2025 年 45 巻 4 号 p. 221-227
高齢発症てんかん(LOE)は高頻度に精神症状や認知機能低下を合併する。本症例は70歳代女性で,強い不安・抑うつからうつ病と診断されたが,後に扁桃体腫大を伴う側頭葉てんかん(TLE-AE)が判明した。MMSEは正常であったが,自伝的記憶喪失あるいは加速的長期健忘の特徴を有する記憶障害とアルツハイマー病理を示唆する髄液検査所見を認めた。本症例の診断経過は,精神症状の存在がてんかんおよび記憶障害の診断を困難にすることを例示している。
Late-onset epilepsy(LOE)often co-occurs with psychiatric symptoms and cognitive decline, and it increases the risk of progression to dementia. We report the case of a 70-year-old woman initially diagnosed with major depressive disorder due to presenting symptoms of depression, anxiety, and subjective memory complaints. Despite a normal Mini-Mental State Examination(MMSE)score, she exhibited persistent and specific memory issues, including suspected autobiographical amnesia and accelerated long-term forgetting. Subsequent evaluations ultimately diagnosed temporal lobe epilepsy. Crucially, cerebrospinal fluid analysis revealed Alzheimer’s disease(AD)pathology, specifically a low Aβ42/40 ratio. This case highlights the diagnostic challenges arising from the complex interaction of psychiatric symptoms and atypical memory impairments in LOE. The initial focus on psychiatric diagnoses delayed the accurate identification of the underlying neurological condition. Furthermore, it demonstrates that conventional cognitive screening tools like MMSE may not adequately detect subtle but significant memory deficits such as accelerated long-term forgetting or autobiographical amnesia. This case offers important insights for future clinical practice in LOE, suggesting that epilepsy onset can be an early manifestation of neurodegenerative disease and that memory impairment may be overlooked due to co-occurring psychiatric symptoms.
てんかんは精神症状や認知機能障害を呈しうる神経疾患であり,近年それら併存症の重要性が注目されている。高齢発症てんかん(late-onset epilepsy:LOE)は,約半数で発症時に実行機能障害が認められ(Wittら 2014),てんかんのない同年代の2~3倍の認知症発症リスクを有する(Kamondiら 2024)。また,抑うつや不安などの精神症状の有症率が高いことも知られている(Bakerら 2001)。近年,LOEを前駆症状とするアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の存在が示唆されており(Kamondiら 2024),LOEにおける神経心理評価の重要性が改めて認識されてきている。我々は,強い不安・焦燥と自伝的記憶喪失及び加速的長期健忘を示唆する記憶障害を呈し,かつ髄液検査でAD病理が示されたLOE症例を経験したため報告する。本症例では,精神症状がてんかんの診断および記憶障害の評価を困難にした。
70歳代,女性。特記すべき既往歴や家族歴なし。飲酒,喫煙歴なし。高校卒業後,事務職を経て実家の会社経営に参加した。X-6年(70歳代前半),物忘れや気分の落ち込み,不安を訴え,近医精神科を受診した。抑うつ気分,不安・焦燥,食欲低下,体重減少からうつ病と診断され,抗うつ薬などによる治療が開始されたが,症状の改善は認められなかった。X-5年5月,「身の置きどころがない」「立っていてもつらいし,横になっていることもできない」と強い不安・焦燥を呈し,食事がとれなくなり,当院精神科に緊急入院した。入院時,神経学的所見に異常はなかった。発症時に物忘れの訴えがあったが,S-PA言語性対連合検査の成績は正常だった(表1)。頭部MRIで左扁桃体の腫大と信号変化を認めた(図1)。自己免疫性脳炎の可能性を疑われたが,一般髄液検査および体幹部CTで異常を認めず,髄液オリゴクローナルバンドおよび血清傍腫瘍神経抗体(AMPH, CV2, PNMA2, Ri, Yo, Hu, recoverin, SOX1, titin, zic4, GAD65, Tr)は陰性であったため,老年期うつ病の暫定診断となった。向精神薬の調整にて不安・焦燥は一旦軽快し退院したが,その後再燃した。X-5年11月頃から「一瞬だけ変になることがある」という訴えが出現した。
MMSE:Mini-Mental State Examination, S-PA:Standard Verbal Paired-Associate Learning Test, AVLT:Rey Auditory Verbal Learning Test.

