反応と合成の進歩シンポジウム 発表要旨概要
第29回反応と合成の進歩シンポジウム
会議情報

ポスター発表
SmI2を用いた芳香環へのラジカルスピロ環化反応
大野 浩章*岩崎 宏樹奥村 光晶前田 真一郎田中 徹明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 140-141

詳細
抄録
<目的>スピロ環化合物は、ただひとつの炭素原子を2つの環が共有している二環性化合物であり、生理活性天然物においてもよく見られる構造である。ラジカル閉環反応はスピロ環の有用な合成法のひとつとして知られているが、芳香環に対するラジカル反応を用いたスピロ環の構築はそれほど知られていない。これはラジカル付加反応の可逆性と、スピロへキサジエニルラジカル中間体2の不安定性に起因するものと考えられる。すなわち、中間体2は、より安定なアルキルラジカル種へと分解しやすく、また縮環化合物3へ転位する場合も多い。しかしながら、この不安定なヘキサジエニルラジカル中間体を効率よく酸化または還元し、適当な求核体や求電子体でトラップすることができればスピロ環化合物4を効率よく得ることができると考えられる (Scheme 1)。当研究室では、SmI2を用いた芳香環へのラジカル環化反応において、SmI2単独ではラジカルイプソ置換反応が進行するのに対し (経路A, Scheme 2)、HMPAを添加すると反応の閉環様式が劇的に変化し、エステルのパラ位で閉環が起こることを見出している (経路B)1) 。このことから、エステルのパラ位にカルボニル側鎖を有する基質を用いれば、SmI2 / HMPAによりスピロ環化合物を合成できる可能性がある。そこで今回、SmI2を用いた芳香環へのラジカルスピロ環化反応を検討した。 <実験・考察>SmI2を用いたスピロ閉環反応における最適条件を検討した結果、SmI2 (5当量)、HMPA (18当量)、およびiPrOH (2当量) を用いると最も高い収率でスピロが得られることが分かった。次に、適用範囲の拡大を目的として様々な基質を用いた反応を検討した。その結果、五員環だけでなく、四及び六員環構築に適用できることを見出した (Scheme 3) 2) 。ラジカル的に五及び六員環のスピロ環を構築する例は多数報告されているが、四員環の構築ができる例はほとんど知られていない。また、立体的に嵩高い置換基を有する基質10, 11を用いてもまずまずの収率でスピロ環化合物を与え、本反応が立体的制約を受けにくい一般性の高い反応であることが明らかとなった。 さらに芳香環上の電子密度の影響を調べる目的で、他の電子求引基を有する基質を用いた反応を検討した。その結果、スルホンアミド基のようにエステル基よりも強い電子求引能を有する基質では縮環成績体のみを与え、またアミド基を有する基質ではスピロ閉環体を与えたことにより、本スピロ環化反応に際しては芳香環上の電子密度が極めて重要な役割を果たしていると考えられる (Scheme 4)。  また本反応において反応中間体と考えられるジエニルアニオンを求電子体で捕捉することで、本反応をスピロ環の構築を伴うone-potアルキル化反応に展開することを試みた。種々の求電子体を用いて、プロトン源の非存在下に反応を行ったところ期待通りの反応が進行し、エステル基の付け根の炭素原子に求電子体が導入されたスピロ環化合物を2種の異性体混合物として得ることができた (Scheme 5)3)
  Fullsize Image
著者関連情報
© 2003 日本薬学会
前の記事 次の記事
feedback
Top