人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
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原著論文
  • Satomi Kusaka, Tetsuya Takahashi
    2025 年2025 巻35 号 p. 1-11
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/03/08
    ジャーナル フリー

     本研究は女性前期高齢者が,災害時に1日に必要とされる水3リットル/日を容量が違う非常用給水袋(以下,給水袋)に注水して運搬する時の給水袋内の水の揺れと運搬距離が,疲労と身体消耗,体幹動揺軌跡長に及ぼす影響を明らかすることを目的にした.対象は女性前期高齢者15名,年齢は71(67-74)歳であった.給水袋の運搬は4条件を設定して室内廊下合計500mの距離を運搬した.給水袋の条件は,4条件中の3条件は3リットルの水を容量が違う給水袋(3リットル,6リットル,10リットル)に注水して背負って運搬する条件とした.4条件目は何も背負わずに運搬した.測定項目は疲労を捉える指標として運搬速度と主観的運動強度を設定し,身体消耗を捉える指標として相対的心拍数と血圧を設定した.給水袋内の水の揺れが体幹動揺に及ぼす影響は体幹動揺軌跡長を設定して測定した.すべての条件の平均運搬速度は1.4 m/sであり,そのときの主観的運動強度はBorg scale11:「楽である」,相対的心拍数は77.1から80.3(%HRmax):「ややきつい」であった.10リットルの給水袋では運搬開始から35mまでの体幹動揺軌跡長は有意に他の容量の給水袋よりも低値であった(p<0.05).3Lの水運搬では疲労や身体的消耗は水の重量や給水袋の容量の違いが影響しているのではなく運搬距離が影響していた.給水袋の容量の違いと水量の関係は歩き始めの体幹バランスに影響することが明らかになった.

短報
  • 杉本 亜由美
    2025 年2025 巻35 号 p. 12-21
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/03/08
    ジャーナル フリー

     本研究は,高等教育機関における1年次後期科目「日本語Ⅱ」受講学生(52名)を対象にした古典実践授業内において,協働性・自律性・継続性を身につけることを目標とした協働評価学修を導入し,①受講学生は協働評価学修をどのように捉えているか,②協働評価学修にはどのような相互作用の特徴があるかを探ることを課題とし,その効果を考察した.

     授業終了後に協働相互学修に関するインタビュー調査を実施し,得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを採用して分析した結果,「知識の受容」→「知識の咀嚼」→「深い学び」→「継続学修」という流れの中で,インプットとアウトプットを繰り返し,既有知識の再構築という影響を受けながら,より思考を深め,古典学習の継続に繋げるという,受講学生の変容過程を確認できた.その一方で,「知識の受容」から「知識の咀嚼」に至らず,知識を受容できずに「拒絶する様子」も,一部の受講学生において確認することができた.また,受講学生による学修の振り返りに関する記述内容からは,他人と協働で評価活動することで新たな気づきを体験し,学びながら協働性を身につけることができたと考えられ,さらには,授業開始当初は興味が無かった古典作品に興味が芽生え,今後の古典学習の自律性・継続性が示唆された.

  • ―クライマックスにおける逆説の非受容―
    大喜多 紀明
    2025 年2025 巻35 号 p. 26-38
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/03/08
    ジャーナル フリー

     キアスムスの核(構造的中央の要素)には物語のクライマックスを表示する機能があるとされている.本稿では,芥川龍之介の短編小説である「蜘蛛の糸」を,まずはキアスムスによる構造であるかの検討をおこなったうえで,当該作品の核が,はたしてクライマックスといえるかの検討をおこなった.その結果,「蜘蛛の糸」はキアスムス構造であること,かかるキアスムスの核がクライマックスであることが確認できた.以上をふまえ,当該クライマックスの範囲を,一般的にクライマックスとされる範囲と比較したところ,厳密には差異がみとめられたものの,概ね同一であることが確認できた.本稿の検討によれば,本作品のキアスムスの核には,御釈迦様が提示した逆説を犍陀多が否定する選択が配置されていることがわかった.本稿は,日本の小説の分析に新たな方法論を提供する試論でもある.

