宝石学会(日本)講演会要旨
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2024年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
  • 江森 健太郎, 久永 美生, 山本 正博, 北脇 裕士
    p. 1
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    宝飾用に供される合成ダイヤモンドのサイズ、品質は年々向上しており、様々なファンシーカラーも存在している。同じく、メレサイズの合成ファンシーカラー・ダイヤモンドも現在多く流通している。メレサイズのファンシーカラー合成ダイヤモンドは、ジュエリーにセッティングされた天然ダイヤモンドに混入している可能性があるため、注意する必要がある。

    本研究では、 0.02 ct 前後の合成ファンシーカラー・ダイヤモンド、 Green、 greenish Blue、Yellow、 Pink、 orangy Pink、 reddish Orange、Orange、それぞれ 5 pcs、計 35 pcs を研究用に入手し、その特性と鑑別特徴について調査を行った(図 1)。これらはすべて CVD 合成ダイヤモンドとして入手したが、結果的に Orangeの 2 pcs のみが CVD 合成法を用いて製造されたもので、 他 33 pcs は HPHT 合成法で製造されたものであった。 本研究ではこれらのサンプルについて、顕微鏡下による観察、 FTIR、紫外可視分光光度計、 DiamondViewTM による深紫外線蛍光像の観察、 Raman 分光分析機を用いたフォトルミネッセンス分析(PL)を行った。

    Green、 greenish Blue については、 FTIR で窒素が検出限界未満の II 型のダイヤモンドであり、紫外可視分光光度計で明瞭な 741 nm(GR1)の吸収が観察された。深紫外線蛍光像の観察で HPHT 合成特有の像が得られたが、 Green は黄橙色、 greenish Blue は青緑色の蛍光を呈した。PL 分析の結果、 Green からは GR1 (741 nm)より強い NV0 (575 nm)の発光が得られた。

    Yellow に関しては FTIR 分析の結果、高濃度の A センターと非常に微弱な C センターを有することがわかった。分析の結果、それらはHPHT 合成後に放射線処理と HPHT 処理が施されたものであった。

    Pink、 orangy Pink、 reddish Orange、 Orange に関しては Ib 型ダイヤモンドに照射+アニーリングを施したものである。 reddish Orange に関しては色が非常に濃く、照射量が多い。照射量が多いせいか深紫外線による蛍光強度が非常に弱いため、 DiamondViewTM による観察が非常に困難なものがあった。

    本研究では、メレサイズのファンシーカラー合成ダイヤモンドについてルースの状態で検査しその特性を記載した。 CVD 合成石として入手したが、 CVD 合成と HPHT 合成が混在し、放射線照射や HPHT 処理等複合的な処理が施されていた。また、ジュエリーにセッティングされた状態で検査するにあたっては、各種データが正確に取れない場合や、そもそも測定が困難な場合もある。それぞれの合成法・処理の特性を理解し、鑑別に臨むことが重要である。

  • 阿依 アヒマディ
    p. 2
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    真の美しさと稀少さを持つ「ファンシーカラーダイヤモンド」は特殊なカラーダイヤモンドとして大変人気で、高価であるため、様々なカラーエンハンスメントと言われる処理技術によって褐色味や灰色味のあるダイヤモンドを無色に変化させたり、色の薄いものを鮮やかなピンク、パープル、グリーン、イエロー、オレンジ、ブルー、レッド、ブラックなどの色に変化させたりしています。その処理に応用される処理法として、放射線(電子線とガンマ線)照射処理、熱処理、高温高圧処理、コーティング処理などが知られています。各技法から処理されたダイヤモンドを識別するため、まず、自然界で形成された天然ダイヤモンドに生じる欠陥(光学センター)と処理によってダイヤモンドに生じた新たな欠陥の種類を明確に理解しなければ、看破に至らない可能性があり、高い鑑別技術が求められます。

