2026 年 94 巻 3 号 p. 87-93
らい菌(Mycobacterium leprae)は、ハンセン病の原因菌であり、宿主の強い免疫応答を引き起こすことなく、長期にわたって潜伏感染を成立させる。実際、ハンセン病は数年におよぶ慢性疾患として進行することが多く、これはらい菌が何らかの免疫回避機構を備えていることを示唆している。これまでに、らい菌の細胞壁に豊富に存在する糖脂質PGL-I(フェノール糖脂質-I)1)が免疫抑制的な作用をもつことが知られていたが2,3)、らい菌が有する免疫賦活成分については網羅的な解析がほとんど行われていなかった。
受賞論文4)では、らい菌に含まれる潜在的なPAMP(病原体関連分子パターン)として、PGL-I生合成経路の中間体であるPGL-IIIを同定し、これがC型レクチン受容体Mincle(macrophage-inducible C-type lectin)を介してマクロファージを強力に活性化することを明らかにした。また、PGL-III がらい菌に微量にしか含まれていないということは、らい菌がPGL-IIIをPGL-Iへと迅速に変換していることを暗示している。このことから、らい菌はPGL-Iによる免疫抑制を維持しつつ、PGL-IIIによる免疫賦活を阻止するという、単純ながらも効果的な免疫回避戦略を備える可能性が示唆された(図1)。この発見は、らい菌が宿主の自然免疫系とどのように相互作用しているのかを理解するうえで重要な一歩であり、慢性感染を成立させる分子基盤の一端を明らかにするものである。この糖脂質代謝経路のさらなる解析により、ハンセン病に対する新たな治療戦略を提供できると期待される。