宝石学会(日本)講演会要旨
2020年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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2020年度 宝石学会(日本) オンライン講演会発表要旨
LA-ICP-MSを用いたパライバ・トルマリンの分析と原産地鑑別
*江森 健太郎北脇 裕士
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p. 54

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抄録

鉱物としてのトルマリンは化学組成の幅がきわめて広く、スーパーグループを構成している。一般化学式はXY3Z6(T6O18)(BO3)3V3Wで表される。一般に宝石市場で見られるものは elbaite、fluor-liddicoatite、uvite、draviteである。

本研究で取り扱うパライバ・トルマリンは殆どが elbaiteであり、一部 fluor-liddicoatiteを含む。 LA-ICP-MSを用いたトルマリンの分析については「組成の幅が広く内標準元素を用いることができない」「Li、 Bの測定に適切な標準物質を用意することが難しい」といった問題が存在する。 LA-ICP-MSを用いたトルマリンの分析方法については Sun et al., 2019による先行研究があるが、本研究においては elbaiteには Liが多く含まれることもあり、 (1) B siteは Bが占める、 (2) T siteは Siと Alが占める、(3)Z siteを占める元素のうち Al以外は極微量であるため Alが占める、 (4) Liの濃度は Y siteに入る陽イオンの合計から計算する、(5)Vと Wは OHが占める、という 5つの仮定から元素の mol比を求め、電荷バランスから組成式を計算、組成式から元素濃度を再計算するという手法で定量分析を行った。

筆者らはパライバ・トルマリンの産地鑑別について、宝石学会(日本)2017年講演会にて「多変量解析の宝石学への応用」の発表の中で紹介したが、 2産地間毎の比較であった。本研究では宝石品質パライバ・トルマリンについて以上の計算法を用いたLA-ICP-MSによる組成分析と鉱山別、色調別に詳細な産地鑑別の応用を検討した。

本研究では様々LA-ICP-MSは ICP-MS装 置として Agilent 7900rb、LA装置としてNWR UP213を用い、ブラジル産 116点(バターリャ、ムルング、キントス)、ナイジェリア 80点、モザンビーク産 49点のサンプルを分析に用い、色を「ブルー」「グリーンブルー~ブルーグリーン」「グリーン」系の3つの区分に分け、検討を行った。

また、パライバ・トルマリンにはfluor-liddicoatiteも含むがパライバ・トルマリンに相当する fluor-liddicoatiteはモザンビークからしか産出しないため、本研究では除外した。

ブルー系のパライバ・トルマリンは Cu vs Gaのプロッティングを行うことで Cuが多いブラジル産、 Gaの多いモザンビーク産、両者の含有量が低いナイジェリア産と区別することができることが判った。また、ブルーグリーン~グリーンブルーの色相のパライバ・トルマリンは Cu-Ga-Znプロットを行うことでおよそのグルーピングが可能であるが、オーバーラップする部分も多いため、線形判別分析、ロジスティック回帰分析を導入することで精度の高い産地鑑別が可能になることがわかった。グリーン系については、ブラジル産は Pb + Gaが少なく、ナイジェリア産は少ないといった傾向がある。

産地鑑別の研究は出所の確かなサンプルの収集が肝要であり、現時点ではサンプル数が不十分な点がある。今後はサンプルを増やしデータベースを充実させていく予定である。

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