高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
Online ISSN : 1880-6554
Print ISSN : 1348-4818
ISSN-L : 1348-4818
シンポジウム
アルツハイマー病における物盗られ妄想と記憶障害の関係について
池田 学
著者情報
ジャーナル フリー

2004 年 24 巻 2 号 p. 147-154

詳細
抄録

アルツハイマー病(Alzheimer's disease ; AD)の精神症状の中でも,とくに頻度の高いとされている “物盗られ妄想” と記憶障害との関係について検討した。統計画像解析の結果,妄想を伴わないAD群に比べて,物盗られ妄想群で,右楔前部 (precuneus) の局所脳血流量が有意に低下していた。物盗られ妄想群と妄想なし群を ADAS-Jcog の下位検査項目を用いて比較したところ,2群のプロフィールにはほとんど差を見出せなかった。楔前部と呼ばれる領域は,エピソード記憶の取り出しの際の視覚性の心像に関与しているといわれている。また,出典記憶に必要な文脈的関連を想い出す際に活性化されるという報告もある。それゆえ,楔前部の機能不全をきたした患者は,自分が持ち物を置いた場所を想起するのが困難である,または持ち物と置いた場所との関連が想起できないのではないか。あるいは,ある場所に自分が置いた(という運動の)記憶が障害されている可能性もある。これらの ADAS では評価できない何らかの記憶障害で「物を置いた場所がわからなくなり」,心理社会的要因が加わって「盗られた」となるのが,物盗られ妄想出現のメカニズムではないだろうか。

著者関連情報
© 2004 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
前の記事 次の記事
feedback
Top