1997 年 66 巻 2 号 p. 109-118
ハンセン病に伴う心•血管系の変化についての報告は少なく,不明な点が数多く残されている.今回,著者はハンセン病剖検例(L型47例,B郡2例,T型14例)および生検例につき,心•血管系の肉眼的•組織学的観察に加え,電顕的に小血管•毛細血管の変化の検討を試みた.心臓の変化として,萎縮,肥大,梗塞,線維化,心内外膜炎,冠動脈硬化などを伴っている症例を経験したが,線維化の高度のものはT型に有意にみられた.心重量はT型は加令とともに減少傾向を示したが,L型はその傾向になく,むしろ増加する症例もみられた.また,心外膜の脂肪組織内の動脈周囲および心筋内小動脈周囲の末梢神経に萎縮,線維化,肥大,過形成像が認められた.これらは末梢神経の栄養血管の加令性変化とともに,ハンセン病による末梢神経の栄養血管の循環障害,血管透過性の亢進,基底膜の多層化や肥厚による乏血性変化が観察された.これらの末梢神経は心外膜の脂肪組織内の動脈周囲に分布していることから,血管運動神経として動脈変化に関与したことが推察され,虚血性心疾患の発生ないしは線維化病巣の進展に寄与したことも考えられる.