2016 年 2016 巻 26 号 p. 63-97
本稿は,カリブ海における地域統合体「カリコム」の更なる地域経済政治統合の動きである「カリコム単一市場経済(CSME)」について,その完成を妨げている様々な要因の理論的背景を先駆的に探求したものである.カリコム加盟国15ヶ国における天然資源や人的資源の不足,また弱小且つ脆弱な経済がもたらす様々な問題を解決し,統合を達成しようとする政治意思や強いリーダーシ ップが,なぜ域内において欠如しているのかを探り,理解を推し進めるものである.ガイアナ,トリニダード・トバゴ,ジャマイカ,バルバドス等のカリブ海諸国や,ニューヨークやマイアミにおいて,44人のカリブ諸国政府高官やビジネス関係者等カリブ海地域出身のカリコム関係者に対し,対面及びビデオ・スカイプによるインタビューを行い,談話分析を行った.調査結果によると,ナショナリズムに影響を受けた人的資源不足に悩むCSME参加国が,CSMEにおける主権争いや利害衝突を引き起こし,結果としてカリコムを形骸化させ政治意思を実現不可能にしていることが明らかになった.しかしながら,グローバル化が進む世界の中,カリコム諸国が生き残るためにCSME達成が最重要であることはCSME参加国間で強い合意に達している.そのため今後必要となるのは, CSME達成に向けた各国に対する技術支援を迅速に行うため,カリコムとCSMEのガバナンスを根底から改善することである.