人間生活文化研究
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短報
  • ―避妊に対する態度や行動に着目した探索的分析―
    反橋 一憲
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 1-13
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     本稿は,学校における性教育が効果を有するのか,つまり,若者の性行動に影響を与えるのかを検証した.具体的には,健康教育におけるKABモデルを参考にしながら,性教育を受けた経験と避妊に対する態度(妊娠への憂慮感),そして避妊行動の関係を分析した.その際,性教育への有用感も考慮した.

     分析の結果,妊娠への憂慮感と避妊行動に対して学校での性教育が及ぼす効果は,高校生と大学生とで異なることが分かった.高校生の避妊行動には,学校で人工妊娠中絶を学習した経験が避妊への態度を媒介して間接的に影響を及ぼしている.また,高校生の避妊行動には性教育への有用感が直接的な影響を及ぼしている.一方で,大学生に対しては学校での性教育が効果を有しているとは言えなかった.大学生は学校での性教育などで得られた知識に限らず,これまで得てきた知識を意識的に参照しているとは限らないことが示唆される.以上より,避妊に対する態度や避妊行動を規定するメカニズムは,高校生と大学生で異なるという点が示された.

     また,妊娠への憂慮感には避妊行動の有無が影響を及ぼし,逆に避妊行動の有無にも妊娠への憂慮感が影響を及ぼしている様子がうかがえる.さらに,高校生に限られた知見ではあるが,実際に避妊行動を選択した後に性教育が役に立ったと実感し,さらに知識を役立てて次の避妊行動を選択するようになる可能性もある.

原著論文
  • ―白人認識のナラティブ:特権・反人種差別・白人としての責任―
    伊藤 みちる
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 26-52
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/05/09
    ジャーナル フリー

     本稿は,旧英領バルバドスの圧倒的少数派であるヨーロッパ系市民がどのようにマイノリティとしての「白人」認識を持つようになったのか,また白人としての経験にどのような蓄積があるのかを探求した.2016年と2017年はバルバドスでヨーロッパ系市民を対象にオーラル・ヒストリー聞き取り調査,2021年と2022年にオンライン補完聞き取り調査を行った.肌の色の違いには学齢前に気づくが,自身が「白人」であることや人種的な社会境界については,多数派であるアフリカ系の同級生との日常的な交流をもとに10代で気づくようになる.白人至上主義思想や人種差別的な社会不平等を正当化する特権意識に対する非難,そして人種間の不平等が当然なものとして存在する社会に対する白人としての歴史的責任の認識が聞かれた.他方で若者は,白人という理由だけで特権を享受できる時代は終わったとして,白人が優遇される人種間の不平等の存在自体を否定した.

短報
  • 吉井 健
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 53-58
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/05/09
    ジャーナル フリー

     近年,アパレル市場において,リアル店舗に訪問せずにネット店舗で購買する消費者も増加してきた.そして,コロナ禍を契機とし,ネット店舗を立ち上げるメーカーも増えてきた.これらを背景とし,ネット店舗経由で直接消費者に販売するビジネスモデル,すなわちDtoC(Direct to Consumer)事業に着手する企業が増えてきている.一方,それを利用する消費者(以下,DtoCショッパー)における知覚リスク低減が課題になる.本研究では,DtoCモデルと消費者行動に焦点を当てた実証研究を行うことで,それを展開する企業としての販売促進課題を検討することを目的に置き,実証分析を進めた.本分析の結果,品質・性能懸念の解消が,DtoCショッパーの購買満足に最も影響を与えることが分かった.また,DtoCにおいてはライブコマース等の経験価値を高める施策により,販売促進に結び付く可能性も明らかに出来た.これにより,DtoC事業を行う企業のマーケティング施策案と今後の課題を提示した.

原著論文
  • - Secondary analysis of SEA-PLM 2019 -
    Hiromitsu MUTA
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 115-151
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

     2019年にミャンマー国を含むASEAN6カ国で小学校5年生を対象に,算数,読解力,書き方の標準学力調査が実施され,2020年にその結果が公表された.ミャンマー国は調査対象6カ国の中で中位の成績を示した.学力を説明する政策的な要因として最も重要なのは教授言語であるミャンマー語と児童が家庭で用いる言語の一致である.家庭の言語がミャンマー語でない場合特に書き方の学力で明確に低いが,算数でも差が見られる.言語の問題は特に学力の低い層で深刻である.

     児童の学校への好感度を高めること,教員の問題行動が少ないこと,授業時間が確保されていること,学校が家庭の近くにあること,学年規模が大きくないこと,物理的学習環境が優れていることなども学力向上に寄与している.子どもの学習に対する親の積極的な関わり,子どもの教育への期待,過度な家事手伝いの免除なども学力向上に効果があり,親への啓蒙活動を通じて改善を図ることができると考えられる.

