高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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原著
著しい視野狭窄に伴って出現した複雑幻視の一例
栗原 恵理子堀川 楊渡部 裕美子高橋 いずみ小林 啓志
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2011 年 31 巻 3 号 p. 345-352

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抄録
65 歳, 女性, 右利き。199X 年, 右側頭葉と頭頂葉の皮質下の脳出血により左同名性半盲を生じた際には幻視は出現しなかった。12 年後の 200X 年, 左後頭葉の脳塞栓により右同名性半盲が加わり著しい視野狭窄をきたした後, 人と動物を中心とした複雑幻視が生じ, これは2 年以上続いた。複雑幻視に対する病識は乏しく, 病識が得られるようになったのは再発より 1 年 4 ヵ月後のことであった。本症例で, 複雑幻視に対する病識が乏しかった理由としては, 幻視が非常に現実味を帯びたものであったこと, 残存視野が狭くて周辺のみであったため対比する現実の視覚像がなかったこと, 視野障害の病識が減弱していたことなどが考えられた。本症例の複雑幻視の発現機序としては, 既存の左同名性半盲に新しく右同名性半盲が加わり著しい視野狭窄となったことと, 損傷を免れた左の側頭葉と頭頂葉の働きで視覚イメージが自発的に喚起され複雑幻視の素材となったことの両者が関与したものと考えられた。
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© 2011 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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