    本研究では、天然ダイヤモンドにしか存在しない光学センターや HPHT 処理によってダイヤモンドからどのような光学センターが消滅されるのか、またどのような光学センターが処理によって結晶内に導入されるのかを実験で検証し、測定した各光学センターの半値幅から看破の可能性を探ってみました。

    褐色を帯びるタイプ II 天然ダイヤモンドをHPHT アニール処理した結果、アニール温度と処理時間によって多くの不安定な光学センターが破壊され、極一部が残留します。HPHT 処理によって天然ダイヤモンドに存在しない光学センターが導入され、看破の指標となります。また、一部の光学センターは天然ダイヤモンドにしか存在しないため、処理によって形成されないことが分かりました。

    照射線処理によってファンシーカラーイエローとグリーンダイヤモンドに形成される光学センター(H1a, H1b, H1c, 595nm, H2, H3, H4, GR1)の吸収と発光特徴を調べ、人為的な照射処理となりえる指標をフォトルミネセンスの発光分光から検討してみました。 宝飾用に供される合成ダイヤモンドのサイズ、品質は年々向上しており、様々なファンシーカラーも存在している。同じく、現在、メレサイズの合成ファンシーカラーダイヤモンドも多く流通している。メレサイズのファンシーカラー合成ダイヤモンドは、ジュエリーにセッティングに混入する可能性があり、注視する必要がある。

    新技法によりコーティングされた超薄層を持つカラーダイヤモンドは拡大顕微鏡では、その表層が観察しにくく、酸を用いて20分以上に熱しないと、通常な超音波洗浄ではそのコーティング層はなかなか剝がれない特徴があります。分光分析からコーティング層由来のスペクトルを検証してみました。

  • 佐藤 貴裕, 中村 卓, 宮川 和博, 佐野 照雄, 有泉 直子, 笠原 茂樹, 小泉 一人, 古屋 正貴, 高橋 泰
    p. 3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    光学顕微鏡によるインクルージョンの観察は、産地鑑別において有用な分析手法の一つであるが、精度の高い産地鑑別を行うためには豊富な知識と経験が必要である。また、観察は人間が行うことから、作業者の経験年数や体調等によって誤判別のリスクが伴う他、1 日に観察可能な宝石数には限りがある。

    一方、 AI による画像判別は急速に発展し、近年では製造業において不良品の検出などに導入され始めている。 AI により宝石の光学顕微鏡像からインクルージョンを自動検出し、検出されたインクルージョンを自動判別できれば、誤判別のリスクを低減し、より効率的な鑑別作業が可能になると期待できる。

    本研究の目的は、物体検出アルゴリズムの一種である YOLO を用いてルビーの光学顕微鏡像を学習し、 AI による画像中のインクルージョンの自動検出および自動判別の可能性を明らかにすることである。

    ルビーの光学顕微鏡像はライカマイクロシステムズの DVM6 に暗視野照明を組み合わせて撮影した。得られた画像には様々なインクルージョンが含まれていたが、本研究ではこれらをその形態によって 3 つのグループに分類した(Group 1:液体や指紋状、羽毛状など広がった形態を示すグループ, Group 2:結晶や二相など単一で閉じた形態を示すグループ, Group 3:針状およびチューブ状の細長い形態を示すグループ)。分類に従ってラベリングした画像を用いて YOLO v8 により学習し、得られた学習結果を用いてインクルージョンの自動検出・自動判別能力を評価した。その結果、全体の平均正解率はおよそ 65%であった。本研究で学習に供した画像数は 200 枚未満と少なかったが、 AI による大まかな分類は可能であることがわかった。

  • 勝亦 徹, 小林 祐太, 坂田 陸, 小島 愛弥加, 人見 杏実, 渡邉 梨々花, 森 有沙, 相沢 宏明
    p. 4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    はじめに

    Fe を添加したスピネル(MgAl2O4)は Fe 濃度、組成比 x=MgO/Al2O3、酸素ガス濃度の違いによって種々の色の結晶が得られる。 Fe 添加スピネルについてはセラミックスの色や発光の報告はあるが、結晶育成の報告は少ない。今回は Fe を添加したバイカラースピネルについて報告する。