  • ——The “Pillar of Angels” in Strasbourg Cathedral——
    Akimi Iwaya
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 180-191
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/07/13
    ジャーナル フリー

     ストラスブール大聖堂の南翼廊内に立つ《天使の柱》(Figs. 1–3)は,一本の柱に彫像を配することで〈最後の審判〉を描き出した,13世紀初頭の作品である.本稿は,《天使の柱》を独立柱(Freipfeiler)の発展史上に位置付けることにより,その造形原理の解明を目指した.第2章にて,本作が特異な形式であるがゆえに類似例がなく,考察の余地があることを確認したのち,以下の章でその特質を浮き彫りにした.まず第3章で柱あるいは柱モティーフと彫像を組み合せた作例との比較に基づき(Figs. 5, 6),柱と彫刻の両者が記念碑性を備え有機的な関係の中に図像を展開させた点を,《天使の柱》の特殊性として指摘した.第4章では図像の観点から検討し,その表現システムをタンパンのそれと比較した(Fig. 7).その結果,二次元的なヒエラルキーにより理論的かつ明快な図解を可能にしたタンパンとは相反する性質を《天使の柱》が有することがわかった.

     本稿の後半では柱に注目した.まず第5章にて,ドイツ特有のホール式聖堂の発展プロセスをたどることで,独立柱が有する表現力の可能性を明示した(Figs. 8–10).壁面から解放された独立柱は,バシリカ式空間のピアとは異なり,均質空間の中で存在感を増し,さらにヴォールトと滑らかに連携することで新たな表現力を獲得したのである.《天使の柱》ではこれと同じ志向が,しかし彫像を介するという異なった方法で追求されたと解釈できる.最後に第6章にて,柱,彫刻,そして両者の融合という観点から,《天使の柱》が有する表現性を分析した.

     以上から結論として,《天使の柱》において,彫刻は柱の特性を受け継ぐことで威圧的に空間を支配し,あわせて,彫刻の有する優美さと具象性が柱に新たな表現力を付与したといえる.タンパンなどの二次元的な表現と比べて,柱を主体とする《天使の柱》は空間や観者との連続的な関係の構築が容易であり,そのため直感的な演出を得意とする.また同時に本作は,立体であるがゆえに時間的性格を内包し,すべてを一瞬で把握できないがために不明瞭であり,それが神秘性を高め畏怖の念を助長することになった.ゴシックへの移行期において,《天使の柱》では柱の一部が彫刻へ置き換わり,独立柱としての類例なき表現が実現したといえよう.

  • ―「サーバントリーダーシップ」の本質(3)
    松村 茂樹
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 192-201
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/07/13
    ジャーナル フリー

     筆者は,前稿で日本の「タテ社会」を,「ヨコ」のフラットな関係において皆で考えることができる「ヨコ社会」に変革する必要性を論じ,その有力な方法として,「サーバントリーダーシップ」の導入を提案した.ただ,「サーバントリーダーシップ」は,キリスト教から出たものであり,キリスト教的理解なしにはその本質がわからない.

     筆者はこれまでに,「サーバントリーダーシップ」が見られる『聖書』箇所をとりあげ,キリスト教的に理解しようとする著書の見解を引用して論じてきた.本稿では,『新約聖書』「ペテロの手紙第一」5章3節に見える「支配するのではなく,模範となりなさい」をとりあげ,この箇所のキリスト教的理解により,「サーバントリーダーシップ」の本質を明らかにしたい.

短報
  • Noriko Fujime
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 206-209
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/08/28
    ジャーナル フリー

     日本における月神であるツクヨミは、最も重要な神の一つに数えられるにも関わらず、神話が非常に少ない。月神の活躍の乏しさについては、国学者や歴史学者のみならず心理学者も着目し、日本人の感性と結びつける説もあった。

     『日本書紀』において、ツクヨミは穀物神に死を与えることで、穀物の誕生に貢献している。また、同書にある埴輪の馬の話にあるように、月夜は死者と接触できる空間であった。ツクヨミの領域が、滄海原潮之八百重、即ち遠い海、あるいは、日神から遠ざけられた夜といったように、離れた場所と強調されているのは、月が異界と現世を繋ぐと考えられていたであろうことと無関係ではないだろう。

  • 杉本 亜由美
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 287-293
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

     本研究では,学生が本来学ぶべき古典に焦点を当て,受講学生の古典嫌いを克服すべく,筆者が担当した,基盤科目「日本語Ⅱ」の授業内で行った実践授業プログラムの効果を検証した.

     授業の内容は,学生の古典嫌いを克服できるように,受講学生が楽しめる参加型プログラムにした.具体的には,多くの受講学生が選んだ「枕草子」をテキストに指定し,古典が持つ音の響きの美しさを体感できるように丁寧に音読する時間を設けたり,原文を参考にして自身で随筆を執筆し,受講学生同士でそれらを味わい,楽しみを共有する古典実践授業を試みた.

