サロン(モーケン)の遊動の全貌についてはこれまでの民族誌や報告の中では記述されていない.それ故に彼らの行動の全貌を捉えることができなかった.彼らの1年間の行動の半分は,遊動であるから,遊動行動を明らかにしなければサロンの全貌を知ることにはならないし,また現実的な問題として,サロンの人口とその構成,教育,医療,福祉など生存と生活に関係した諸問題を明らかにし,支援することもできない.
本研究では,学術的な関心とともに,彼らの現実生活の基盤でもある遊動の概要を把握する調査を行った.この調査では72家族,462人のサロンを対象にして,その出航から帰航までの全過程を航行ルートと遊動した日数,立ち寄る島々,そして推定された最短遊動距離などを明らかにした.調査結果から,72家族は9グループに分かれて行動しており,1回の遊動で,46日から110日をかけており,その漁撈を伴う推定最短遊動距離は525~1,323kmであった.遊動範囲はミェイ諸島の北緯9度43分~13度01分が南北の,東経97度40分~98度35分が東西の遊動範囲であって,この範囲を出るものではなかった.遊動中に立ち寄る島々も明らかにしたが,特に拠点となる地点も判明した.
この調査結果がサロンの人口調査をはじめ生活の改善(教育,医療,福祉,公民権の行使など)に少しでも役に立つことを願うとともに,関係各方面で有効に活用されることを期待している.
抄録全体を表示