T2FLAIR画像,冠状断。X-4年11月までは左扁桃体・海馬腫大,信号上昇を認めたが,X-4年12年に抗発作薬を開始後,X-3年5月には改善を認め,その後改善を維持している。大脳の萎縮は経時的に進行している。
2. 方法
頭部MRI,脳波検査(長時間ビデオ脳波検査を含む),ADバイオマーカー(髄液アミロイドβ42/40比,リン酸化タウ)測定,自己免疫性脳炎に関わる神経細胞表面抗体に関する評価,神経心理検査を行った。
3. 結果 1) 頭部MRIX-4年11月までは左扁桃体・海馬腫大,信号上昇を認めたが,X-4年12月に抗発作薬を開始後,X-3年5月には改善を認め,その後改善を維持している(図1)。
2) 脳波(X-4年11月)左前頭側頭部にてんかん性放電を認めた(図2)。

左前側頭部に発作間欠期てんかん性放電を認める。
3) 髄液検体のADバイオマーカー(X年3月)
リン酸化タウ 42.2 pg/mL(正常),アミロイドβ42/40比は0.005(低下)。アミロイド病理の存在,発症前アルツハイマー病の可能性が示唆された。
4) 自己免疫脳炎に関連する細胞表面抗体(X-5年6月)ラット脳凍結切片を用いた免疫染色ではneuropil pattern陰性,E18ラット海馬初代培養細胞を用いたlive neuron assayに反応なし,NMDARに対するcell-based assayは陰性だった。
5) 患者の訴えおよび神経心理学的所見の経時的変化X-5年11月頃から時折「一瞬だけ変になることがある」症状を訴えるようになった。
X-4年11月,「暗証番号がわからない」「来てほしい」など,友人に毎日電話するなど落ち着かない状態になった。服薬自己中断によるうつ病の悪化と考えられ,同月当院精神科に再入院した。入院中,特に病棟生活に問題はなかったが,夜間に「私はなんでここにいるの」「なんだかわからない。ここはどこですか」と述べることがあった。脳波で左側頭部にてんかん性放電を認め(図2),側頭葉てんかん(temporal lobe epilepsy:TLE)と診断され,Lacosamideが開始された。Mini-Mental State Examination(MMSE)は30点で明らかな認知機能障害はなく(表1),記憶障害の訴えは不安・焦燥に随伴するものであると判断した。
X-3年1月に退院後は明らかな発作はなく経過した。同年5月の頭部MRIでは扁桃体腫大の所見は改善していた(図1)。常に手帳を持ち歩きスケジュール管理を行っていたが,それでも外来予約を確認するために当院にしばしば電話した。また不安・焦燥は波がありながら持続し,ときに「飛び降りる」などの自殺を仄めかす発言も認められた。
X年3月に病状再評価目的に入院した。頭部MRIでは扁桃体腫大の所見は改善を維持し(図1),一般髄液検査にも異常を認めなかった。抗発作薬を減量下での長時間ビデオ脳波検査では,発作を認めず,発作間欠期てんかん性放電の頻度は低く,TLEの病勢は安定していると考えられた。不安,焦燥は依然として強かった。
X年6月の外来受診時のMMSEは28点だった。遅延再生は3問すべて正答したが,同年3~4月の入院のことを覚えておらず,自伝的記憶喪失ないし加速的長期健忘が示唆された(表1)。Lamotrigineと少量の抗精神病薬を開始後,不安・焦燥は軽減した。家族と疎遠で本人の過去を知る者との面接は困難であったため自伝的記憶の検査は実施できなかった。AVLTの1週間後の遅延再生を試みたが,本人の協力を得ることができなかった。
本症例は不安,焦燥で発症しうつ病と診断されたが,その後高齢発症てんかん(LOE)が明らかになった70歳代女性である。経過中MMSEの遅延再生で失点を認めなかったが,主観的記憶障害と加速的長期健忘 / 自伝的記憶喪失が疑われる記憶障害を認め,発症から6年後の髄液ADバイオマーカーでAD病理が示唆された。経過中扁桃体腫大を認めたが,経時的に改善した。以下,本症例のてんかんの病因,AD病理との関連,そして精神神経症状について考察する。
1. LOEの認知機能障害と精神症状てんかんの発症は若年者と高齢者に二峰性の分布を示し,特に高齢者で高いピークを認める。日本からの報告(久山町研究)では,てんかん有病率は40~64歳では1,000人あたり3.6人であるのに対し,65歳以上では1,000人あたり10.3人だった(Tanakaら 2019)。50歳以上でてんかんを発症した2,367人を対象とした後方視的解析では,60歳以上のLOEの主な病因は脳卒中で,次いで腫瘍,認知症が挙げられ,約41%は病因不明の高齢発症てんかん(late-onset epilepsy of unknown etiology:LOEU)であった(Cvetkovskaら 2022)。自己免疫性脳炎は60歳以上のてんかんの6~8%を占めると報告されている(Süßeら 2021)。
