2004 年 24 巻 4 号 p. 343-352
73歳,右利き男性。高校卒。左側頭葉後下部の梗塞後に漢字の失読と失書を呈した。急性期には漢字と仮名の失読と失書を呈していたが,1ヵ月後には仮名の読み書きは可能になった。発症2ヵ月後に,失語症語彙検査と小学2年までに習得する漢字の読み書き検査を実施した。
本例の失読失書の特徴は次のようにまとめられた。すなわち,音読に関しては,2文字漢字で音読みすべきところを訓読みに誤った。書字に関しては,無反応がもっとも多く,複雑な構造をしていて学習時期が遅い漢字ほど失書が重度になった。単語属性の面から検討すると,本例の書字障害は学習容易性,複雑性,および教育学年との関連が示された。心像性や具体性などとの関連はなかった。一方,仮名については読み書きともにごくわずかな誤りが観察されただけであった。
失書は失読に比して非常に重症であることから,本例の失書には漢字の純粋失書の特徴が加わっていると考えられた。