宝石学会誌
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有色合成水晶の宝石学
BALITSKY V. S.
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1981 年 8 巻 1-4 号 p. 103-117

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抄録

色のついた水晶の同定と, 他の鉱物種からの識別は,宝刀研究者にとって, さして困難な問題ではない。しかし, 天然の結晶ができたのと酷似した環境条件下で育成した水晶およびその色のついたものの同定・識別は, 他の合成物質の場合よりもはるかにむずかしい問題をふくんでいる。これはとくに, 合成アメシスト, 鉄着色のツドリン, および煙水晶の場合しかりで, これらでは, その結晶構造も, 形態的た特性も, 色中心も天然と合成結晶でほとんど同じである。ファセット・カットした有色石の中で, 合成水晶を同定するためには, 宝石学者は, 結晶全体の中および, 可能なカット方向のすべて, および問題の石のファセット過程でのこれらの方向の中での無数の不均質性の分布(成長分域, 成長帯, 双晶, 包有物など)を考慮しなければならない。合成でつくった色つきの水晶中には, 緑派万, 絹雲母, 赤鉄鉱, 角閃石, 金属硫化物およぴその他の液体包有物(天然の結晶で普通にみられる)は含まれていたい。グリーン, ブラウンおよびプルーの結晶の場合には, 色自体が, 決定的危ファクターになる。Feで着色した合成シトリンを同定するための最もはっきりしたサインは, 合成結晶中にドフィーネおよびブラジル双晶がないことである。ほぼ中性のフッ化溶液中で育成した合成アメシストを同定するのは, さほどむずかしいことではない。この種アメシストは, ほとんど例外在くある種の''流れ''模様(繊維構造)を示し, その方位は結晶の光学軸に従っている。さらに, この種結晶には双晶がふくまれておらず, その赤外吸収スペクトルは, 3640,3670および3685cm<-1>に特徴的た吸収バンドを示している。これらのバンドはすべて, 合フッ素媒質中で育成した水晶すべてに共通にみられる。これらのバンドは, 天然水晶にも, アルカリ性溶液中で育成した合成水晶中にもみられない。アルカリ性溶液中で育成したアメシストを天然アメシストと識別するのは極めて困難である。色が均質で双晶をふくんでいない場合にはとくにむずかしい。しかし, 逆に, 色が余りに均質で双晶をふくんでいないアメシストがあれば, かえって疑惑をよび, 合成ではないかと考えるであろう。もしドフィーネやブラジル双晶がふくまれていれば, 決定的ではないにしろ, 天然のものという証拠にたり, アメシスト同定が容易にたる。

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© 1981 宝石学会(日本)
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