原著論文
  • Hiromitsu Muta
    2025 年2025 巻35 号 p. 92-106
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/05/22
    ジャーナル フリー

     ミャンマー連邦共和国の基礎教育段階における私立学校の発展の実情について,各種統計を元にその発展の理由,州/管区間の違いについて分析した.私立学校は特に高校課程段階で急速に発展したが,私立学校生徒のマトリキュレーション試験合格率は公立学校の倍近くあり,生徒や親の期待はマトリキュレーション試験準備にあったと考えられる.2021年の軍事クーデター後,公立学校の児童生徒数は高校段階で最も減少したが,私立学校も同様の傾向であった.マトリキュレーション試験受験者の減少がその大きな要因と考えられる.

  • ―ルソーからウルストンクラフトへ―
    武田 千夏
    2025 年2025 巻35 号 p. 113-132
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/06/12
    ジャーナル フリー

     本論文は,フランス革命期が生み出したフェミニズム論を理解する手がかりの一つとして「女性性に由来する倫理的自由」の概念に注目する.この視点からウルストンクラフトを啓蒙フランスから革命フランスの知的文脈に位置付け,ルソーがウルストンクラフトのフェミニズム論に対して及ぼした影響について考察する.穏和な商業論は,男性論客の相互に対立,矛盾する意見を総合して妥協点を生み出すことを可能としたサロンの女主人の節度(会話の技巧)を社会道徳の重要な心理要素とみなした.ルソーはこの言説に敵対し,女性の生殖機能を社会道徳の基礎と捉え,共和主義的母性言説を刷新した.ウルストンクラフトはルソーの女子教育論に反発する一方,ルソー同様に穏和な商業論が象徴したサロンの女主人のイメージを拒絶し,社会的側面ではなく生物的な側面を女性性の本質とした.その結果,ウルストンクラフトが政治的人文主義に感化されて女性参政権を拠り所とする共和主義的フェミニズム論を展開したと解釈し,それは同時に「近代人の自由」と呼ばれた市民権の擁護に制約を課したことを指摘する.

短報
原著論文
  • ――「気になる子」に関する保育者へのインタビューを通じて――
    古田 雅明, 廣瀬 雄一, 田中 優, 春日 文, 宗 杏佳音, 沼田 真美, 山本 真知子, 黒川 こころ, 柳川 麻華, 松本 千明
    2025 年2025 巻35 号 p. 188-207
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

     今日,現場の保育者たちは地域に開かれた子育て支援活動へ取り組むことを一層期待され,より高度かつ多岐にわたる役割を求められている.そのような中,発達障害に関する知識や情報の急速な広まりもあってか,現場の保育者たちの注意を引いたり,何かしらの懸念を抱かせたりする,いわゆる「気になる子」への関わりが,現場においてとりわけ重要な課題となっている.

     本研究の目的は,「気になる子」を取り巻く問題に注目しながら,保育領域における臨床心理学的支援に対するニーズを,現場の保育者へ直接アプローチすることによって具体的に探ることであった.調査方法は,現場の保育士3名と管理職3名に対する半構造化面接とした.そこで得られたインタビューデータに対しKH Coderを用いてテキストマイニングを実施し階層的クラスター分析を行い,さらに層化共起ネットワークによる分析および対応分析を行った.これらの分析の結果とテキストマイニングにより抽出された語を含むインタビューデータの分析から,保育士による「気になる子」への関わりにおける数々の工夫と,その体験における困り感が見出された.さらに保育士たちの困り感の解消を目指す管理職によるサポート,特に施設内多職種連携や他機関連携をマネージする姿が浮かび上がった.このような保育現場の実際を背景にして,①専門的な心理アセスメントを活用した協働が挙げられること,そしてこの心理アセスメントを基盤にした,②保護者への関わりや提案,③他機関との連携,④保育士へのコンサルテーションの4点が心理職の貢献可能性であると考察した.