    実験と結果

    浮遊帯域溶融法(FZ 法、 Floating zone)を用いて組成比 x=MgO/Al2O3 = 1.0~0.5、 Fe 濃度0.1~2.0 mol%、 100 vol%O2ガスまたは 100 vol%Ar ガスの条件でバイカラーFe 添加スピネル(MgAl2O4)を成長した。図 1 に Fe 濃度 1.0mol%、組成比 x=1.0 の条件で成長したバイカラースピネルを示した。また、図 2 に Fe3+イオンによる波長 455 nm(青色光)の吸収強度とFe2+イオンによる 550 nm(緑色光)の光吸収強度の比率によるスピネルの色の変化を示した。Fe 添加スピネルはピンク色、紫色、緑色、黄色、茶色およびそれらの中間色になることがわかった。

  • 末冨 百代, 鍵 裕之, 荻原 成騎, 趙 政皓
    p. 5
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    石英はあらゆる色を呈する。アメシストは天然の電離放射線の影響を受けることで Fe4+を形成し、 Fe4++O2-↔Fe3++O-の電荷移動遷移により紫色に発色した状態で産出しているが、加熱により Fe4+が還元されて脱色することが知られている。また、シトリンは、格子間サイトにある Fe3+の Fe3++ O2- ↔Fe2++ O-の電荷移動遷移により黄色を呈する。

    加熱やガンマ線が鉱物の色に与える影響を調査することを目的として、天然の石英試料を対象としてガンマ線照射実験を行った。使用した試料はボリビア産のアメトリンとザンビア産のシトリンである。ガンマ線は高崎量子応用研究所の 60Co 線源により 10 日間かけて約 2.2 MGy 照射した。

    アメトリン中の紫部分は、アメシストによる先行研究と同じく、 450℃で 3 時間加熱後に脱色し、 その後のガンマ線照射により色の回復が見られ、 Si4+サイトを置換しているFe が Fe4+→Fe3+→Fe4+と変化したと考えられる(図1)。また、黄色部分は加熱後もガンマ線照射後も色変化がなく、格子間サイトのFe3+に変化はなかったと考えられる。一方で、シトリンはガンマ線照射後に灰黒色へ変化した(図 2)。これらの変化は紫外可視吸収スペクトルでも確認した。

    さらにアメトリン及びシトリンの加熱および照射前後の試料の同一点における赤外吸収スペクトルを測定し、 OH 欠陥の状態変化についても調べた。

  • 三浦 真, 任 杰
    p. 6
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    コランダムは最も貴重な宝石の一つとして古来より珍重されてきた歴史がある。現在の主要な産地としてはミャンマー・スリランカ等が知られているが、日本でもコランダムが産出する。日本のコランダムの殆どは宝石品質でなく、商業的な採掘は行われていないものの、物質循環を理解する上で重要な鉱物であるために、これまで地質学的な研究がなされてきた。

    奈良県二上山麓の香芝市穴虫と呼ばれる地域では戦前から川砂の中からサファイアが稀に見つかることが知られている。この地域の川砂は特徴的にガーネットを多く含み、少なくとも江戸時代からガーネットが研磨材として採取され使用されてきたとされている。その際、ガーネットに混じってサファイアが副産物として見つかっていた様である。穴虫サファイアは薄い六角板状から六角柱状の自形結晶として産し、彩度の高い青~紫色を呈している。一部変色効果を示す様なものもある。透明度もよい事から綺麗な日本のサファイアとして鉱物収集家の間で広く知られているが、結晶サイズが大きいものでも直径約 2mm と非常に小さいため、カッティングには向いていない。これまで穴虫サファイアについての地質学的な研究例はあるものの、宝石学的な観点からの研究例は限られているため、本研究では穴虫サファイアの宝石学的特徴を明らかにし、その成因について考察を行った。

