人文地理学会大会 研究発表要旨
2011年 人文地理学会大会
セッションID: 406
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第4会場
近代京都GISデータベースを用いた土地利用・所有の比較分析
*赤石 直美瀬戸 寿一矢野 桂司福島 幸宏
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抄録
1.はじめに
本発表の目的は,『京都市明細図』をはじめとした,京都の近代資料のGISデータベースの構築と,その活用について検討することである。
立命館大学では,アート・リサーチセンターが中心となり,文部科学省21世紀COEプログラム(2002~2006)とグローバルCOE プログラム(2007~2011)の2つのCOEプログラムを展開してきた。そのなかの一である「バーチャル京都」プロジェクトは,特に歴史都市京都を対象とする歴史GISを実践するものである(矢野ほか,2007;矢野ほか,2011)。本プロジェクトは,京都に関するあらゆる地理空間情報を収集し,GIS化することを基本理念としている。今後はそれぞれの資料批判を展開しつつも,いくつかのデータを比較し,近代京都の都市構造やその歴史的特徴についても踏み込んでいく必要がある。本発表では現在構築中の『京都市明細図』のGISデータベースについて紹介するとともに,これまで本プロジェクトにおいて構築されてきた近代京都のGISデータベースを利用して,近代京都の土地利用と土地所有の関係性について言及する。

2.『京都市明細図』のGISデータベース構築
『京都市明細図』は京都府立総合資料館が所蔵する地図資料であり,2010年12月から公開されている。当地図は,1927(昭和2)年に刊行され、後の1951(昭和26)年頃まで加筆・訂正されている。また,製作は大日本聯合火災協会であることから,いわゆる火災保険図としての利用を目的として作製されたようであり,個々の建物の形状や階数,その用途,詳細な業種まで記されている。よって、明細図に記された詳細な情報を分析すれば,近代末期から第2次世界大戦後の京都の景観的特徴が示されると考えられる。立命大学アート・リサーチセンターでは京都府立総合資料館と連携し,『京都市明細図』のGIS化に取り組んだ。

3.『京都市明細図』にみられる土地利用の特徴
データベースの構築を進めるなかで、『京都市明細図』における様々な記載内容が明らかになってきた。建物の形状や住宅や工場といった区別のほか,特徴的なのが京都の伝統産業に関る記載である。ここでは,友禅染や西陣織といった染織関係の建物の分布について取り上げたい。『京都市明細図』における染織に関わる記述としては,「織」や「織物工場」,「織問」,「友禅染」,「友仙工場」などが例として挙げられる。そこで,それらのポイントデータを作成し,その分布特性を検討した。その結果,既存の成果でいわれてきたように,戦後直後頃の京都では,染関係は堀川五条周辺に広く分布していることがわかる。また,一乗寺の辺りにも染工場とサラシ工場が分布している。一方,織物関係は,問屋街は室町三条周辺であるが,職人の住まいや工場はいわゆる西陣周辺であり,北は北大路を越え,大徳寺や北山通周辺まで広がっていた。

4.『京都地籍図』との比較
上記のような染織関係業者の分布の特徴について,土地所有との関係を考察してみたい。「バーチャル京都」プロジェクトにおいてGISデータベース化されている『京都地籍図』を活用することとした。大正元年に刊行された『京都地籍図』と昭和2年から戦後にかけて作成された『京都市明細図』とでは作成時期にかなりの年差がある。それでも,個別の地籍図が接合された『京都地籍図』を利用すれば,近代京都の一時期における土地割の特徴について概観することができる。両図を重ね合わせた結果,京都市の中心部では土地割と建物とがほぼ重なる場合が多かった。一方,周辺部では,一つの土地割の中に多数の建物が記載されており,周辺部における借家の分布が推測された。その点に関する詳細な分析が今後は必要であろう。

5.おわりに
本研究では,『バーチャル京都』プロジェクトの一部として作成されつつある『京都市明細図』のGISデータベース構築について述べるとともに,それら近代京都のGISデータベースを活用した分析について検討した。これまで近代京都については,主に都市史の分野で多くの研究蓄積がみられるが,それらは町毎,あるいは通り毎といった非常にミクロなレベルでの分析が多かった。それに対し,資料のデータベースを構築し,それを用いた比較分析を行うことで,全体像を踏まえつつ,都市の部分的な検討も可能となってくるであろう。全体と個別といった対象範囲を自在に変える手法は,地理学の得意とするところである。GISデータベースの構築はその基盤となるものであり,今後はそれを活かした歴史研究の展開が期待される。
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© 2011 人文地理学会
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