背景:学齢期の後天性脳損傷による記憶障害は復学後の学習を困難にするため,その特徴に基づく個別的支援が重要だが,標準化された言語性記憶の評価法はない。方法:ReyのAuditory Verbal Learning Testを参考に学齢期用聴覚性言語学習検査(AVLT-JSC)を2セット作成し,定型発達児25名(低年齢群:15名,6~8歳,高年齢群:10名,9~12歳)を対象に予備調査を行った。結果:2セット間の正再生語数,再認語数に差はなく,刺激等価性が確認された。各年齢群で学習効果を認め,床効果・天井効果は認めなかった。高年齢群の正再生語数は低年齢群に比べセット2の即時再生語数を除いて有意に多かった。記銘方略の使用は低年齢群に比べ高年齢群の割合が多く,高年齢群の効果的な記銘方略を使用する脳機能の発達を反映することが示唆された。考察:AVLT-JSCは学齢期の言語性記憶の評価に有用である。
背景:左の頭頂葉病変にともない,他の神経心理学的障害によっては説明できない書字の言語的側面の障害,すなわち純粋失書が生じうる。この症状の改善と,書字の運動的側面の変化の関係についての報告はない。症例提示:65歳,男性,右利き。左の縁上回前部,角回上前部,頭頂間溝の一部,半卵円中心後部に高信号を認めた。発症時にみられた軽度の伝導失語は消失し,2ヵ月後には仮名の失書症状のみとなった。発症初期は文字想起障害が中心であったが,文字内の画を続けて書く傾向が強まるにともない症状が改善,ほぼ消失した。書字に関する発話も,想起困難の訴えから,字が出てこないとき,この書き方をすると正しく書けるという報告へと変化した。考察:本症例の純粋失書の改善や文字内の画を続ける書き方の使用の背景に,視運動覚や運動エングラムの利用が関与した可能性を考えた。
高齢発症てんかん(LOE)は高頻度に精神症状や認知機能低下を合併する。本症例は70歳代女性で,強い不安・抑うつからうつ病と診断されたが,後に扁桃体腫大を伴う側頭葉てんかん(TLE-AE)が判明した。MMSEは正常であったが,自伝的記憶喪失あるいは加速的長期健忘の特徴を有する記憶障害とアルツハイマー病理を示唆する髄液検査所見を認めた。本症例の診断経過は,精神症状の存在がてんかんおよび記憶障害の診断を困難にすることを例示している。
症例は非流暢性 / 失文法型原発性進行性失語の50歳代女性。発症初期から高度の発語失行を伴い,経過中に自発話は消失した。徐々に書字障害も進行し,特にひらがなでの単語の書き取りで,単語の後半になるほど文字の想起困難や錯書が目立った。書き取り障害の要因を明らかにするため,語音聴取能力,文字や線画が持つ音韻情報の強弱による音韻との照合能力の差異,単語の音韻情報の把持能力について検討した。その結果,語音聴取能力の低下が軽度出現していること,ひらがな文字,漢字文字,線画の順に音韻との照合が不良であること,入力されたもしくは聴覚的記憶から想起された音韻列の後半を把持できないことが示された。非流暢性 / 失文法型原発性進行性失語においても,前頭葉後方下部を含めた領域での機能障害が進行すると,音韻と形態・意味情報の照合や,音韻レベルでの言語性短期記憶障害を生じる可能性が示唆された。
進行性失語(PPA)は言語機能が徐々に低下し,コミュニケーション手段の喪失が生活の質に影響する。PPAに対する言語療法アプローチでは,言語症状に応じた訓練的介入に加え,残存機能を活用した代償的手段の導入が重要であるが,症状の進行過程におけるコミュニケーション手段の変化を具体的に追跡した報告は限られている。本報告では,非流暢 / 失文法型PPAの1例を5年間追跡し,言語機能とコミュニケーション手段の変化を検討した。本例においては,発話障害が進行する一方で,言語理解の機能は比較的長期間維持され,Yes/No反応や視覚提示を活用した代償的アプローチが有効であった。進行に伴う行動面や知的機能面などの非言語機能の低下にも留意し,多面的な評価と柔軟な支援が重要と考えられた。今後は,PPAの進行段階に応じた体系的な代償的アプローチと社会的支援体制の整備が求められる。
症例は73歳女性,右利き。緩徐進行性の知覚型視覚失認,漢字の失読失書,逐字読みを伴う漢字および仮名の純粋失読,腹側型同時失認,相貌失認,左対象中心性無視を認めた。これらの症候の病巣部位はいずれも両側後頭側頭葉を中心とした腹側路が考えられ,頭部MRIで右優位に同部位の萎縮を認めたことから,腹側型後部皮質萎縮症(PCA)と診断した。PiB-PETでびまん性に集積を認め,病因としてアルツハイマー病が示唆された。一方,THK5351-PETでは右優位の両側後頭側頭領域に限局性の集積を認め,同部位の神経変性を反映していると考えられ,本症例の責任病巣と考えられた。PCAはまれな疾患であり,そのなかで本症例のように腹側型の症候が目立つことは少ない。しかし神経心理学的検査を詳細に行うことによってその症候を明らかにし,画像所見と合わせて診断および病態について検討することは重要である。
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