海道の珪肺症と肺癌発生が密接な関係にある事実に基づき, 塵肺症, とくに珪肺症の肺癌発生におよぼす影響を実験的に検べた.マウスに足尾鉱山の珪酸塵を吸入あるいは静注し, さらに4NQOの皮下頻回注射によって肺腫瘍を誘発し, 非珪症対照群と発癌の頻度を比較した.
今回の実験ではマウスに珪症はえられず, 肉芽腫程度の塵肺症に止どまったが, この程度の肺変化は, 4NQOの肺腫瘍発生にはなんらの影響を及ぼさなかった. この結果は直ちに珪症が肺癌の発生に無関係であるということを意味するものではなく, なんらかの珪症が肺癌発生に関係ある可能性はなお残されていると考えられる.