人間生活文化研究
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EU研究に歴史的制度主義を適用する方途についての試論
―域内市場統合を事例に―
井上 淳
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2018 年 2018 巻 28 号 p. 708-720

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抄録

 本論文は,既にEU研究に適用されながらもその問題点が指摘されてきた歴史的制度主義をEU(European Union)研究に活用することができるようにするために,歴史的制度主義アプローチの操作,修正を試みるものである.

 それまで停滞していたEU統合が1980年代半ばの域内市場統合計画によって息を吹き返すと,EUに対する理論的アプローチが発展した.歴史的制度主義はそのうちのひとつであり,EU諸機関が時間の経過とともに加盟国政府に影響を与えて,加盟国政府にさらなる制度化を選択させると主張してきた.しかしながら歴史的制度主義は,政府の国益や選好に関わる前提を競合理論であるリベラル政府間主義と共有したため,議論の上で大きな制約を抱えることになった.本論文はその制約を明らかにしたうえで,EU研究に適合するように歴史的制度主義を操作,修正する.

 新たに操作を加えた歴史的制度主義は,加盟国による制度的選択が自国では解決することができない課題の「欧州的(集合的)解決」であること,それゆえに当該制度選択がゆくゆくは加盟国を拘束することを明らかにする.このような理解は,EU研究における歴史的制度主義に向けられてきた学術的批判にこたえてその問題点を克服するとともに,たとえばユーロ危機の顛末のように一度統合が停滞した後に再統合が進む理由やメカニズムを明らかにする可能性がある.

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© 2018 大妻女子大学人間生活文化研究所
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