LOEの症例の多くで,抗発作薬による治療が開始される前から認知機能障害が存在する(Helmstaedterら 2025)。たとえば,新規発症てんかんの高齢患者(平均年齢71.5歳)の約半数に実行機能障害を認めることが報告されている(Wittら 2014)。LOEの認知機能低下は実行機能,言語記憶,図形記憶など多岐にわたり,MMSEやMontreal Cognitive Assessment(MoCA)などのスクリーニング検査では十分にその障害が検出されない可能性についても指摘されている(Helmstaedterら 2025)。加速的長期健忘(accelerated long-term forgetting:ALF)や自伝的記憶喪失(autobiographical amnesia:AbA)はTLEで高頻度に認められ,MMSEなどのスクリーニング検査で検出されないタイプの記憶障害である(Butlerら 2008)。ALFは主観的記憶障害と関連していると報告されており(Lemesleら 2022),てんかんを持つ患者においては,記憶障害に関する訴えをMMSEなどのスクリーニング検査の成績以上に重視する必要があると考えられる。本症例における記憶障害の訴えは,当初うつ病の一症状と考えられていたが,後方視的にはALFあるいはAbAに伴う主観的記憶障害であった可能性が高い。ALFは頻度の高い症状であると考えられるが,現時点ではその診断には種々の制約がある。たとえば,ALFの診断には一般的に数日以上の遅延を伴う記憶課題が用いられるが,どのような課題を用いるかについてのコンセンサスがなく,年齢別のカットオフ値が明らかにされていないなどの問題がある(Elliottら 2014)。さらには本症例のように,精神症状のために十分な検査協力が得られない患者の評価が難しいという問題もある。
また,LOEは精神症状が高頻度に併存する可能性が指摘されている。Senらの2020年のレビューでは,この分野の研究の少なさを指摘しつつも,LOEにうつ病や不安障害などの精神症状の合併を高頻度で認める複数の報告があることを示している(Senら 2020)。たとえば,ある研究では高齢てんかん患者の18%がうつ病のスクリーニング基準を満たし,また,不安スコアも対象群より有意に高かった(Hautら 2009)。また,新規発症てんかんの高齢患者において,うつ病は精神科入院の有意なリスク因子(Copelandら 2011)で,高齢者コホートにおいてうつ病が新規発症てんかんの独立したリスク因子(Martinら 2014)だった。一方,認知機能が低下した高齢者を対象とした研究では,うつ病自体は,LOEの発症リスクと統計的に有意な関連がなかったとする報告もある(Zawarら 2025)。LOEに合併する精神症状と,神経変性疾患移行との関連についての知見は乏しい。
2. LOEにおけるADの合併の可能性近年の複数の研究から,LOEU患者は一般人口と比較して,軽度認知障害または認知症の発症あるいは併存のリスクが2~3倍高いことが示されている(Kamondiら 2024)。また,LOEを発症してから認知症に至るまでの期間の中央値は約3.7年だった(Kamondiら 2024)。ADの臨床症状顕在化の10~20年前から神経病理学的変化が生じていることを考えると,LOEUが神経変性の初期の兆候である可能性がある。他方,晩発性AD患者のてんかん有病率は1.5~31%と高く,ADとてんかんは双方向の関係にあることが示唆されている(Kamondiら 2024)。てんかん発作はAD患者の認知機能悪化を加速させる(Bakerら 2019)。動物モデルでは,可溶性アミロイドβが神経の過興奮性を引き起こし,また,神経の過興奮性が病的なアミロイドβの放出を促進する可能性が示されていて,LOEにおいてアミロイドβがてんかんと認知機能低下に共通の経路の一部を担っている可能性がある(Romoliら 2021)。