    赤外分光・紫外可視光分析、 LA-ICP-MSを用いた微量元素組成分析を実施した。その結果、変成岩起源を示唆するデータが得られた。先行研究によると、川砂の供給源である二上山を構成するザクロ石含有黒雲母安山岩の中からコランダムを含む変成岩の捕獲岩が発見されている(森本 1949)。穴虫産サファイアは二上山下部に存在する領家変成帯の変成岩起源であるとされていたが(福山・小笠原 2021)、メルト内包物の存在は変成岩起源とは考えにくい。類似した内包物はヨーゴサファイアから見つかっており、穴虫サファイアは似たような起源である可能性がある。

  • 桂田 祐介, Brendan C. Hoare , Sarah E. Arden , Aaron C. Palke
    p. 7
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    バナジウム着色のブルー~バイオレットの灰簾石(ゾイサイト)は、タンザナイトの宝石名で知られ、その産地はタンザニア北東部のメレラニ地域に限られている。メレラニ産のタンザナイトの成因や形成年代については多くの先行研究があり、 650から 620 Maとされるアフリカ造山運動極大期の後、 570~530Maのクーンガン造山運動期に一連の結晶化があったと見られている(たとえばFeneyrol et al. 2017)。

    エチオピア北部アクスム産のサファイアの原石ロットに混入していた淡青色の鉱物片は、検査の結果、ゾイサイトであることが判明した。アクスムのサファイアは玄武岩タイプであり、鉱床は二次鉱床であるが、同地域からのゾイサイトの産出は未報告である。

    本研究では、メレラニでタンザナイトとともに産出するグロッシュラーガーネットに対して適用したレーザーアブレーション・誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)を用いた U–Pb 年代測定法(Hoare et al. 2024)を援用し、アクスム産サファイアと混在していたゾイサイトの年代を測定した。また、これをメレラニ産タンザナイトの年代測定結果と比較した。

    結果は、タンザナイト試料の年代 555.2±5.7 | 8.1 Ma (n = 37/45; MSWD = 1.9)と整合的であり、ゾイサイトは周辺の変成岩に由来するものではない限り、流通の過程でタンザニアのものが混入した可能性が考えられる。

  • 趙 政皓, 北脇 裕士, 江森 健太郎
    p. 8
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    エメラルドはベリル(Be3Al2Si6O18)の一種であり、 Cr3+や V3+が Al3+を置換して緑色を呈する。古くから貴重な宝石として認識され、 16 世紀以来コロンビアの高品質のエメラルドが最も高く評価されている。近年では、世界各地から高品質のエメラルドが産出されるようになり、エメラルドの原産地鑑別の重要性が急速に高まっている。 エメラルドの原産地鑑別についてはこれまで多くの先行研究があるが、ここでは CGL で採用している原産地鑑別の手法と新たに明らかになった問題点について紹介する。 現在、 CGL ではコロンビア、ザンビア、ブラジルなど主要な 10 ヶ国の産地のエメラルド合計 284 石のデータが参照データベースとして記録されている。本研究で用いた手法は、主に顕微鏡観察、屈折率測定、赤外スペクトル、紫外可視スペクトル、 LA-ICP-MS である。

    国内での流通量が最も多いコロンビア産エメラルドは、他の産地と比べ特殊な環境で形成されるため、いくつか際立った特徴がある:例えば、三相包有物がよく観察される;赤外スペクトルに特徴的な 5447 cm-1 付近の吸収がある;紫外可視スペクトルに 830 nm 中心の吸収がほぼない。しかし、これらの特徴は他の産地からの石にもしばしば観察できるようになった:アフガニスタン産エメラルドからも三相包有物を観察できる; Na が少ないタイプのロシア産エメラルドも 5447 cm-1 付近の赤外吸収がある。さらに、図 1 に示すように、 830 nm 中心の吸収が明らかなコロンビア産エメラルドも存在し、コロンビアと他一部の産地のエメラルドが区別しにくいという現状がある。この場合、 LA-ICP-MS による微量元素の測定が鑑別の重要な手がかりとなる。