     検証の結果,授業前のアンケートでは,約7割の受講学生が「古典に興味がない」,「古典学習は嫌いだ」と回答していたが,授業開始後より,古典知識獲得→個別実践演習(セルフワーク)→協働学修(ピア・レビュー)というプロセスを経て,授業後のアンケートでは,全受講学生が「授業内容にとても満足した」,もしくは「授業内容に満足した」との回答が得られた.さらには,個々に実施した事後聞き取り調査での「授業を振り返ってどうか」との質問に,全受講学生が,「古典に少し興味を持つようになった」,「今後,古典作品を読んでみようと思う」,「古典の面白さを知った」等,古典に対する苦手意識を無くす契機に繋がる肯定的な回答をしており,一定の授業効果を確認することができた.

原著論文
  • ―言葉を超越した視覚的体験―
    李 癸雲, 赤松 美和子
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 567-576
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

     女性詩人の夏宇(1956-)は台湾の現代詩壇で最も実験的で,カテゴリー化するのが難しい詩人の一人であり,初めての詩集『備忘録』(1984)から一貫して詩の可能性に挑み続けている.すべての詩集で驚くべきオリジナル性を発揮し,言葉を挑発し,スタイルを破壊し,ポストモダニズムおよびフェミニズムの代表的な詩人だと見なされてきた.台湾詩の学術界では夏宇についての豊富な研究の蓄積がある.本稿は新たな研究の視角を展開すべく,夏宇の近年(2010-2020)の作品における越境する鮮烈な視覚体験の美学について論じる.歌詞集『這隻斑馬/This Zebra(このシマウマ)』(2010)は,カラー版『那隻斑馬/That Zebra (あのシマウマ)』と同時に刊行された.これはページの真ん中を切断してページが上下に分かれているため,上下それぞれのページの歌詞を自由に組み合わせて読むことができる.装幀の色はカラフルで,本全体が街の雑然とした店の看板のようで,「退廃的な音楽」のように市場性に呼応している.『第一人称/First Person』(2016)は301行の長い詩を収録し,400枚余りの撮影作品を組み合わせ,「影像詩」集の概念を実践している.撮影はすべて夏宇によるもので,下には詩が添えられ,全体が映画のスクリーンのようにデザインされており,写真の下の詩は中国語の字幕,さらに英語の字幕が付されており,読者に映画鑑賞を想像させる.『脊椎之軸(脊椎の軸)』(2020)は世界ハイキングツアーについて書いたもので,あとがきを除いて,インクも使わず真っ白で,エンボス加工により文字や絵を浮き彫りにし,当時,荒野を彷徨った痕跡を再現しようとしている.何もない,「白紙」の詩集ともいえる.

     本論では,夏宇の詩の言語の視覚的探求についての詳細な考察のみならず,台湾現代詩「図像詩」美学伝統の現代の様相についても補完したいと考えている.これまで,「図像詩」の実験では,言葉の組み合わせやレイアウトが中心とされてきた.現在,「変わり続ける」女性詩人夏宇は,詩に言葉やイメージを超えた,より多様な視覚体験を探求し続けている.

  • ―フードサプライチェーンの業際連結に着目して―
    坂内 久
    2024 年 2024 巻 34 号 p. 646-670
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/10/23
    ジャーナル フリー

     われわれは2011年の東日本大震災から原子力依存の後発的問題や廃炉にかかわる永続的な問題についてさらに深く学びつつある.また,地球の温暖化対策として二酸化炭素の削減は,国連地球サミットをはじめ既定路線として一定のコンセサスを得ている.二酸化炭素を削減するためには,再生可能エネルギーを中心に置いて,近年著しく進展しつつある節電や省エネの技術に基づく需要と供給の両面を考慮した体系的なエネルギー政策の構築が不可欠である.

     再生可能エネルギーのなかでも太陽光や風力などの変動型自然エネルギー主体の電力供給システムにあっては,電力需給コントロールの脆弱性が取り上げられる.わが国においては電力の安定供給に不可欠なベースロード電源として原子力が位置付けられているが,原子力は出力調整が苦手な電源であり不適格である.本稿の目的は,長期的な視点から再生可能エネルギーの電力供給にフロー面で不可欠な出力調整に柔軟な対応力を持ち,またストック面からも地域分散型で貴重な電源となる畜産廃棄物主体のメタンガス発電を有力なベースロード電源と位置づけ,その生産能力と確実性をもとに量的拡大方策とその可能性を探ることにある.本研究の成果としては,国内の飼養搾牛頭数からメタンガス発電の潜在発電電力量が国内の水力発電量の1.8%(少なく見積もっても0.9%)を占めると推計できた.その潜在発電電力量を前提にメタンガス発電の量的拡大に向けて,本研究の事業実証モデルに基づいて範囲を全国域に広げた場合,畜産廃棄物に加えて食品加工残渣の数量確保が重要であり,発電量拡大をより確実にできるのが,酪農畜産廃棄物の発生源のクラスターと産業廃棄物収集運搬事業者との連携であることが見いだせた.

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