2025 年 45 巻 2 号 p. 83-90
左頭頂後頭葉皮質下出血により,横書き仮名単語の音読で逐字読みと全体読みのどちらでも右端の音読が困難になり,失書が合併した仮名に選択的な純粋失読症例を経験した。失読に至る要因を明らかにするため,症例に対し,①音読時の文字数効果の検証,②縦書きと横書き単語音読成績,③呈示時間制限下での書字方向別単語全体読み成績,④非言語視覚情報処理能力を検証した。その結果,①文字数効果あり,逐字読みでおおむね正確に音読が可能も形態類似性エラーあり,②縦書きに比べ横書きの音読時間延長,③縦書きに比べ横書きで成績低下,語尾に頻回な音韻性エラー,④刺激右側の異同弁別において左側に比べ反応時間延長がみられた。これらのことから,左頭頂後頭葉皮質下損傷において,横書き単語の音読に特徴的な失読症状をもたらす可能性が示唆された。
We encountered a case of pure alexia that selectively affected kana accompanied by agraphia due to a left occipito-temporal medial hemorrhage that resulted in difficulty reading horizontally written kana words aloud in letter-by-letter and whole-word at the right end. To clarify the factors leading to alexia, we examined (1) the effect of the number of letters, (2) the difference in oral reading performance between vertically and horizontally printed words, (3) whole-word reading of horizontally and vertically printed words under a short presentation time of 100 msec, and (4) nonverbal visual information processing ability. The results showed that (1) there was a word-length effect, and although letter-by-letter reading was generally accurate, there were morphological similarity errors, (2) horizontally printed words had longer reading time than vertically printed words, (3) horizontally printed words had lower performance than vertically printed words, and there were frequent phonological errors at the end of words, and (4) reaction time was longer for discrimination of differentiation on the right side of the stimulus than on the left side. These findings suggest that subcortical lesions in the left occipitotemporal region may result in a specific type of alexia, characterized by difficulty in reading horizontally printed words aloud.
脳損傷により起こる失読は,言語中枢性領域損傷によるものと,視覚に関連する末梢性損傷によるものに大別される。純粋失読は,視覚に関連する腹側領域の病変によって出現するといわれている(Cohen 2022)。書字方向や呈示時間も視覚情報の一部なので音読に影響を与える要素である。今回,臨床において左頭頂後頭葉皮質下出血により,縦書き単語に比べて横書き単語の音読で語尾(右端)を読み誤る症例を経験した。本研究の目的は,症例の失読に至る要因を明らかにすることである。
【症例】60歳代,右利きの男性である。教育歴は大学卒業で,現在の職業は翻訳業である。職業柄,病前から習慣的に読み書きをしていた。
【医学的診断名】左頭頂後頭葉皮質下出血。頭痛,片麻痺,右視野障害を発症し救急搬送,脳出血と診断された。同日開頭血腫除去術を施行した。第33病日に当院へリハビリ目的で転入院し,言語聴覚療法を開始した。