    また、採掘が長期間続いている地域でも過去と現在が採掘するものが異なることもある。例えば、今流通しているブラジル産エメラルドは主にミナス・ジェライス州産であるが、過去日本に流通したのはバイーア州産のものが多かった。しかし、近年バイーア州で採掘されたというエメラルドは、過去のものと違って高濃度の Fe と Cs が含有され、ザンビア産と間違う可能性が高いものであった。調査の結果、両者は線形判別分析で分別することができることがわかった。このように、エメラルドの新しい産地が発見されるだけでなく、流通したものと同じ地域からの石が過去のものと異なる特徴を有することもあり、エメラルドの産地鑑別はいつか宝石学者にとって大きな挑戦になるかもしれない。そのため、エメラルドの特徴を注意しつつ、データベースを常に更新することが極めて重要である。

  • 福田 千紘, 河野 重範, 江島 輝美
    p. 9
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
    会議録・要旨集 フリー

    石英は高温相(β)と低温相(α)が知られており高温相の物は高温石英と呼ばれているが結晶形態を留めていても低温相の石英になっているものが殆どである。栃木県那珂川町和見には中新統荒川層群小塙層が分布している。

    我々の研究グループは、和見の小塙層上部付近(約 12 Ma)において高温石英が特異的に濃集する層準を発見した。今回は、現地踏査と露頭から採取された堆積物試料から分離した高温石英および長石の結晶の特徴および形態について報告を行う。

    高温石英を多産する露頭は、高さ 8 m前後で地層は 3-4°西傾斜、岩種は淘汰の悪い凝灰質砂岩である。部分的に泥岩およびパミスタフの単層を挟み、堆積構造は一方向の流れで形成されるトラフ型斜交層理、および生物擾乱が観察される。また、タコアシカイメンの骨格化石も散在的に産出する。高温石英および長石は本露頭においてすべての層準で含有が認められる。

    和見産の高温石英は、特定粒度ではなく細かい粒子から荒い粒子まで様々な粒径のものが含まれる。自形の結晶が優勢で、柱面が殆ど見られないソロバン玉のような形状の結晶が多い。透明度が高くクラックが少ない上、殆ど表面の摩耗が見られないため、降下堆積後はあまり移動していないものと考えられる。色調は淡ピンク~褐ピンクであり、色因は加熱実験を行った結果、 500℃1 時間の加熱で退色したため煙水晶と同様の自然放射線起源のものと考えられる。内部には無色から褐色の高温石英自形結晶と同型のネガティブクリスタルが含まれ、気泡を含む二相 inc を成している。粉末 XRD 分析の結果、相転移しており低温石英に変化している。また、薄片を作成する際薄くなると必ずひび割れて光学歪が観測された。これは相転移時の体積収縮に伴う歪の影響と考えられる。 FTIR による分析では、 Li に関係するとされる 3000cm -1 台の多くの水晶にみられる吸収が出現しない。これは Li に乏しい環境で生成されたことを示し、ペグマタイト環境とは異なることを示唆する。さらに、既知の高温石英産地である宮城県仙台市青葉区郷六産と茨城県日立市会瀬産の試料との比較も行った。

    和見産の長石にはアルカリ長石と斜長石の両方が含まれる。アルカリ長石は多くが劈開片として産し完全に無色透明である。一部にカルルスバッド双晶の模範的な結晶も見られた。クロスニコル下では極微細なパーサイト組織が認められる。平均組成は Or74 程度で、粉末 XRD 分析の結果単斜晶系でありサニディンであった。斜長石は殆どが自形結晶で各種双晶が形態から判別できるものが多く、無色から淡黄色、一部にイリデッセンスを呈するものがある。クロスニコル下では典型的な累帯構造を呈し火山岩起源の斜長石と類似した特徴を持つ。平均組成を測定した結果は An43であった。

