日本ハンセン病学会雑誌
Online ISSN : 1884-314X
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原著
後期高齢者となった瀬戸内地区A療養所のハンセン病回復者が語った生活困窮
―太平洋戦争前後に入所した回復者の語りより
谷川 貴浩宮脇 秀子新上 仁美天野 芳子近藤 真紀子
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2015 年 84 巻 1 号 p. 37-50

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抄録

 ハンセン病療養所では、昭和30年頃まで生活困窮が顕在していた。後期高齢者となったハンセン病回復者が当時の生活困窮をどのように意味づけるのかを明らかにするために、瀬戸内地区A療養所の回復者に半構造化面接を行い、その語りを質的帰納的に分析した。回復者の語った生活困窮は、1. 自給自足の生活防衛、2. 苦境を乗り切る人間的逞しさ、3. 知恵者の集まり、4. 自主自衛の組織形成、5. 互助相愛、6. 支援を勝ち取る国との闘いに集約された。人生の最終段階を生きる回復者は、自給自足・自主自衛・互助相愛のシステムを備えたコミュニティーを形成することで、孤島での生活困窮を切り抜けたと意味づけており、老年期の発達課題 (統合vs絶望) の達成が順調であることを示唆する。また、A療養所の固有の特徴は、水不足と、遍路巡礼体験者 (放浪癩) の存在である。尚、全対象者の入所時期が太平洋戦争前後の集中したため、A療養所の歴史の全ては網羅せず、且つ、主観に基づく歴史である。

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© 2015 日本ハンセン病学会
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