  • 江部 優奈, 福島 哲夫, 髙坂 紗也乃, 遊佐 ちひろ, 山本 映絵
    2025 年2025 巻35 号 p. 457-465
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/10/23
    ジャーナル フリー

     本研究では,カウンセラー要因を最小限に抑え,介入技法による効果をできるだけ純粋に検討するために,新たな試みとして工夫したランダム化比較試験を行った.それは3名のカウンセラーが各々3つの異なる介入技法を実施し,その際の初期介入の変化を量的および質的なデータによって検討するというものである.20歳以上の男女21名が一般公募され,被験者は各介入技法に均等に割り当てられ,3名の臨床心理士がそれぞれ3つのアプローチを使用して個別に介入を実施した.参加者は各介入の前後にアンケートとインタビューに回答した.

     結果として,「セルフ・コンパッション」尺度の下位尺度である「共通の人間性」および「マインドフルネス」の得点と「クライエント・フィードバック」の「成果・プロセス」の得点が有意な差を示した.質的データからは,量的データには反映されていない各介入技法の特徴を同定することができた.この結果は,同じカウンセラーが複数の介入技法に習熟し,マニュアルに従って実施した場合,介入技法間の違いがより明確になる可能性があることを示唆している.

     今後の課題として,さらなる検証のためにセラピストの数を増やす必要があること,また長期的な介入とその効果を研究する必要があると考えられた.

短報
  • 杉本 亜由美
    2025 年2025 巻35 号 p. 478-487
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/10/23
    ジャーナル フリー

     本研究では,高等教育機関における初年次学生を対象に,日本語科目を通じて「敬語力」の育成を目指し,教員から与えられた目標ではなく,自ら学修目標や学修計画(授業以外の時間における経験学修)を考え,実践し,自身の経験を協働で振り返る時間(協働評価学修)を設ける経験学修モデルを実践した.実践の効果は,客観的尺度として事前事後に実施した敬語テスト,主観的尺度として事前事後に実施した授業アンケートより測定することとした.

     調査の結果,定量的データ,定性的データの両方より授業効果を確認することができ,さらに,記述式アンケート結果より,受講学生の「敬語力」が醸成された可能性を確認することができた.また,事前テストから事後テストにかけて最も得点上昇率が高かった学生は,過去1か月に最も読書冊数が多かった.また,事前敬語テストの結果が上位25%の学生について,「1週間のアルバイトの時間の長さ」,「1週間の地域の人々との会話時間の長さ」「1週間の学内における教職員との会話時間の長さ」の相関性が確認された.

  • ―AMPKを介してエネルギー代謝に与える影響―
    長谷川 千織, 小谷 実祐, 中村 祐希, 田中 直子
    2025 年2025 巻35 号 p. 500-505
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/10/25
    ジャーナル フリー

     脂肪細胞は脂肪の合成・蓄積を行う一方,生理活性物質を分泌して全身のエネルギー代謝や炎症状態に影響を与えている.われわれは,脂肪細胞の肥大化による代謝変化や炎症性変化のメカニズムを調べるために,脂肪滴表面で脂肪の合成・分解に関与することが推測されているタンパク質ペリリピン4の発現抑制細胞株を作成した.本研究では,ペリリピン4が脂肪細胞のエネルギー代謝に与える影響を調べることを目的とし,発現抑制細胞株のエネルギー代謝関連タンパク質のmRNA発現量およびミトコンドリアの形態の変化を調べるとともに,エネルギー代謝の中心的制御因子AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)に着目して,AMPK活性化剤AICARをこの細胞株に添加したときの変化を調べた.

     ペリリピン4発現抑制細胞株は特異的shRNAを3T3-L1細胞にトランスフェクションすることで作成した.この細胞を分化誘導後18日および30日目まで培養し,ミトコンドリア関連タンパク質のmRNA発現量を定量し,また,ミトコンドリアを蛍光染色して観察した.AICAR処理は実験24時間前に1mMのAICARが添加された培地に交換することによって行った.ペリリピン4の発現を抑制することによって,エネルギー代謝関連タンパク質のmRNA発現量が減少し,ミトコンドリアの分布に変化がみられた.一方,炎症性サイトカインMCP-1の発現量は増加していた.エネルギー代謝関連酵素のmRNA発現量およびミトコンドリア形態については,AMPK活性化剤で回復が見られたが,MCP-1の発現量の回復はみられなかった.これらの結果から,脂肪滴表面タンパク質ペリピン4は,脂肪細胞のエネルギー代謝をAMPKを介して制御している可能性が示唆されるとともに,ペリリピン4発現抑制細胞株における炎症性サイトカインの発現増加は,エネルギー代謝とは別経路で引き起こされている可能性が示唆された.

