抄録
日本において,日本人と外国人移民との社会統合を目指した「多文化共生」政策が推進されてきたものの,日本人住民の意識に対する関心は薄かった。本研究の目的は,「多文化共生」に対する日本人住民の意識のちがいについて,特に地域の歴史に由来する要因にも焦点を当てて分析することにある。四日市市の日系ブラジル人集住地区において実施したアンケートから,外国人住民の受け容れに寛容な姿勢は住民による社会関係形成の度合(日本人とも,ブラジル人とも)と結びついていることが明らかになった。それに対し,年齢や学歴による受け容れ姿勢への影響は有意ではなかった。これらの意識の違いは,地域の歴史,とりわけ一戸建て(持ち家)・県営住宅・UR住宅という住宅の種別に由来している部分がある。すなわち,一戸建ての住民は,居住期間が長期にわたり社会関係は濃密であるものの,日系ブラジル人の支援については相対的に積極的でない。これは,ほとんどが賃貸住宅に居住しているブラジル人との接触の機会が少ないためと考えられる。UR住宅の人々も同様に消極的だが,これは,外国人との接触はある反面,居住期間が短いため地域での社会関係が進んでいないことに由来する。これらの2種別に対し,県営住宅ではブラジル人とのネットワーク形成があり,受け容れにも積極的な意見が多い。県営住宅では外国人世帯も含め全ての住民が自治会への入会を義務づけられていることが影響していると考えられる。