存在しないとされる(D'Haenens-Johansson et al., 2022)。しかし、過去には HPHT 合成ダイヤモンドでストレインが確認された事例も報告されている(Ardon and Batin, 2016)。また、 GR1 欠陥は通常カラーレスおよびニアカラーレスの HPHT 合成ダイヤモンドには見られないが、天然の照射や人工的な照射処理によって形成可能である。

    本研究では、 GIA ムンバイラボに持ち込まれた 1.59 カラット、 D カラー、ペアブリリアントカットの HPHT 合成ダイヤモンドを対象に検査を行った。交差偏光板を用いた観察によりストレインが確認され、さらに液体窒素温度でのフォトルミネッセンス(PL)スペクトル測定により、 741nm の位置に弱い GR1 のピークが観察された。 PL マッピングの結果、 GR1は{110}セクターに限定的に分布していることが明らかとなった。

    これらの結果は、この HPHT 合成ダイヤモンドは成長時にストレインが生じ、その後の照射処理によって GR1 欠陥が形成された可能性を示唆するものである。

  • 林 政彦, 林 富士子, 山﨑 淳司
    p. 11
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    岩手県では,薔薇輝石や崎浜の電気石,久慈の琥珀などは,古くから知られている鉱物である,また,これらは,宝石として紹介されている(Chikayama,1981).

    さらに,県内では,新鉱物が14種も発見されている。これは特筆すべき数であり,発見年順に吉村石(Yoshimuraite),萬次鉱(Manjiroite),赤金鉱(Akaganeite),神津閃石(Kozulite=Mangano-ferri-eckermannite),南部石(Nanbulite), 木下雲母 (Kinoshitalite), 釜石石(Kamaishilite),原田石(Haradaite),ソーダ南部石(Natronambulite), カリフェリリーキ閃石(Potassic-ferri-leakeite),わたつみ石(Watatsumite), 田野畑石(Tanohataite),岩手石(Iwateite),マンガニエカーマン閃石(Mangani-eckermannite)である。

    これらの鉱物あるいは宝石には,研究者やアマチュアの存在が欠かせない。その彼らに影響を与えた一人が,盛岡高等農林学校(現岩手大学農学部)を卒業した宮沢賢治(以下,賢治)ではないだろうか。賢治は,小説の中でオパールを探したこと,また,父への手紙の中で合成ルビーの製造を試みようとしたことが知られている。これらについては,本学会でも既に紹介した(林・山﨑, 2022)。

    前記の薔薇輝石は,綺麗なピンク色であり,マリンローズ(Marinerose)という名で販売されている。

    本発表では,これら岩手県の宝石・鉱物の現状について報告する。

  • 趙 政皓, 江森 健太郎, 北脇 裕士
    p. 12
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    ブルーサファイアはコランダムの一種であり、古くから好まれる貴重な宝石の一つである。その商業的な原産地は世界中に広く分布しており、地質学的な起源によって火成岩関連起源と変成岩起源の 2 種類に大別できる。前者は主にアルカリ玄武岩を母岩としており、後者は広域的変成作用に関連する岩石や閃長岩、スカルンなどを母岩としている。

    市場性はあまりないが、中国でもブルーサファイアの産出があり、山東省昌楽県産のものが比較的良く知られている。その他にも認知度は低いものの複数の産地があり、今回紹介する海南島蓬莱地域もそのうちの一つである。海南島産ブルーサファイアは政府の調査によると埋蔵量が非常に大きいと考えられており、今後は有望な産出地となる可能性が期待される。

    この地域のブルーサファイアは火成岩関連起源であり、鉄の含有量が多く全体的に暗い色を呈するものが多い。第一次鉱床や鉱脈は未発見であり、産出するコランダムの多くは現地の住民の農作業中に堆積物の中から発見されたものである。現在、ほとんど流通していないと考えられるが、現地の住民の話によると、かつてタイの宝石商人によって品質の良いものが選別されて買い取られタイで加熱処理とカット研磨が行われていたらしい。