さらに,ADバイオマーカーを用いた研究も,LOEとAD病理の密接な関連を示唆している。認知機能低下を伴わないLOEU患者の37.5%(40人中15人)で髄液Aβ1-42の低下が認められ,これらの患者は3年間の追跡でADへの進行リスクが健常群より3.4倍高いことが報告された(Costaら 2019)。そのほか,複数の研究がLOEU患者の髄液において,健常な年齢一致対照群と比較して,アミロイドβレベルの低下とリン酸化タウ(p-tau)レベルの上昇が認められることを報告している(Kamondiら 2024)。しかし,すべての研究がLOEとAD病理の明確な関連を示しているわけではない。認知機能障害がなく,発症からの期間が短い(平均1.8年)高齢発症TLE患者20名の髄液ADバイオマーカー(総タウ,リン酸化タウ,アミロイドβ)は健常対照群と同等だった(Balleriniら 2025)。この研究では,高齢発症TLEは,ADに起因するMCIとは異なり,皮質・皮質下の萎縮パターンが健常高齢者と類似していた。てんかん罹病期間が平均1.8年と比較的短い患者を研究対象としている点に留意すべきだが,LOEとADの関連は一様ではない可能性が示唆される。
本症例は,髄液検査にてアミロイドβ42/40比が低値を示し,AD病理の存在が示唆された。LOEがADの前駆状態あるいは早期病態の一表現型である可能性を支持し,てんかん発作が臨床現場におけるスクリーニングと早期介入の新たな契機となりうる点で意義深い。もっとも,LOEの病態の多様性にも留意する必要がある。たとえば,本症例において認められた一過性の扁桃体腫大がAD病理の出現や進行にどの程度関与するかは不明である。
3. 扁桃体腫大の意義とTLEの病態に関する検討本症例では経過中に頭部MRIで片側の扁桃体腫大と信号変化が認められ,近年注目されている扁桃体腫大を伴う側頭葉てんかん(temporal lobe epilepsy with amygdala enlargement:TLE-AE)に該当すると考えられる。TLE-AEにおける精神症状の合併については,約90%と高率に不安や抑うつを合併するという報告(Lvら 2014)がある一方で,有意差はないとする報告(Shakhatrehら 2024)もあり,現時点では確定的な見解はない。
TLE-AEの病因としては皮質異形成や腫瘍などさまざまである。19例(うち18例でT2/FLAIRで扁桃体の高信号を伴う)のTLE-AEの病理所見の報告では,84.2%の症例で扁桃体の病理は正常,15.8%で軽度の反応性グリオーシスを認めるにとどまり,炎症の明確な証拠は乏しかった(Shakhatrehら 2024)。そのため,Shakhatrehらは扁桃体腫大の原因として,自己限定的な脳炎の可能性だけでなく,発作による一過性の変化である可能性も指摘している(Shakhatrehら 2024)。さらに,33例のTLE-AEのうち22例で,抗発作薬による治療で発作頻度の改善に伴い扁桃体の体積も改善したという報告(Lvら 2014)もあり,反応性の腫大の可能性を支持する。
本症例においては,抗体陰性自己免疫性脳炎を含むself-limitedな自己免疫性脳炎を発症していた可能性は否定できないが,てんかん発作による二次的な扁桃体腫大であった可能性がより高いと考えられる。
本症例は,てんかん発症が神経変性疾患の初期症状となりうる可能性や,精神症状により見逃されやすいてんかん・記憶障害の存在など,今後のLOE診療において検討すべき重要な視点を提供している。今後,LOEの精神症状,ALFやAbAを含む認知機能障害と神経変性疾患との関連について,標準化された検査法を用いた多数例による縦断研究が望まれる。
本報告に関しては,患者より書面にて同意を得ている。また,本報告の作成にあたっては,個人が特定されないようプライバシーに十分配慮している。
著者全員に関して,本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれもない。
ADバイオマーカー(髄液アミロイドβ42/40比,リン酸化タウ)の測定につきましては,国立精神・神経医療研究センターバイオバンクに多大なるご協力を賜りました。また,抗神経抗体検索においては,日本大学医学部内科学系神経内科学分野の皆様に多大なるご尽力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。加えて,本症例に関するシンポジウム発表の機会を与えてくださった三村將先生に,心より御礼申し上げます。