宝石学会誌
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平成29年度宝石学会(日本)講演会論文要旨
天然と誤認し易い特徴を示す合成ダイヤモンド 2 種
北脇 裕士江森 健太郎久永 美生山本 正博岡野 誠
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2018 年 33 巻 1-4 号 p. 44

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抄録

合成ダイヤモンドの鑑別には、宝石顕微鏡下における拡大検査、紫外線蛍光検査、歪複屈折の観察などの標準的な手法が不可欠であるが、多くの場合フォトルミネッセンス(PL)分析や DiamondViewTM による観察などの先端的なラボの分析が必要である。本報告では、①拡大検査において明瞭な直線性色帯を示す褐色の CVD 合成ダイヤモンドと②FTIR 分析において B2 センタ(プレートレット)と C-H関連ピークを示す黄色 HPHT 合成ダイヤモンドについて紹介する。これらの特徴はこれだけをみると天然と誤認しやすいもので、他の分析を併用した総合的な鑑別が不可欠である。

① 拡大検査において明瞭な直線性色帯を示す褐色 CVD 合成ダイヤモンド

天然の褐色ダイヤモンドの多くは塑性変形に由来して形成されるいわゆる Brown graining を伴っている。これらは{111}面に平行で、たいていカットされたダイヤモンド全体に及んでいる。 Graining は 1 方向の場合もあるが、 2 方向あるいは 3 方向とそれぞれが交差していることも多い。

いっぽう、今回検査を行った 1.027ct, Fancy Dark Brown のダイヤモンドは 1 方向のみに複数の明瞭な褐色の色帯が見られた。各種検査の結果、当該石は CVD 合成ダイヤモンドであり、成長後に HPHT 処理が施されていない As grown と思われる。また、褐色の直線性色帯は天然ダイヤモンドと同様な塑性変形に由来するものではなく、種結晶の方位{100}に平行な成長時の不均一性(非ダイヤモンド状炭素や vacancy clusters の集積の相違)に由来すると考えられる。

②FTIR 分析において B2 センタを示す黄色 HPHT 合成ダイヤモンド

商業的に製造される黄色の HPHT 合成ダイヤモンドはⅠb 型で置換型単原子窒素を 200ppm 程度含有している。より高温で製造されるか HPHT 処理が施されることでⅠb + ⅠaA 型になることは良く知られている。

いっぽう、今回検査した 0.066ct, Fancy Vivid Yellow のダイヤモンドは FTIR 分析にて C センタと A センタに加えて B センタと B2 センタ(プレートレット)が検出された。トータルの窒素濃度は 700ppm に及んでいた。また、 3107 cm-1 に C-H 関連ピークが認められた。(PL)分析および DiamondViewTMによる観察などの結果、当該石は Co を溶媒に用いた HPHT 合成ダイヤモンドであり、成長後に放射線照射と HPHT 処理が施された HIH: HPHT growth/ Irradiation/ HPHT treatment と結論付けられる。

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