【主訴(転院時)】映画の字幕についていけない,文字・単語の認識に時間がかかる。
【神経学的所見】運動麻痺,感覚障害なし。視野障害は鈴木式アイチェックチャート(鈴木 2001)の主表(1)実施結果より上下約25度,左右約40度内の視野内で形の歪み,欠損・複視所見はなかった。周辺視野に関して,対座法で半盲は検出されないが見えにくさの程度は不明であった。視力は,眼鏡を装用して日常生活レベルで問題なかった。
【画像所見】発症日CT画像では,左後頭葉皮質・側脳室後角周辺から頭頂葉皮質下の白質に高吸収域を認めた。第29病日の術後CT画像では,左後頭葉皮質を含む側脳室後角外側周囲の白質に低吸収域を認めた(図1)。

a:発症日CT画像。左後頭葉皮質・側脳室後角周辺から頭頂葉皮質下の白質に高吸収域を認めた。b:第29病日CT画像。左後頭葉皮質を含む側脳室後角外側周囲の白質に低吸収域を認めた。
1)神経心理学的所見(表1)
WAIS-Ⅲ:Wechsler Adult Intelligence Scale-Ⅲ, VPTA:Visual Perception Test for Agnosia, BIT:Behavioural Inattention Test, SLTA:Standard Language Test of Aphasia
Wechsler Adult Intelligence Scale-Ⅲ(WAIS-Ⅲ)では作動記憶および処理速度において低下がみられた。標準高次視知覚検査(Visual Perception Test for Agnosia:VPTA)では,図形や文字に対する反応遅延がみられたが,最終的に要素の視覚認知は可能であった。有名人の命名(熟知相貌)において無反応エラーが2回みられたが既知感あり,人物名を伝えれば再認可能であった。文字の認知(音読)では仮名単語で遅延反応が2回あった。BIT行動無視検査(Behavioural Inattention Test:BIT),Apples Test(Bickertonら 2011)の結果からは半側空間無視は認められなかった。
2)言語所見
日常生活上,音声言語コミュニケーションに問題はみられなかった。発症2ヵ月後に実施した標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia:SLTA)を表1に示した。特徴的な所見として,仮名1文字の音読の4問でよどみ反応を示した。仮名の理解では,「ね」に対し「れ」と反応直後に自己修正して正答した。漢字単語の理解では「電話」→「電車」と語尾の錯読がみられた。短文の理解では反応開始の遅れが1問あった。仮名単語の書取では「えんぴつ」→「えぴつ」と省略がみられた。漢字単語の書取では文字形態に歪みがあった。計算では加算・減算・除算での繰り上がり・繰り下がりで誤りがみられた。訓練時,横書き単語の音読では漢字・仮名単語で逐字読みや音読開始遅延があるも,時間をかけて漢字・仮名ともおおむね正確に音読可能であった。通常の速さでの音読を求めると,語尾で「ま」→「き」,「四月」→「にしつき」など形態的に類似した文字への誤りや,「土足」→「つちあし」のような音韻的に類似した誤りがみられた。なぞり読みは仮名・漢字とも有効であり正しい音読を促進した。文章の難易度(童話・民法の参考書など)で読字速度やエラー頻度は変わりなかった。文字の見え方の内省が,「仮名文字の右側の一部が繋がっている,あるいは消えて見える,何度か見直すと普通に見える」など特徴的であった。縦書き仮名単語の音読では,文字の見えにくさの訴えは少ないが,逐字読みや形態的に類似した文字への誤りを認めた。書字では,仮名は文字省略,漢字は文字想起困難がみられた。漢字模写は「暇」「遊」のつくりの部分で形態の崩れがみられた。症例は,音声言語理解・表出には問題がなく,読字には時間がかかる,あるいは読み誤った。書字において書取では誤りを認めないが,漢字の自発書字・模写で軽度障害を認めた。これらの臨床像から症例の文字言語は櫻井(2011)が提唱した,後頭葉後部の病巣を中心とした仮名に選択的な純粋失読に失書が合併した状態と考えられた。
2. 健常群健常者のサンプルには若年健常者10名(平均年齢26.4歳,SD=4.7)を採用した。
症例の書字方向で変動する失読症状の要因を明らかにするべく,文字数,書字方向,呈示時間を統制した3種の音読課題と,非言語視覚情報処理課題を実施した。すべての課題は発症2.5~3ヵ月の間に実施した。
2. 方法すべての課題は14インチPCモニター正中に文字または図形を呈示し,50 cmの距離から口頭で反応を求めた。回答終了直後から次の刺激呈示まで2秒の空白画面になるよう手動で調節した。実施日は,課題ごとに間隔を空けた。刺激は各課題でランダムに呈示した。刺激の属性情報は課題実施前に伝達した。
