2014 年 23 巻 p. 145-161
本稿の目的は、18世紀末から20世紀末までに展開されたイギリスの進歩的な教育思想と教師像の変遷過程に内在する教育思想史的意味を析出し、日本の教員養成改革への教訓を得ることにある。一般庶民の学校の教員養成は、ヴィクトリア時代に宗派別養成から国家レベルのそれへと移行し、その思想は基礎学校教員と中等学校の女性教員にのみ向けられた。19世紀末の社会改革運動と連携して生起した新教育やその後の進歩主義教育は、子ども理解とそれを踏まえたカリキュラム編成の能力によって、教師の自律性と専門性を見出していった。この教師の専門性は、政治が学校教育に過度に介入することを抑制し、国家組織、地方教育当局、学校がパートナーシップと責任をもつという思想をもたらした。だが、進歩主義教育が拡大し普及するにつれて教職の営みは複雑化し、教育思想は革新と保守双方において両義的に展開されるに至った。したがって、イギリスの教員養成の歴史事象からは、ポリティクスにアプローチし、それを見極める能力を教員に育成する必要があるという教訓を得ることができる。