  • 中嶋 彩乃, 古屋 正貴
    p. 10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    グアテマラ産のジェダイトーオンファサイト(以下翡翠とする)については、これまでも黒~青いオンファサイトに分類されるものが知られていた。近年グラテマラの Zacapa サカパ近郊から緑色の翡翠が発見され、市場でも見られるようになっている。今回緑色のものを 17pc、白に緑の脈があるもの 8pc、を得て、その特徴を調べた。

    外観については、緑色は鮮やかで濃い印象だが、同時に暗いものが多い。また、透明度については石それぞれだが、組織が繊細でとても透明度の高い部分もみられた。屈折率は高めで 1.66-1.67 であったが、色との関係はなかった。

    蛍光 X 線による分類では Na/(Na+Ca)比が49-72%ほどですべての緑色のものはオンファサイトに分類されたが、白いものは逆に同比率が 97%以上とジェダイトに分類されるものだった。

    また、反射 FT-IR では下図のようなオンファサイト型とジェダイト型に分類された。EDX で Na/(Na+Ca)が 65-70%ほどのものでも、 1100~950cm-1 のスペクトルの形状はジェダイト型のものだったが、 650cm-1, 570cm-1 付近のピーク位置についてはオンファサイト型に分類された。

    分光特性については、緑色のオンファサイトのものでは 689nm 他の明瞭なクロムラインの他、 437nm の Fe3+によるシャープな吸収(ジェダイトライン)は見られるが、 432nmくらいに付随する吸収バンドは見られなかった。

    このように、グアテマラ産の鮮やかな緑色の翡翠は、オンファサイトに分類されるものが多く見られた。

  • 尾崎 良太郎, 壽崎 沙紀, 林 航太, 菊池 雄太, 門脇 一則
    p. 11
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    構造色は、物質の微細構造によって光が干渉し、特定の波長の光が強調される現象であり、真珠の構造色は、アラゴナイト結晶層とコンキオリン層の多層構造により発現する。そのため、真珠の色は、この多層構造の周期性によって決まる。これまでに我々は、透過の干渉色と反射の干渉色を光学計算することによって真珠の外観を再現することに成功している。一方、イミテーションパールは多層構造を有していないが、外観は真珠とよく似ている。これは、イミテーションパールの表層にパール塗料をコーティングしているからである。また、普通のプラスチック球は、真珠とは全く違う外観を示す。本研究では、真珠、イミテーションパール、プラスチック球は光学的にどのような差があるかということを調べている。

    真珠とプラスチック球の反射率の違いを調べるために、反射スペクトルを測定した。図1は、真珠とプラスチック球の反射スペクトルである。真珠はプラスチック球より高い反射率を示した。次に、プラスチック球にパール塗料をスプレーしたときの反射率の変化を調べた。スプレー回数に応じて徐々に反射率が上昇した。このときの外観の変化を図 2 に示す。スプレー塗装したプラスチック球は、光沢が真珠の外観に近づくことが分かった。また、定量的にこの変化を議論するために、実験の反射率に基づきコンピュータグラフィックスを作成したところ、実際の外観と良い一致を示した。このことから真珠とプラスチック球の外観の違いは、定量的に評価することは可能であるといえる。

  • 渥美 郁男, 藤原 知子
    p. 12
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    1960 年代から宮城県女川産のアワビ養殖半形真珠は宝石・真珠業界のマーケットで少数ながら流通してきた。外観特徴として色調のみならず山高なドーム状がとても魅力的である。以前、女川産のアワビ養殖半形真珠の現状を女川町役場に問い合わせたところ、既に女川では真珠養殖は行われていなという。また、それらの真珠養殖の記録も 2011 年の東日本大震災により殆ど残っていない。唯一、「女川町誌」に生産者である小松氏のアワビによる半形真珠の養殖の経緯が若干記載されているだけである。今回は、もはや伝説となってしまった女川産のアワビ養殖半形真珠の紹介と、巻貝に属するアワビと二枚貝から生まれる真珠の構造的な違いなどについて簡略に報告する。