  • ―述語的論理によるスコプツィ派信仰実践の分析を事例に―
    大喜多 紀明
    2025 年2025 巻35 号 p. 506-518
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/10/30
    ジャーナル フリー

     本稿は,18世紀ロシアのキリスト教異端・スコプツィ(去勢派)の信仰実践を述語的論理の視点から分析し,その教義の合理化と組織拡大に果たした役割を検討するとともに,現代の宗教批判の問題点を考察することを目的とする.去勢派は,去勢行為を「原罪からの解放」および「神との合一」の手段と位置づけ,睾丸や乳房を「善悪を知る木」の果実,陰茎を「蛇」とみなす独自の教説を展開した.本稿では,この教説が述語的論理によってどのように合理化され,信者の勧誘や組織の発展に寄与したかを分析する.一方,現代における過剰なカルト批判もまた,述語的論理の誤用による一般化(「異常行動=危険」)という論理的誤謬を孕んでおり,信仰の内面的動機を軽視したまま,社会的対立を助長する危険性がある.本稿では,去勢派の事例を通じて,宗教的他者への誤解がどのように生じ,排除の論理が形成されるのかを明らかにする.さらに,平和論の視点から,宗教的実践の異質性を単に「異常」として排除するのではなく,その信念体系を理解し対話を促進することが,社会の分断を防ぐ上で重要であることを指摘する.述語的論理の誤謬に基づくカルト批判の危険性を認識し,より包括的な宗教理解を進めることが,結果としてポジティブ・ピースの構築にも寄与すると考えられる.

原著論文
  • 大澤 清二, Than Naing , Tin Hone , San U , 下田 敦子
    2025 年2025 巻35 号 p. 519-547
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/12/04
    ジャーナル フリー

     サロン(モーケン)の遊動の全貌についてはこれまでの民族誌や報告の中では記述されていない.それ故に彼らの行動の全貌を捉えることができなかった.彼らの1年間の行動の半分は,遊動であるから,遊動行動を明らかにしなければサロンの全貌を知ることにはならないし,また現実的な問題として,サロンの人口とその構成,教育,医療,福祉など生存と生活に関係した諸問題を明らかにし,支援することもできない.

     本研究では,学術的な関心とともに,彼らの現実生活の基盤でもある遊動の概要を把握する調査を行った.この調査では72家族,462人のサロンを対象にして,その出航から帰航までの全過程を航行ルートと遊動した日数,立ち寄る島々,そして推定された最短遊動距離などを明らかにした.調査結果から,72家族は9グループに分かれて行動しており,1回の遊動で,46日から110日をかけており,その漁撈を伴う推定最短遊動距離は525~1,323kmであった.遊動範囲はミェイ諸島の北緯9度43分~13度01分が南北の,東経97度40分~98度35分が東西の遊動範囲であって,この範囲を出るものではなかった.遊動中に立ち寄る島々も明らかにしたが,特に拠点となる地点も判明した.

     この調査結果がサロンの人口調査をはじめ生活の改善(教育,医療,福祉,公民権の行使など)に少しでも役に立つことを願うとともに,関係各方面で有効に活用されることを期待している.

  • ―ウェブ調査データの分析を通して―
    牧野 智和
    2025 年2025 巻35 号 p. 584-594
    発行日: 2025/01/01
    公開日: 2025/12/13
    ジャーナル フリー

     現代的自己論の最も新しい展開の一つといえるアンソニー・エリオットの「新しい個人主義」論は,世界的によく知られた議論でありながら,実証的な検討がほとんどなされていない.本稿では,2025年に実施したウェブ調査のデータを用いて,「新しい個人主義」の諸テーゼが(1)どの程度妥当性をもつのか,(2)それぞれどの程度相関するのか,(3)ネガティブな感情的コストを実際に発生させうるのか,(4)社会的属性とどのように関連しているのか,を検証する.

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