人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 412
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第4会場
渥美半島伊良湖村における20世紀初頭の集落移転
*林 哲志
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抄録
_I_ はじめに
 渥美半島は愛知県の最南端に位置し,その先端に伊良湖岬がある。かつて,岬の近くにあった伊良湖の村は,20世紀の初頭,1905(明治38)年から翌年にかけて集落移転をした。集落移転の理由は,「陸軍技術研究所伊良湖試験場」という大砲の実験場が拡張したことである。そのため,集落内にある屋敷は陸軍によって買収され,伊良湖の村は伊勢湾に面した場所から山の東側の現在地に移転することになった。
 発表者は,これまで,伊良湖について,移転前の集落景観や,そこに住む人々のくらしについて報告してきた。今回の発表では,集落移転そのものを捉え,具体的なその経緯,新しい伊良湖集落の位置が決まった理由およびそれぞれの屋敷の空間的な移動パターンを考察し,その特徴について言及する。また,集落移転の時系列的な進捗状況から,特筆すべき事象についても明らかにする。

_II_ 研究方法
 集落移転の前後に測図された旧版地図(地形図)から,集落の位置と形態を判読した。
次に,旧集落におけるそれぞれの屋敷の位置を文献資料や空中写真,それに聞き取り調査の結果から推定した。そして,現集落における移転先の屋敷の位置を都市計画図上に示した。移転後から現在までの間に,再度移動した屋敷もあったことから,ここでも聞き取り調査の結果を踏まえた。以上の作業をもとに,旧集落の屋敷の位置と,それに対応する現集落の屋敷の位置を直線で結び,移動の方向と距離を示した。
 また,文献資料によって,集落移転の具体的な様子を調査した。ここで使用した文献資料は,地元に残る諸記録およびアジア歴史資料センター(防衛省防衛研究所)所蔵の記録などである。これらの文献資料などから,主に時系列的にみた集落移転の進み方を確認し,移転時および移転後の状況をまとめた。

_III_ 結果の概要
 旧集落から現集落への集落移転は,塊村の状態のまま陸軍によって買収されたラインに接する場所へ行われた。そして,旧集落から現集落への屋敷の空間的な移動には,特に規則性のないことがわかった。現集落内には,移転後に組織された「瀬古」と呼ばれる地縁組織が6つある。その瀬古ごとに移転元の分布を調べると,旧集落内の全域におよぶことがわかった。
 また,文献資料をみると,1905年9月17日の移転命令発令以前に買収協議はほぼ完了していた。移転先の現集落は,それぞれ個人が所有していた畑に屋敷を造成したパターンがほとんどであり,そこに畑を所有していなかった場合には,換地を行って屋敷用地を確保しておく時間的な余裕もあった。
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© 2009 人文地理学会
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