  • 伊藤 映子, 若月 玲子, 塗野 里香
    p. 13
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    養殖真珠において真珠層の厚さ『巻き厚値』は真珠の品質要素の一つである。 2022 年に有核養殖真珠の『巻き』の新たな評価指標として『真珠層体積率』をルース 1500 点の測定結果に基づき提案したが、今回は真珠製品として最も一般的に流通している直径6 mm~9 mm までのあこや真珠ネックレスについて巻き厚値の測定を行い、『巻き』の評価を考察する。

  • 伊藤 映子, 國枝 康太
    p. 14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    1907 年にアコヤガイの真円真珠養殖が発明されて 116 年が経つ。 現在ではその養殖技術が普及し世界中で各種の養殖真珠が生産されている。 日本で生産が開始したアコヤ養殖真珠は現在では中国、ベトナム、 UAE などの諸外国でも生産されている。 今回はベトナム ハロン湾産アコヤ養殖真珠について検査した結果を日本産アコヤ養殖真珠との比較を交えて報告する。

  • 山本 亮, 田澤 沙也香, 矢崎 純子
    p. 15
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    真珠における蛍光X線分析は、微量元素として検出されるストロンチウムとマンガンの含有量により産出母貝を特定することを目的として行われる。海水産真珠と淡水産真珠を比較すると、海水産真珠ではストロンチウムが、淡水産真珠ではマンガンが多く検出される傾向にある。(小松、 1992)

    これまで淡水産真珠の判定は、マンガンがストロンチウムより多く検出されることが指標として用いられてきた。近年、 10mm を超える大型の有核淡水真珠や 6mmを下回る外観がアコヤ真珠と類似したものなど様々な淡水真珠が流通している。(2023、宝石学会発表)これらの真珠を分析したところ、マンガンとストロンチウムの含有量は真珠により様々であり、単純にマンガンの量だけでは判断できない事例も確認された。

    また、海水産真珠ではストロンチウムの含有量が多く検出される傾向にある。この含有量についてアコヤ真珠で比較したところ、真珠の大きさにより検出量に違いが確認されたので、これらについて報告する。

    最後に、小実験として真珠層下の物質による検出元素への影響について調べた。近年流通する真珠には、種類に関係なく真珠層が非常に薄い、いわゆる“うすまき”と呼ばれる真珠が多く見られる。このような真珠を計測した際、真珠層下の物質が計測値に与える影響を考え、貝殻真珠層の薄片を用いた実験を行ったので報告する。

  • 矢﨑 純子, 田澤 沙也香, 佐藤 昌弘
    p. 16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/05
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    クロチョウ真珠などの濃色系真珠は、従来漂白などの加工が行われていなかった。しかし近年、漂白あるいは蛍光増白剤使用と思われるような処理が行われているクロチョウ真珠が見られるようになってきており、それらの処理の目的や方法は公開されていない。

    今回、クロチョウ真珠に実際に漂白を行い、その変化を観察することで、これらの処理の目的や方法が推定できないか、また、処理の有無の判別ができないかを考察した。

    試料のクロチョウ真珠は半分に切断し、貝殻片は稜柱層を削り取り、半分に切断し、それぞれ片方を漂白、他方を未処理対照試料とした。漂白は、5%H2O2-水溶媒溶液で LEDライトを照射しながら常温で 60 日間行ない、実験試料と未処理試料を比較観察した。その後、漂白後と未処理の真珠試料の薄片を作製し、断面色素等の変化を観察した。

    漂白と未処理の試料を比べると、貝殻は色が薄くなり、真珠は赤みが減少している。紫外可視分光でも同様の結果が得られた。また、タンパク質の特徴である 280nm の吸収(田澤、 2023)は漂白により消失した。蛍光分光では、励起光 280nm、蛍光 330nm のピークが漂白により消失した。

    本実験は、真珠層の断面が漂白液に直接接触しているため、漂白の進度は早いと考えられるが、これらの結果を用いて、実際に流通している真珠の判別を検討したので報告する。

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