3. 課題1)音読課題1:音読時の文字数効果の検証
音読の文字数効果を検証するため,1~6文字までの仮名文字・横書き仮名単語の音読課題を実施した。刺激は,清音・濁音・半濁音含む仮名1文字71個と,国立国語研究所(1984)の「基本語二千」に選出された2~6文字仮名単語各20語である。天野ら(1999)のNTTデータベースシリーズを参考に各文字数の平均仮名表記妥当性を求めると,2文字:3.3(SD=0.3),3文字:3.3(SD=0.5),4文字:2.8(SD=0.4),5文字:3.4(SD=0.7),6文字:2.5(SD=0.4)であった。文字サイズは,視野角5度以内の中心窩に呈示された文字は確実に識別可能という福田(1978)の報告を参考に,仮名3文字は視野角5度以内の中心窩に収まる文字サイズに,4~6文字は,文字を構成する大部分が知覚できる視野角6.5度~16度の遠中心窩に収まる文字サイズに設定した。各文字数の正答数と音読時間を測定した。
2)音読課題2:縦書きと横書き単語音読成績
書字方向で音読の正確性,音読時間を比較するため,音読課題1で用いた3文字仮名単語を縦書き呈示にした音読課題を症例および健常群に実施した。3文字単語の採用にあたっては,文字列をまとまりとして読む「全体読み」がもっとも機能しやすいという高野ら(2017)を参考にした。文字サイズは音読課題1と同条件で,視野角5度以内の中心窩に呈示した。音読課題1および2では,課題実施前に「画面の中心に現れる文字を正確に読んでください」と教示した。正答数と音読時間を測定した。
3)音読課題3:呈示時間制限下での書字方向別単語全体読み成績
症例は時間をかけて正しい音読を実現していることから,逐次音韻変換への依存を仮定した。そこで,高野ら(2017)を参考に単語の呈示時間を理論上確実に逐字文字認知が起こらない100 msに統制した音読課題を症例および健常群に実施した。刺激は音読課題2と同じ3文字仮名単語20語を用いた。課題実施前に「画面の中心に一瞬単語が出るので,正確に読んでください」と教示した。呈示時間の制御はPower Point 2013のVisual Basic for Applicationsを用いた。練習効果を避けるため,刺激は縦書き語,横書き語をランダムに呈示した。測定値は書字方向ごとの正答数とした。
音読課題で出現したエラーの質的分析として,大石ら(2018)を参考に形態類似・音韻性に分類し,出現位置別にエラー数をカウントした。形態類似は,「文字を構成する線分の長さの少なくとも半分以上が形態的に類似している文字への誤り」とし,形態類似に当てはまらないものを音韻性とした。エラー出現位置は,最初の文字を語頭,最後の文字を語尾,間の文字を語中とした。
4)チェッカーボード課題:非言語視覚情報処理能力
症例の言語・非言語に共通する視覚情報処理を調べるためにMycroftら(2009)を参考にチェッカーボード課題を行った。Ichikawa(1985)によると,チェッカーボード模様は文字と同様な視覚的複雑さ(量的要因と構造的要因)を持つ。刺激は,図2のように,小さな白と黒の正方形を3×3,4×4,5×5,6×6の大きさに並べ,組み合わせを変えて刺激図形とした。各大きさについて12個,合計48個の模様を作成した。同じ刺激ペア(一致条件)48試行,小さい正方形が1つだけ異なるペア(不一致条件)の48試行を実施した。不一致条件の模様で異なる正方形の位置は左右で同じ回数になるよう設定した。刺激は,刺激の大きさおよびペアの組み合わせ(一致・不一致)をランダムに呈示した。上下に対呈示された刺激を見て口頭で同じか,違うか反応するよう教示した。正答数と反応時間を測定した。

4. 統計処理
統計解析ソフトは,R version 4.1.0(R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria)を使用した。実験結果の統計学的分析に用いた検定の有意水準は5 %とした。音読課題1の1~6文字語の各正答数についてFisherの正確確率検定を行った。音読課題1の横書き3文字単語と,音読課題2の縦書き3文字単語の音読時間について,対応のあるt検定を行った。音読課題3の縦書き・横書き仮名単語の正答数についてMcNemar検定を行った。文字位置別のエラー出現数についてFisherの正確確率検定を行った。チェッカーボード課題の不一致条件で異なる正方形の位置が右側と左側にある場合の反応時間について,対応のあるt検定を行った。
音読課題1の正答数と平均音読時間を表2に示す。文字数間で正答数に有意差はなかった。平均音読時間は文字数が多くなると延長しており,文字数効果があった。エラーは,1文字は「め」→「ぬ」など右側の形態類似が4個,4文字は語尾で形態類似「けいかく」→「けいかん」,5文字は語中・語尾で音韻性「あたためる」→「あたたかい」がみられた。
