高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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シンポジウム : 発達と加齢の高次脳機能
  • 丹治 和世
    2024 年 44 巻 2 号 p. 125-131
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      発達障害は神経発達症とも呼ばれ, 定義上, 脳機能の障害である。しかし画像診断上, ほとんどの症例で後天的な脳損傷のような病巣はみられない。発達障害を神経心理学的に理解するためには, 病巣にもとづく局在論とは異なるアプローチが必要である。Jackson や山鳥が築いてきた非局在論的神経心理学では, 系統発生, 個体発生, そして微小発生の過程で階層的に展開し, 創発するものとして心理過程を説明しようとしてきた。この学派の見地からみると, 発達障害でみられる症状の多くは, 単なる機能の欠損や非典型的な機能ではなく, 神経機構の階層構造間の解離や, ヘテロクロニー (異時性) を反映するものとみなすことができる。種や個体としての発達の履歴を意識しながら症状の病態生理を考えることが発達障害臨床における神経心理学的なアプローチの 1 つになりうると考えられる。

  • 月浦 崇
    2024 年 44 巻 2 号 p. 132-136
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      認知機能は加齢に伴って個人差が大きくなる一方で, 脳構造の加齢による変化だけではその個人差は説明できないことが知られている。この認知機能の加齢に伴う個人差拡大の基盤として, 「認知予備力」の概念が考えられている。認知予備力とは, 生物学的変化である神経病理への耐性として定義されており, 教育年数や職業, 運動, 食事, 社会的活動などの社会的要因の影響によって, 認知機能が維持されることへの説明概念として用いられている。本稿では, 高齢者の認知機能の個人差の原因となる運動や食事に関する身体・健康面のライフスタイルと, 社会的活動に関する精神面のライフスタイルの違いが認知予備力に対してどのような影響を与えるのかについて概観する。認知機能の加齢変化の理解に対して, 認知予備力の概念は重要な示唆を与えてくれる。

  • 松井 三枝
    2024 年 44 巻 2 号 p. 137-141
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      脳の病理と実際の認知機能の水準が必ずしも一致しないことの説明として, 認知予備力 (cognitive reserve) という概念が近年提唱されてきた。認知予備力とは, 脳の病理や加齢の影響を受けても認知機能の低下を抑える個人の潜在的な能力を意味する。認知予備力の高い人は低い人より, 脳に損傷を受けても機能障害が生じにくく, また, 健常加齢でみても認知機能の低下の程度が異なることが予測されてきた。 これまで, 主に高齢者や認知症でこれらの認知予備力プロキシと認知機能との関係が多く検討されてきた。 さらに, さまざまな神経・精神疾患への認知予備力の考え方の応用も考えられる。ここでは, そのための基本的な考え方を整理し, さらに, 臨床神経心理学の観点から認知予備力についてのこれまでの研究を紹介しつつ臨床患者をよりよく理解するための視点を取り上げた。

  • 三浦 佳代子
    2024 年 44 巻 2 号 p. 142-146
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      超高齢社会において, 高齢者の社会参加と活躍がますます重要性を増している。高齢者が充実した生活を送り, 社会参加活動を続けるためには, 心身の健康状態の維持が不可欠である。特に, 認知機能の維持は高齢者の生活の質と社会参加において重要な役割を果たす。本稿では, 時代とともに変化する認知機能低下予防のアプローチについてふりかえり, デジタルヘルス市場の拡大と情報通信技術 (ICT) を活用した認知トレーニングについて概観する。そして, 具体的な事例として, 我々が現在取り組んでいる virtual reality (VR) を活用した展望記憶トレーニング (VR-PMT) について報告し, 予備研究から得られた VR がもたらす新たな可能性や高齢者のテクノロジーへの適応性に関して述べる。

