2003 年 23 巻 2 号 p. 160-167
扁桃体が感情認知にかかわることは古くから知られているが,扁桃体病変例でも表情や音声からの感情認知に障害のない例が存在する。この結果の不一致については,病因や病変の限局の程度から論じられているが,いまだ明らかではない。また,表情と音声からの感情認知を同一症例において同時期に検討した研究は少なく,感情認知におけるモダリティー特異性を厳密に論じることは困難であった。今回われわれは,脳炎による両側扁桃体病変例における感情認知を,表情 (動画および静止画) ,音声,文章という3つの異なる刺激モダリティーを用いて検討した。結果として,扁桃体病変例における表情認知障害はみられず,音声,文章からの感情認知において,恐怖感情のみ正答率の低下がみられた。このことより,感情認知の神経機構にはモダリティー特異性が存在し,音声や文章からの感情認知には扁桃体を含む側頭葉内側の広範領域がかかわると考えられた。