2. 音読課題2:縦書きと横書き単語音読成績
音読課題2の結果を図3に示す。症例・健常群とも全問正答であった。症例の書字方向間の音読時間に有意差を認めた。

症例の横書き仮名単語と縦書き仮名単語の平均音読時間に有意差を認めた。
3. 音読課題3:呈示時間制限下での書字方向別単語全体読み成績
症例の音読課題3における正答数は書字方向間で有意差を認めた(図4a)。エラーの出現数と種類を図4bに示す。文字位置別のエラー出現数についてFisherの正確確率検定を行った結果,有意差を認めたため(P<.05),Bonferroni法による多重比較を実施した。どの群間でも有意差は認めなかったが,語尾のエラー出現数がもっとも多かった。出現したエラーは音韻性錯読がもっとも多かった。健常群は縦書き・横書きとも全問正答であった。

a:書字方向間で正答数の比較,b:文字位置別エラー出現数の比較
4. チェッカーボード課題:非言語視覚情報処理能力
チェッカーボード課題正答数は90/96であった。誤答は一致条件2個,不一致条件4個であった。不一致条件での異なる正方形の位置別では左下2個,右中1個,右下1個であった。刺激サイズが大きくなるほど平均反応時間が延長していた(図5a)が,先行研究のコントロール群と同水準であった(Spangら 2019)。不一致条件で異なる正方形の位置が右側と左側にある場合の反応時間の比較では有意差を認め,右側で延長していた(P<.05)(図5b)。

a:刺激条件・サイズ別平均反応時間の比較,b:不一致刺激の出現位置別平均反応時間の比較
検討結果をもとに,症例の横書き単語音読での逐字読みと語尾のエラーに至る要因について考察する。
1. 症例の視覚情報処理図形の知覚はおおむね正確だが,判断に時間を要した。チェッカーボード課題では,不一致条件において正中より右側に異なる模様がある図で反応時間延長がみられた。Decramerら(2019)は,左後頭側頭皮質のてんかん焦点切除後症例の右視野での物体・単語認知に時間がかかる例を報告している。本症例は,左頭頂後頭葉皮質下・側脳室後角周辺の病変であり,頭頂後頭皮質下損傷が対側の視覚情報処理に影響を及ぼすのではないかと考えられた。反応時間において左右差を示したことは,右視野の形態処理障害を示唆するが,本検討は音読課題で視点を固定していないため両視野で知覚している可能性もある。他の空間的認知障害に対象中心性無視がある。Kleinmanら(2007)は,対象中心性無視の定義を,単語の読解,Gap検出課題,図形の模写,のすべてで半側のエラーがあった場合としている。症例は,単語の読解のみのエラーであり,Apples Test,BITやVPTAの模写課題はすべて正答であったので,対象中心性無視があるとはいい難い。
2. 症例の失読症状の要因100 ms呈示条件下横書き単語音読を実施した結果,頻回に単語の語尾(右端)を読み誤った。文字列の呈示時間が100 ms以下ではサッケードが起こらず,視野の対側半球に視覚刺激が達する(Sperryら 1969)。本実験では単語を正中呈示している。視点の固定はしていないが呈示時間が100 msであるため,サッケードが起こらず語尾を右視野で捉えた可能性が高い。したがって,右視野で捉えた文字形態の情報処理は,対側の後頭側頭葉において情報処理が正しく行われなかったことが示唆された。
大槻(2008)は逐字読みについて,1文字の音読でアクティベートした脳部位が次の文字を読む準備に入れないことによる文字列認識の閾値上昇で説明している。横書き文字は,左右視野での認識を必要とする。また,横書き文字を読むときは,両半球で文字列全体を捉え,かつ語頭で文字をアクティベートし,瞬時に語末まで文字を捉えるといえる。しかし,症例は逐字読み傾向と語尾(右端)では不確実な音読を示した。このことは,症例の病巣が左後頭葉皮質下であり,この部位の機能低下によって文字列全体を捉えることが難しくなったことを意味する。さらに,右視野入力での文字形態処理を行えなかったのではないかと考えられる。
症例は,左頭頂後頭葉皮質下損傷により,短い単語程度の語形の右側の形態の分析能力低下に伴う失読症状が生じる可能性が示された。しかし本論文の限界として,精密な視野計測をしていないため,右同名性半盲が周辺視野に残存しており,これが右周辺視野での文字認知,図形識別に影響した可能性を否定できない。病巣から生じる失読症状についてさらなる検証が必要である。
本研究の実施または報告に関連して,当院倫理委員会指針に沿って対象者に目的を十分に説明し,書面にて同意を得た。臨床時間以外に実験を行う場合には,医師をはじめスタッフの許可を得たうえで,本人の体調を考慮しながら実施した。
著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれもありません。
本研究の実施にご協力いただきました対象者に深謝申し上げます。