人間生活文化研究
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短報
  • ―メンタライジング能力に着目して―
    信田 美咲
    2026 年2026 巻36 号 p. 28-48
    発行日: 2026/01/01
    公開日: 2026/05/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,「メンタライジング能力(自他の行動の背景にある精神状態を推察する能力)」が,対人恐怖心性の高い大学生の適応維持・促進にどのように機能するかを,量的観点から検討することを目的とした.適応の評価においては,外的適応と内的適応のバランスが重要であることから,外的適応指標として「対人ストレスコーピング(対人ストレスへの対処方略)」を,内的適応指標として「本来感(中核的な自分らしさの程度)」を採用し,分析を行った.分析の結果,メンタライジング能力の向上は,大学生の対人恐怖心性を軽減し,本来感を高め,対人ストレスへのポジティブな対処行動を促進する上で有益に働くことが示唆された.特に,メンタライジング能力のなかでも「自己に対するメンタライジング能力」は,本来感の高さを予測する変数であることが明らかになったほか,対人恐怖心性と対人ストレスへのネガティブな対処行動の間接的な低減にも寄与する可能性が示唆された.さらに,対人恐怖心性が高い大学生をメンタライジング能力の差異で分類した結果,対人恐怖心性が高い大学生の中には,メンタライジング能力における一部の下位尺度得点(他者に対するメンタライジング能力とメンタライゼーションへの関心)が高い1群が存在したが,それら2つの能力が高くても「自己に対するメンタライジング能力」が低い場合には,対人ストレスコーピングの選択や本来感の状態に変化がみられない可能性が示唆された.今後はこの知見に基づき,自己に対するメンタライジング能力の向上に焦点を当てた介入研究の実施や,対人恐怖心性が高い大学生のメンタライジング不全を予防するための心理教育プログラムの開発などより実証的な研究を蓄積していく必要がある.

原著論文
  • 松村 茂樹
    2026 年2026 巻36 号 p. 69-84
    発行日: 2026/01/01
    公開日: 2026/05/20
    ジャーナル フリー

     近代の漢学者・長尾雨山(1864-1942)は,上海時代の徐園集,古書画展観雅会,帰国後の寿蘇会,平安書道会等の実質的主催者であったが,必ずもう一人の主催者を立て,自分はその後に控えて事業を進めた.このような雨山の謙虚さが,その人脈形成力につながっていたと思われる.

     では,雨山はなぜこのような謙虚さを身につけていたのであろうか.筆者は,その背景に高松にあった雨山の生家の存在が大きく関わっていたと考える.

     本稿では,雨山の生家の所在地を実地踏査によって特定し,その地が,今も敬愛される高松藩公子・松平頼該の邸宅「亀阜荘」の敷地内にあったこと,そして雨山の曾祖父,養祖父,生父が頼該の側近として仕えていたことを明らかにした.

     このような長尾家の嗣子として生まれ育った雨山は,自然と,長尾家が仕えた松平頼該の謙虚な人柄に学び,その資質を受け継ぐこととなった可能性が考えられる.

短報
  • 杉本 あゆみ
    2026 年2026 巻36 号 p. 85-92
    発行日: 2026/01/01
    公開日: 2026/05/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,待遇力を「他人をもてなす能力」と定義付け,日本での就職を希望し,待遇力が求められる外国人留学生のキャリア教育に有効利用すべく,日本企業でのアルバイトで接客を主な業務とする外国人留学生7名を対象として,異文化間コンフリクトに対する就業時の対応をインタビューによって調査した.インタビュー内容は,これまでの勤務におけるコンフリクト経験の有無,およびその時の対応方法についてと,調査結果はトーマス&キルマンの5つのコンフリクト対処法(「競争」・「協調」・「妥協」・「順応」・「回避」)に振り分けて分類した.調査の結果,出現していたコンフリクト対処法の8割以上は「妥協」・「順応」であった.また,外国人留学生が異文化圏のアルバイトという職場環境の中で,様々な場面において相手の要求を理解した上で,それを納得していなくても受け入れていることが導き出され,日本の就業ルールを自分なりに理解した上でのコンフリクト対応であることが実証された.