    本研究では現地住民から直接入手した海南島産ブルーサファイア原石 4 点(それぞれ 0.89、1.80、 1.95、 3.11 ct)を対象とした。4点の原石の内、 3 点が非常に深い青色を呈し、透明度が低かった。もう 1 点は明るい色を呈し、透明度も比較的に高かった(写真右下)。これらの試料に対して顕微鏡観察、 FTIR スペクトル、 UV-Vis-NIR スペクトルおよび LA-ICP-MS 分析を行った。透明度が低かったため、顕微鏡観察では有用な情報をほぼ得られなかったが、 UV-Vis スペクトルでは典型的な火成岩関連起源ブルーサファイアの特徴が見られ、先行研究(e.g. Wang et al. 2022)の情報と一致している。

    LA-ICP-MS による微量元素分析の結果、Ga/Mg vs. Fe プロットにおいて火成岩関連起源ブルーサファイアの特徴が見られた。また、他産地の火成岩関連起源のブルーサファイアと比較すると Ga の含有量が高く、さらに他の微量元素の組み合わせなどからも原産地鑑別の可能性となる特徴を見出すことができた。

  • 勝亦 徹, 小島 愛弥加, 甲野 美羽, 木村 心静
    p. 13
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
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    はじめに

    1 個の結晶で 2 色の色変化が楽しめるバイカラー結晶が知られています。天然のバイカラー結晶には、トルマリン、サファイア、スピネル、フローライトなどがあります。私たちは、これまで、人工的にバイカラー結晶を成長する方法について報告してきました 1。 ここでは浮遊帯域溶融法(FZ 法)で成長したバイカラースピネルの色の変化の原因について検討します。

    実験と結果

    FZ 法を使って MnO または Fe2O3 を添加した MgAl2O4 結晶(スピネル)を成長した(図1、 2)。結晶成長中に雰囲気ガスの酸素濃度を調整することによってバイカラースピネルが成長できた 1。バイカラースピネルの色は原料の組成比 x = MgO/Al2O3 によっても変化した。バイカラースピネルの色の変化は、 Fe イオンまたは Mn イオンの酸化数変化が原因であることが結晶の光吸収スペクトルから推定できた 1,2

    謝辞

    研究にご協力いただいた東洋大学人見杏実、渡邉梨々花、森有沙、小林祐太,坂田陸、関野登真の皆様と相沢宏明教授に感謝します。

  • 佐藤 貴裕, 中村 卓, 宮川 和博, 佐野 照雄, 笠原 茂樹, 小泉 一人, 古屋 正貴, 高橋 泰
    p. 14
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    産地鑑別において光学顕微鏡により観察される宝石中のインクルージョンは、産地や処理の有無を推定する上で重要な情報を与える。しかしながら、観察は人間が行うことから、経験年数や体調の影響は避けられない。そこで、AI により光学顕微鏡像からインクルージョンを自動で検出・判別できれば、鑑別業務の効率化や鑑定士の負担軽減が期待できる。

    前回、物体検出アルゴリズムの一種であるYOLO によりルビーの光学顕微鏡像を学習し、インクルージョンの自動検出・自動判別の性能について報告したが、照明条件に課題がありシルクインクルージョンや微小インクルージョンの撮影ができなかった。今回、照明や観条件を改善することで、これらのインクルージョンが撮影可能となった。ラベリングはインクルージョンの形態に従って 4 つのグループに分類した(Group 1:液体や指紋状、羽毛状など広がった形態を示すグループ, Group 2:結晶や二相など単一で閉じた形態を示すグループ, Group 3:針状およびチューブ状の細長い形態を示すグループ, Group4:シルクやシルククラウド)。

    前回までに収集した画像に新たに撮影した画像を加えたおよそ 450 枚を用いて YOLO v8により学習および性能評価したところ、いずれの Group も再現率(Recall)が 65~80%、適合率(Precision)が 80~95%であった。 Group3および Group4 は他の Group と比較して画像数が少なかったが、同程度の性能が得られており詳細なインクルージョン観察の前のスクリーニングとして利用可能と考えられる。

    また、画像拡張の効果についても検討したので報告する。

  • 山岸 昇司
    p. 15
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    近山晶先生や並木正男先生のご高名は多くの宝石業界人に知られている。同時代に宝石学の普及に取り組んだ教育者の一人に喜連川純先生がいる。

