宝石学会(日本)講演会要旨
2021年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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2021年度 宝石学会(日本) オンライン講演会発表要旨
LA-ICP-MS を用いた真珠の産地鑑別の試み
*江森 健太郎北脇 裕士矢﨑 純子
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キーワード: pearl, origin determination, LA-ICP-MS
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p. 68

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抄録

アコヤ養殖真珠は現在では、海外でも養殖がおこなわれているが、JAPAN ブランドとしての国産アコヤ養殖真珠の人気は高い。また、近年他分野でよく話題となるトレーサビリティーの問題からも国産アコヤ養殖真珠の産地鑑別は潜在的な需要があると推定される。

LA-ICP-MS を用いた真珠の産地鑑別については2017 年宝石学会(日本)講演会で矢﨑らが奄美大島、インドネシア、ミャンマー産ゴールド系シロチョウ真珠の産地鑑別についての発表を行っている。

本研究では、国産と海外産のアコヤ養殖真珠の産地鑑別を行う前に、LA-ICP-MS を用いた国産のアコヤ養殖真珠の産地鑑別の可能性を調査した。

真珠は加工がほどこされる宝石であり、毎年母貝から取り出される宝石でもある。加工は薬品等に浸漬する作業を伴うため、真珠層中のタンパク質に含まれる成分が流出、もしくは薬品成分の沈着が想定される。また、養殖する海域の化学組成も毎年均一でない可能性があるため、浜揚げされた年による微量元素濃度差がある可能性も存在する。

加工による変化の調査は、産地毎に行うべきであるが、産地・加工過程が多く、煩雑になるため、比較的近い同一県内である長崎県対馬・壱岐・佐世保で浜揚げされたアコヤ養殖真珠計20 点をサンプルとして用いた。未加工の浜揚げ珠5 点、浜揚げ後、メタノールを用い50℃で一晩前処理を行った真珠5 点(前処理珠)、前処理後に2%過酸化水素水を用い1~6 週間漂白した真珠5 点(漂白珠)、漂白後0.1%の染色溶液を用い一晩調色を行った5 点(調色珠)に分け、分析を行った。

また、産地による違いを確認するため、2018年に愛媛県宇和島と長崎県壱岐で浜揚げされたアコヤ養殖真珠10 点ずつ分析を行った。

分析に用いたLA-ICP-MS 装置はレーザーアブレーション装置としてNEW WAVE UP-213、ICP-MS 装置としてAgilent 7500a を用いた。

加工による変化を追った結果、B、Na、Mg、K、Mn、Sr といった主要な元素に多少の変動が見られたが、誤差範囲で違いを見出すことはできなかった。しかし、線形判別分析を用いてグループ分けを行ったところ、浜揚げ珠、前処理珠、漂白珠、調色珠による違いが見られたが、加工過程による元素の動きを追うことはできなかった。

2018 年愛媛県宇和島と長崎県壱岐で浜揚げされた浜揚げ珠については、Na vs. Mg プロットを行った結果、Na の量においては壱岐産が多く、Mg の量については宇和島産が多いという結果が得られ、両者を高い精度でわけることが可能だが、わずかにオーバーラップする部分が存在した。この2 者について、線形判別分析、ロジスティック回帰分析を行ったところ、両者は明瞭に分けることができた。

LA-ICP-MS を用いた真珠の産地鑑別については、加工による影響、海洋による影響が存在する上、生産地も多く、調査しなければいけない項目は非常に多い。しかし、本研究において愛媛県宇和島、長崎県壱岐で浜揚げされた真珠においてNa、Mg における明確な差を見出すことができた。これは、海域による環境の違いが真珠に与える影響があると推測され、産地鑑別の可能性を提示することができたのではないかと思われる。

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