教育講演 : 動画・音声で学ぶ高次脳機能障害の症候─特徴と鑑別─
  • 近藤 正樹
    2024 年 44 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      人は空間を介してのみ外界を認識できる。本稿では, 空間にかかわる動作の症候として半側空間無視と着衣障害を取り上げた。半側空間無視は空間の方向性注意, 空間認識の意識にかかわる症候であるが, heterogeneous な病態である。主体となる症候の要因により関係する脳内ネットワークが異なることが明らかになってきている。着衣障害 (着衣失行) は衣服と身体, つまり外空間と身体空間の認識から動作への変換に基づく症候と考えられる。その基盤となる病態機序について, 古くは Marie らの planotopokinesia, Brain の visual disorientation, 他に構成障害, mental rotation など諸説あるがいまだ明らかになっていない。これらの症候は右半球を中心とする神経基盤と関係し, 空間に基づいた反応あるいは動作の障害としてとらえられる。しかしながら, 空間認識と身体, 動作の関係性からの理解が必要である。

  • 中川 賀嗣
    2024 年 44 巻 2 号 p. 152-155
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      失行とは, 行為・動作に特化した (特異な) 機能の障害であり, 「基礎的運動能力」「視覚, 聴覚, 体性感覚などの運動を補正する機能 (役割) 」「対象認知」「空間認知」「いわゆる遂行機能」や, 「課題指示内容の理解」の障害では説明できない, すなわち非失行性の障害によらない行為・動作障害として定義される。一側の大脳損傷によって左右両手に生じる失行型には, パントマイム失行 (もしくは観念運動失行) と, (道具の) 使用失行 (もしくは観念失行) が知られている。失行の判定は, 症例ごとに, これらの非失行性障害によってもたらされる道具使用の障害やパントマイムの障害を除外するかたちで行う。本稿では, これらの失行性症候と主要な非失行性症候を, 図を添えて紹介した。

  • 太田 祥子, 松田 実, 鈴木 匡子
    2024 年 44 巻 2 号 p. 156-160
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      発語失行は, 発声発語器官に明らかな運動障害がないにもかかわらず, 音の歪みや不自然な音の途切れなどを呈する発話運動プログラミングの障害である。その責任病巣としては, 左中心前回中下部が指摘されている。運動障害性構音障害 (dysarthria) は, 神経・筋系の病変による麻痺や協調運動障害などの運動障害に伴う発話運動実行そのものの障害である。口腔構音器官の障害では音の歪みが, 鼻咽腔閉鎖機能の障害では開鼻声が, 協調運動の障害では発話の変動が認められる。発語失行や dysarthria の評価として, 聴覚印象に基づく発話特徴の評価や, 発声発語器官の運動機能の評価が行われる。発語失行と dysarthria の鑑別において, 発話負荷を考慮した課題や単音節・複数音節を反復する課題を用いることも推奨されている。本稿では, 発語失行例と dysarthria 例を挙げ, その特徴について概説した。

原著
  • 藤本 憲正, 中村 光, 涌谷 陽介
    2024 年 44 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/07/23
    ジャーナル フリー

      藤本らは, なじみの低い新規の比喩文 30 文を作成し, それぞれの比喩文の意味に最もあう文を 4 つの選択肢から選ぶよう求める課題, およびトークンテスト (TT) をアルツハイマー型認知症 (AD) 者に実施した。今回, 同様の課題を, Mini-Mental State Examination (MMSE) 17 点以上のレビー小体型認知症 (DLB) 者 15 例に実施した。対照群として, 年齢と MMSE をなるべく合わせた AD, 年齢をなるべく合わせた健常高齢者のそれぞれ 15 例 (AD 群, 高齢群) と, その成績を比較した。その結果, DLB 群の比喩理解課題と TT の得点は高齢群と比べて有意に低かったが, AD 群とは同等であった。誤反応分析では, DLB 群の誤り方は AD 群とは異なった。DLB 群の比喩理解課題得点は, MMSE および Frontal Assessment Battery (FAB) の総点, および FAB の下位項目の「語の流暢性」「葛藤指示」と有意に関連した。DLB は AD と同様に全般的認知機能障害が比較的軽度の段階から比喩理解障害を示し, DLB の比喩理解障害は AD よりさらに遂行機能障害との関連が強いことが示唆された。

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