    1969 年 3 月 11 日、日本で初めて米国宝石学会のダイヤモンドグレード基準に基づくダイヤモンド・コース・セミナーが開催された日で、いわゆるGIA4Cシステムの教育が始まった日なのである。以来今日までそのシステムはダイヤモンド評価の尺度として広く国内に普及しユーザーの価値判断の基準となっている。この教育のスタートにかかわった宝石学者の一人が喜連川純先生である。先生は人と宝石との関係を生涯見つめ続けた稀有な宝石学者で多くの業界人を育て多くの消費者に宝石の魅力を伝えてきた。

    宝石一つ一つにストレスを与えて実験し「宝石のウィークポイント表」を作成したり、結婚指輪を左右どちらの手のどの指にするかを調べ「世界の宗教と結婚リング表」を発表したり、エメラルドの弱点を保護強化して美しさをとどめようとするエポキシ樹脂含浸処理法を開発し 1983 年にビジネス化するなど宝石業界に与えた影響は大きい。

  • 桂田 祐介, Artitaya Homkrajae , Amiroh Steen
    p. 16
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    アコヤ貝や白蝶貝などの真珠貝は、それらの生み出す真珠のほか貝殻自体も長きにわたって宝石素材として利用されてきた。しかし軟体部は腐敗することから、加工素材の目的で使われることはなかった。腐敗はしないものの、おそらく軟体部とともに廃棄されてきたものが、蝶番に位置している靭帯である。本発表では、宝石素材として期待できる真珠貝の靭帯組織について、その宝石学的特徴を、分析結果ならびに鑑別法とともに報告する。

    二枚貝の貝殻を接合している靭帯は、貝殻が開く方向に力を加える役割をしている。その構造は殻皮層、外層および内層に区分され、内層にはある程度の石灰化が認められる(Trueman, 1949; Owen et al., 1953 など)。靭帯内層の石灰質の物質は、 Mytilus 属(イガイ)や Pinctada 属(アコヤガイなど)では、直径 0.1~0.2 ミクロンの六角柱状のアラゴナイト結晶であることがわかっている(Bevelander & Nakahara, 1969)。

    東京で 40 年以上にわたり研磨業を営んできた(株)内藤研磨の内藤彰治氏により、約38 年前に香港で入手した白蝶貝の靭帯の断片と、その一部を研磨して製作されたカボションが貸与された。カボションは不透明で虹色の光沢をもち、その光沢は繊維状でラブラドレッセンスあるいはオパールの遊色効果などの光学効果に類似している。

    白蝶貝の靭帯は比重が 1.18 と軽く、屈折率は 1.560 であった。試料は、未研磨の断片およびカボションともに、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)の臭化カリウム(KBr)錠剤法によって、アラゴナイト結晶とタンパク質(アミノ酸)を含むことが確認できた(cf. Suzuki et al., 2019)。これらは、拡大検査およびリアルタイム X 線マイクロラジオグラフィ(RTX)によって識別できる、繊維状の物質とマトリックス部分に対応すると考えられる。

    アラゴナイトの存在はラマン分光法によっても確認でき、タンパク質は紫外可視近赤外分光光度計(UV-Vis-NIR)によっても確認できた。鑑別においては、破壊検査である臭化カリウム(KBr)錠剤法による赤外分光分析を避けるため、先に反射分光スペクトルとラマンスペクトルから判断することが望ましい。

  • 矢﨑 純子, 佐藤 昌弘, 渥美 郁男, 江森 健太郎, 北脇 裕士
    p. 17
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    近年、アコヤ真珠に酷似した 6mm以下の有核淡水真珠が市場に流通している※1。また二次流通品などには、アコヤ真珠のネックレスに淡水真珠が数個混入している例も散見される。

    淡水真珠と海水真珠の判別法は、目視や拡大による観察と、蛍光 X 線による微量元素分析の Mn の含有量で判別されるが、鑑別工程で全珠機器測定することは現実的ではない。

    今回、 X 線を真珠に照射すると Mn が蛍光を発する※2ことを鑑別に利用する場合の問題点など、様々な試料を測定し検討したので報告する。

    まず出力条件、撮影条件を検討したが、基本的には既報告にある次の条件が最適であったのでこの条件で行った。

    X 線発生装置: SOFTEX 社 M-100

    出力条件: 90kV、 3mA

    撮影: CANON EOS-KISS X7

    ISO6400、f 4.0、シャッタースピード 30sec

    結果として、真珠層に含まれる Mn 量によって蛍光の強度が変わることが確認できた。

    しかし真珠層のまきが薄いと、淡水産二枚貝から作られた養殖用核の影響があること、その核も貝殻のどの部位から切り出されたかにより Mn 量が異なり、蛍光の強度に反映することも分かった。