  • ―ZARA,SHEINのビジネスモデルとの比較を通じた課題分析―
    有元 史朗
    2026 年2026 巻36 号 p. 106-113
    発行日: 2026/01/01
    公開日: 2026/05/20
    ジャーナル フリー

     近年,日本のアパレル市場においてトレンド性を志向するファストファッションSPA(ファーストリテイリンググループのジーユー(GU)や,アダストリア,パルグループ,バロックジャパンリミテッド等のショッピングセンターや駅ビルを中心とした高回転MDブランド)は,値入率が悪化し,競争が激化する中,QR(クイック・レスポンス)生産が不可欠となっているが,これまでQR生産の主な担い手であった中国の工賃上昇による生産地の分散化に伴うリードタイムの長期化といった新たな問題に直面している.ZARAはニアショア生産を活用した垂直統合型モデル,SHEINはITと広州のアパレル産業集積を活用した越境ECモデルで,共に高効率のサプライチェーンを実現している.一方,日本のファストファッションSPAは,値入率中心主義や商社依存により,サプライチェーンの柔軟性を欠いている状況である.SHEINなどの越境ECの海外ブランドが日本アパレル市場を侵食する中で,日本のファストファッションSPAが再成長するためには,この体質から脱却し,自らリスクを負って俊敏性・適応性・連携性を備えたサプライチェーンへ再構築することが急務である.本稿では,サプライチェーンにおいて革新的なビジネスモデルの先駆者であるZARAおよび近年そのモデルを進化させたSHEINの事例と比較し,日本企業の構造的課題を分析した.

  • Rikuhide Koma, Yudai Nonaka
    2026 年2026 巻36 号 p. 114-123
    発行日: 2026/01/01
    公開日: 2026/05/20
    ジャーナル フリー

     Extracellular signal-regulated kinase 1/2(ERK1/2)は,細胞内シグナル伝達に関与する主要なキナーゼの一つであり,骨格筋の恒常性維持に重要な役割を担っている.本研究では,短時間の急性全身温熱刺激がマウス骨格筋におけるERK1/2活性化に及ぼす影響を検討した.11週齢の雄性C57BL/6Nマウスを対照群(n = 6)または温熱群(n = 6)に分け,温熱群のマウスを39 ± 1 °Cの環境下に30分間曝露した.曝露直後に麻酔下でヒラメ筋(酸化型)および足底筋(解糖型)を摘出し,ERK1/2のリン酸化レベルをウエスタンブロッティングにより解析した.その結果,両筋におけるERK1/2のリン酸化レベルは,温熱刺激群が対照群と比べて有意に高値を示した(p < 0.05).以上より,短時間の急性全身温熱刺激は,酸化型および解糖型の骨格筋双方においてERK1/2の活性化を誘導することが示唆された.

  • ―奴隷制廃止後のガイアナにおけるイギリス化と日常実践―
    伊藤 みちる
    2026 年2026 巻36 号 p. 124-139
    発行日: 2026/01/01
    公開日: 2026/05/20
    ジャーナル フリー

     本稿は,1966年にイギリスから独立したガイアナにおいて,植民地期から現代に至る白人性(whiteness)の構築と変容を,少数者支配という植民地的条件の下で検討する.イギリス領時代のガイアナでは,白人が人口的少数派であったにもかかわらず,王室儀礼,社交クラブ,住居・服飾,婚姻規範,スポーツといった日常的実践を通じて,白人性が「文明」「秩序」「品位」と結びつけられ,支配の正統性が象徴的に再生産されてきた.本稿は,奴隷制廃止後の社会再編過程に焦点を当て,白人性が暴力や法制度に依存せず,文化的装置としていかに持続し,現代ガイアナ社会にまで影響を及ぼしているのかを明らかにする.

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