    淡水真珠の判別法としての本方法は、まきを考慮する必要はあるが、ネックレスを一画面で確認することができるため、最初の粗選別に用いるには有用であることがわかった。

  • 江森 健太郎, 北脇 裕士, 渥美 郁男, 佐藤 昌弘, 矢﨑 純子
    p. 18
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    真珠は海水または淡水環境で形成され、その起源環境の特定には一般に蛍光 X 線元素分析が用いられている。淡水真珠は Mn(マンガン)を多く含むが、海水産真珠は Mn を殆ど含まない傾向にあり、海水産真珠は淡水産真珠と比べて Sr(ストロンチウム )を多く含むことが一般に知られている。

    蛍光X線元素分析は便利な手法ではあるが、真珠 1 つの測定に数分の時間を要する。真珠鑑別の現場においては、真珠が複数個連になったネックレス等を取り扱うこともあり、それらすべての真珠に対し蛍光 X 線元素分析を行うことは不可能ではないが、現実的ではない。一方、蛍光 X 線元素分析以外に、 X 線蛍光画像による判別法も知られている (Hänni et al., 2005、 Sutas et al., 2013)。しかし撮影された画像を定量的に取り扱う研究はまだ行われていない。

    本研究では、軟 X 線透過装置を使用して真珠の X 線蛍光画像を撮影し、得られた画像を解析することで淡水産と海水産の母貝を判別する方法について検討を行った。

    X 線蛍光画像の取得には軟 X 線透過装置として、 Softex M-100 を用いた。 X 線の発生条件は 90 kV、 3 mA である。また、撮影には CANON EOS Kiss X7 を用い、 ISO 6400、 f4.0、シャッタースピード 30 秒で撮影を行った。使用したサンプルは、淡水養殖真珠とアコヤ養殖真珠が混在した連(珠数 111 点)を分析に用いた。

    画像の解析には次の手法を用いた: (1)まず、撮影した画像を真珠 1 点ずつ切り分けた画像を生成する。 (2)1 つずつすべての画像において、すべての画素から輝度を計算し、 (3)背景を除去した上でその画像の平均輝度を計算し、その真珠の輝度とした。輝度は RGB の値から計算され、 0~255 の数値で表される。

    使用した 111 点の連のうち 14 個が淡水産養殖真珠であり、 97 点が海水産(アコヤ養殖真珠)であることが蛍光 X 線元素分析等の結果わかっている。今回の手法で輝度計算をした結果、淡水産の輝度は 155~197 であり、海水産の輝度は 98~160 であった。両者の輝度がオーバーラップする部分に存在する海水産は 10 点あるが、 90%程度の海水産は淡水産とは違う数値範囲を示した。

    真珠の X 線蛍光画像については、使用された核による蛍光、巻き厚といった問題があるため、確実に淡水・海水を分別できるわけではないが、粗選別として利用するには優れた手法であることがわかった。

  • 渥美 郁男, 矢崎 純子
    p. 19
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    かつて中国産淡水養殖真珠は無核による真珠養殖が一般的であった。

    しかし 20 年程前から核を使用した淡水養殖真も市場に見られるようになった。その後、核の形状(球状や様々な形に研磨した物)や、核のサイズにも多用化が見られるようになった。核の素材として淡水産二枚貝に留まらず貝殻とは異質な樹脂、パラフィン、粘土を固め様な物も核として使用されてきた。近年になりラウンド系の5㎜以下の淡水養殖真珠に球状の核を使用したものも登場している。これは真珠の真円度を増すために行われたと推測する。淡水養殖真珠は形状の真円度が増したことによりアコヤ養殖真珠と外観での判別を困難にしている。本研究では 20 年以上程前から筆者が収集した様々な淡水養殖真珠の入手年代を再調査し、中国産の淡水養殖真珠に見られる養殖用核の変遷として報告する。また最近登場しているラウンド系の5㎜以下の中国産有核淡水養殖真珠について✕線透視装置を用いてその透過像から核のサイズを計測した。また必要に応じて珠を切断し、核を直接観察したので報告する。特に5㎜以下のラウンド系の淡水養殖真珠ではサイズのより異なるがアコヤ養殖真珠の厘珠サイズに使われている核より小粒な核が使用されている場合がある。

  • 高石 浩平, 長谷川 優, 田澤 沙也香, 矢﨑 純子
    p. 20
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    一般にブルー系と呼ばれるアコヤ真珠は、養殖用の核と養殖中に積層された真珠層との境界に黒褐色の有機物が存在している。この有機物が真珠層を通し、グレーからブルーに発色している。これに対し着色されたブルー系真珠は、放射線照射によって養殖用の核を黒褐色にされたもの※1と染料で真珠自体をブルーに着色したものがある。

    ブルー系真珠の色の起源の判別は、その発色要因を確認する方法で行われる。核と真珠層の境界部にある有機物の存在と、放射線照射により黒褐色化した養殖用核は、主にレントゲンと光透過法で判別される※2。

    しかし近年、少量の放射線照射と染料による着色を両方行っているのではないかと疑われるブルー系真珠などがあり、その判別法の精度向上の必要性が高まっている。

    今回、浜揚げ珠を漂白した真珠に 1, 5,10, 30KGyの放射線を照射した真珠、染料着色した真珠と、養殖場から購入した無孔未加工のブルー系真珠および流通していたブルー系真珠を用意し、蛍光観察、光透過法観察、レントゲン観察、紫外可視分光測定、蛍光分光測定を行い、その結果を比較検討した。尚、漂白、着色の処理はその加工工程が把握できるようすべて当研究所で行った。

    次に結果を一覧表とし、判別したい真珠と比較した結果、少量の放射線照射の疑いのある珠と染料による着色の疑いのある珠が含まれることがわかった。

    一覧表を作成し、様々な測定結果をまとめたことにより放射線照射の有無などが比較しやすくなった。

  • 伊藤 映子, 塗野 由香, 國枝 康太
    p. 21
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    白蝶養殖真珠ではバロックと呼ばれる不定形の真珠も多く流通している。また有核養殖真珠の副産物である無核の真珠は、その形状から“ケシ”と呼ばれ人気が高い。無核の真珠には天然真珠、“ケシ”、無核養殖真珠の3つの可能性があるが、それらを厳密に識別することは難しい。

    そこで、 2406 個の無孔の白蝶バロック真珠について軟 X 線透過画像装置によるレントゲン画像から有核か無核かを検査した。 その結果、 35 個が無核真珠であった。

    次に静水重量法による比重測定を行い有核真珠と無核真珠の比重値を比較し優位な差が見られた。また、無核真珠のレントゲン画像による内部構造と比重値とに相関性が認められた。既に報告があるが、鑑別で遭遇した外形やレントゲン画像に疑問をもった白蝶真珠を切断し、その切断面各部について紫外線蛍光反応を観察し、エネルギー分散型 X 線分光法を用いた元素分析を行って検査した。 その結果、淡水真珠を核とした白蝶養殖真珠であることが確認できた。

    X 線検査において遭遇した従来の球状の核とは異なる形状の核を使用した真珠についても紹介し、それらの核を使用する意図について考察したので報告する。

  • 若月 玲子, 伊藤 映子, 塗野 里香
    p. 22
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/07
    会議録・要旨集 フリー

    “ケシ”と呼ばれる小粒の真珠は太古より真珠貝から稀に発見され天然真珠として珍重されてきた歴史がある。

    養殖真珠の技術が確立された以降は、養殖の副産物として定義され流通している。

    “ケシは”真円真珠とはまた異なる価値をもつ魅力的な商材として近年特に需要が高まっている。

    今回の研究では、アコヤ真珠に着目し“ケシ”の歴史とその物性、内部構造等の検査結果を報告する。

    サンプルとしてベトナム・ハロン湾産のアコヤ真珠 73 点を検査する機会を得た。手法としては、顕微鏡による拡大検査、静水重量法による比重値測定、レントゲン画像による内部構造の観察、エネルギー分散型X線分光装置による元素分析等を行った。

    色や形状等の外観特徴とそれらの検査結果を分類し、関連を考察した。

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